第3話 全能神は寝すぎました
この緑は血液だよな……。
グロすぎる……。
今までのアイゴットじゃ、ありえないほどリアルな表現だ。
オークの軍勢はナベべの屍を越えて向かってきた。
「考えるのは後にしよう」
巨大な閃光がナベベたちを包み込む。
「
ドンッ!
全能神の破壊光線だ。
血液が出ないように消滅させる。
光が消えた時には、土が抉れた道しかなかった。
千匹はいただろうオークの軍勢は一瞬にして消滅したのだ。
ふむ。
この戦法はグロくなくていいな。
「す、凄い……」
少女は抉れた道を見て呆然としていた。
彼女は美しい容姿だった。
風に揺れるのは黄金色の長髪。
ブルーサファイヤのような瞳。
透き通るような白い肌。
華奢な体に大きな胸がプルルンと揺れていた。
ふむ。
この世界で、こんな美少女には初めて会ったな。
俺が創ってないってことは運営の用意したNPCか。
見た目とは裏腹に貧相な服装が残念だが、どこかの村人だろうか?
運営め。こんな美少女をモブキャラにしているなんて残念すぎるだろ。
「そこの者。ここがどこだか教えてくれないか?」
「あ、はい……!?」
少女は俺の股間を凝視した後に顔を覆った。
「きゃああああああああああ!!」
「な、何を叫んでいるんだ……?」
と、ハッとする。
俺は全裸だったのだ。
「ぬおぉおおッ!! そういえば裸だったーー!」
とにかく服を作ろう。
俺は周囲の草木を利用して緑色の服を作った。
物質の再構築は全能神の得意技なのだ。
「さっきは失礼したな。ここはどこなんだ?」
「ロントモアーズの森です」
「ロントモアーズって国?」
「ええ。ここはロントモアーズ領です」
ほぉ。
どうやら、俺がマグマの中で眠っている間に地上に王国が誕生しているみたいだな。
俺がいないとなれば、統率者は誰だ?
側近の創造神ヴィシュヌバールくらいしか考えられんが……。
「領主は誰だい?」
「アルガラ国王ですね」
ふーーむ。
聞いたことのないキャラだな。
「さっきは助けてくれてありがとうございました。私はサリィナ・ホワーグといいます」
名前がある?
「君はメインキャラなのか?」
「メ、メインキャラ? なんですかそれ?」
これはイベントの発生だろうか?
運営のサービスが終了しているゲームで新しいイベントだと?
わからないことだらけだな。
「ステータスオープン!」
俺は空中に自分の情報を出した。
これでプレイ時間がわかるんだ。
【プレイ時間】
1億年2ヶ月4日。
12時45分36秒。
はい?
い……。
い……。
「1億年だとぉおおおおおおおお!?」
ふぉおおおお!
俺はこのゲームを1億年もプレイしたことになってるぅううう!!
つまり、マグマの中で1億年も眠っていたのか!!
さっきオークが言っていたことは聞き間違いじゃなかったんだ。
実際のプレイ時間は1500時間。
バグだ。
完全に狂ってる。
そもそも、配信が終了したゲームをオンライでやれるのだから、おかしいとは思っていた。
ゲームの世界が暴走して独自に進化しているんだ!
「ど、どうされたんですか急に? 先程の戦いで怪我でもされたんですか?」
怪我なんかするものか!
俺は彼女の腕を掴んで、プレイ時間を見せつけた。
「見てくれよこれ! 1億年もプレイしてるんだって!!」
「え? え? な、何を見るのですか??」
「あ、そうか……。ゲームキャラにステータス画面なんて見えないんだった……」
と思った瞬間、青ざめる。
プニッとした肉感があるのだ。
それは、か細い彼女の腕の触感だった。
「え……。お、俺……。触っている。触ってるよね?」
プニプニ……。
「あ、ちょ、ちょっとやめてください」
俺はその手を離して、今度は彼女のほっぺを引っ張った。
ビニョーーン。
「やめれくらしゃい!」
さ、触れるぞ。
ゲームキャラの体に触れる。
俺の指は彼女の喉を通り、鎖骨を過ぎようとしていた。
その下は魅惑の……。
「きゃあああッ!! な、何するんですか!?」
サリィナは離れた。
寸でのところで触れなかったが、もう少しで可能だった。
お、おっぱいを触れるところだったぞ……。
「そ、そんなバカな……」
このゲームのレーティングは12歳以上なんだ。
過度の刺激的表現は規制対象。
異性の体に触れることはできない。
全能神の俺であっても部下の体には触れなかったんだ。
それが……。
「さ、触れる……。触れるぞ」
ヒャッホーーーー!
バグ万歳!!
レーティングの規制がぶっ壊れているんだ!
美少女に触れるぞぉおおお!!
だから、魔族の血液がリアルだったのか!
「グフフ……触り放題だ……」
「ヒィイイイッ!!」
と、彼女の悲鳴で我に返る。
「あ、ごめん! そんなつもりじゃなかった!」
そう、エロい気持ちは少ししかなかったんだ。
今はそれより謎の解明が先決だよな。
あの運営の警告文といい。
この現象といい。間違いなくバグが起こっている。
俺はこの世界から戻れなくなって、しかも、リアルに体感できるようになっているんだ。
これは最高の環境だと言っていいだろう。
なにしろ、俺は全能神の力を持ったままなんだからな。
「……わ、私の方こそ、大きな声を出してごめんなさい」
彼女、生々しいな。
まるで本当に生きているみたいだ。
「君……。
感情が豊かすぎる。
ヴィシュヌが創る
無機質ってほどでもないけど、話す内容が決まっていて、予定調和な感じなんだよな。
「あ、あらんです? ってなんですか?」
「君は
「わ、私は人間です」
「に、人間だと!?」
このゲームには人間なんて存在しないのに……。
1億年の間で人類が誕生したのか?
「き、君は本当に人間なのか!?」
「え、ええ……。あなたと同じ人間ですよ」
「いや……」
俺は全能神だ。
さっきの力は紛れもない。
「私はサリィナ・ホワーグ。全能神によって生を受けた、紛れもない人間ですよ」
「え?」
全能神によって生を受けた??
いや、それはおかしいんだ。
俺が創るのは
「あなたは命の恩人です。お名前を教えていただけますか?」
「ゼクスアラード」
「まぁ、そんな冗談はいけませんよ。崇高な全能神とお名前が一緒だなんて失礼がすぎます。全能神ゼクスアラードはこの世界を創った神なんですから」
いや。
それが俺なんだってばさ。
しかし、言ってもわからないだろう。
彼女は人間で、この世界は俺によって創られたことになっている。
俺が神と言っても通じまい。
「じゃあ、シンジ・オダー、で頼む」
「シンジさんですね。素敵なお名前です」
彼女は山菜を採りに森に入ったらしい。
その途中で魔物に襲われたのだ。
「本当にありがとうございます! あなたに命を救われました」
「……いや。大したことじゃないよ」
雑魚敵だったしな。
しかも、たった千匹程度だ。
「そんなご謙遜を! あんなに大勢の魔物を一瞬で葬り去るだなんて、この国はあなたに救われましたよ!」
「ははは。大袈裟な」
「何かお礼をさせてください! お腹は空いていませんか?」
「…………」
そういえば空いてる。
アイゴットの世界では腹なんか空かないのに……。
五感がしっかりと働いている。
思い返せば、ログインした時は土の臭いを感じていたな。
これもバグの影響か。
俺が1億年眠っている間に人類が誕生して、しかも俺を崇めている。
レーティング規制はぶっ壊れてやり放題。
そんな世界をリアルで体験できるなんてな。
この世界は最高だ!
俺は本当に全能神になったんだ!
「大したもてなしはできませんが、是非、ご馳走をさせてください!」
「じゃあ、甘えようかな」
丁度いい。
この世界のことを教えてもらおう。
俺たちはサリィナの家へと向かった。
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