第2話 全能神は違和感を感じます

 なんだこれ?

 こんな文章、初めて見たぞ?



『意識が現実世界に戻らないことがあります』


『ログインしますか?』



《 YES 》 or 《 NO 》




 ログインはできるのか……。

 おかしな現象だな。

 危険ならログインできないようにすればいいのに……。


 でも、渡りに船かもしれない。


 コンソール越しに聞こえてくるのは母親の声だった。


「ああん♡ もっとぉお!!」


 そうだ、俺にはこの世界しかないんだ!


 意識が戻れなくたって構うもんか。


 こんな現実世界、自分から捨ててやる!



「YESだ!」



キュィイイイイイイイイイン……。


 

 静かな起動音と共に、俺の意識は落ちていった。



 ──暗い……。


 

 なんだここ、暗いぞ?



 真っ暗で何も見えない!!


 アイゴットは明るい天界の世界観なんだ。

 俺が創った最高に美しい世界。


 それが暗闇だとぉ!?


 もしかして、サービスが終了したからこの状況なのか?


 流石にこれはない!!



「ログアウト! ログアウトだぁああ!!」



 しかし、反応はなかった。



「マジかよ!?」



 本来ならばログアウト宣言で直ぐに現実世界に戻れるのに……。


「終わった……」


 詰んだ……。


 こんな暗闇の世界で一生過ごすことになるのかよ……。


 あんまりだ……。


「うう……」


 良いことなんて一つもなかった。


「ううう……」


 それなのに、それなのに……。


 気持ちは爆発した。




「うわぁああああああああああああッ!!」




 と、同時に辺りが崩れるのがわかった。



「え? 崩れる?? そういえばこの匂い」



 土だ。


 俺は土の中にいるのか!


 力を込めて飛び上がる。


「おりゃ!」




ドンッ!!




 俺は地面から飛び出して、宙に浮かんだ。

 その高さ、地上から50メートルはあるだろう。



「良かった! 外の世界があったんだ!!」



 見えるのは広大な森。


 俺は埋まっていたのか……。


「そうか! 俺は魔神シバを倒した後、マグマに落ちて眠ってしまったんだ!」


 今回はその続きか。


 マグマの中に突っ込んだから冷えて固まったんだな。


 マグマは固まり大地になった……。


 でも、地上のマグマは運営が拡張させてなかっただけなんだよな。

 こんな森、俺は創ってないし、どうしてできているんだろう?


 サービスの終わったゲームで拡張されるなんてどう考えたっておかしい。

 この森の正体を知る必要があるな。


 それに、この痣はなんだろう?

 

 手の平には真っ黒い痣が見えた。

 それは俺の全身に、まるで稲妻でも落ちたかのように付いていた。


 魔神シバの力に包み込まれたから、その影響かもしれない。


 しかも、俺、裸だな……。


 まずは着る服を作ろうか、


 と思うや否や。




「きゃぁああああああああああああッ!!」




 女の悲鳴か。


 よし、行ってみよう。

 

 俺は空を飛び、声のする方へと向かった。





『グヘヘ! お嬢ちゃん。見ちまったもんは仕方ねぇな。我が名はナベベ。我らはオークの軍勢よ。お前の国はおしまいさ。ゲヘヘ』


 大きな豚の魔族らが、1人の少女に詰め寄っていた。

 

 あれはオークだな。


 オークの数は千匹はいるだろうか。

 ナベベと名乗った先頭に立つ奴は、きっとリーダーなのだろう。


 4メートルを超える体高で、強固な鎧を身につけ、鋭い斧を構えていた。


 それにしても変わったデザインのオークだな。

 見たことのないタイプだぞ。


 魔族がいるということは、まだ魔神シバが生きているのか?


 どれくらい時が経っているのだろう?

 このゲームはログインしている時間が世界の経過時間なんだ。

 つまり、今はシバとの戦いの後。

 マグマの中で眠っていたとしても、そんなに時間は経ってないはずなんだ。


 とりあえず、青空が広がって日が差しているから俺の軍が勝ったんだ。

 そうなると、このオークはシバの残党か。


「丁度、良かった! ちょっと教えて欲しいんだ。シバはどうなった?」


『な、なんだテメェは!?』


 俺を知らない?


「敵側の総大将を知らないのか? シバはどういう教育をしているんだ?」


『我らは魔王グフター様の軍勢よ!』


 魔王グフター?

 知らないキャラだな。

 それに、このゲームには魔王なんていないはずだが?


「俺は魔神シバの生死を聞いているんだぞ?」


『魔神シバ様は歴史上の存在よ。我らの始祖は1億年前に滅びた。そんなことも知らんのか?』


 何……!?


「い、1億年前だと?」


 聞き間違いか?


『お前はバカか? 今の世を統治されているのは魔王グフター様よ』


「グフターなんて、聞いたこともない名前だな」


『グハハ! この世界の支配者を知らんとは、愚か者の阿呆が! 死ぬがいい!!』


 ナベベは巨大な斧を俺に向かって振り下ろした。


 あんな大きな斧攻撃、リアルな世界なら骨まで粉砕されて即死だろうな。


「逃げてぇえええ!!」


 それは女の悲鳴だった。


 心配ありがとう。

 でも、逃げる選択肢はないんだよな。


 と俺は片手を軽く上げた。



ガキンッ!!



 巨大な斧は俺の腕と接触して粉砕する。


『ゲッ!? 俺の斧がぁあ!?』


 痛みさえ感じない。

 なんなら少し気持ちいいくらいだ。


「相手を知らずに攻撃するからこうなるんだ」


『こ、このぉお! 殺せ殺せぇええええ!!』


 オークの軍勢は俺に向かってきた。


 やれやれ。

 

 俺は軽く飛び上がり、ナベベの首に回し蹴りを入れた。



「ほい」


 

 首はグワシャァッ! と音を立てて粉砕した。

 その首からは緑の血液が噴水のように吹き上がる。



プシューーーーー!!



 っておいおい。

 おかしいぞ。

 このゲームのレーティングは12歳以上なんだ。

 過度なバイオレンス表現は規制されているはず。魔族の体から血液が出るなんてありえないんだけど?

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