全能神の俺、1億年眠ってました〜神々の戦いが終結したら、いつの間にか人類が誕生して俺を崇めているようです。V Rゲームが現実になったようなので、そのまま頂点に君臨させていただきます〜
神伊 咲児
第1話 全能神は不遇です
俺は全能神ゼクスアラード。
この星の頂点に立つ、全能の神だ。
地上はマグマで構成されており、我々は天上で優雅に暮らしていた。
勿論、その世界は全て俺が創ったんだ。
美しい宮殿も、部下である
俺の側近、創造神ヴィシュヌバールなんて、最高に美人なんだ。
従順で賢くて、とびきりおっぱいがデカイ。
俺は全能神だから、そんな部下は創り放題さ。
側近は全て美少女で固めている。みんなは俺を慕い、平和な世界が築けていた。
それが2ヶ月ほど続いたのだけど。
ついぞ、1ヶ月前だろうか。
この星に、敵が現れた。
魔神シバ。
青い肌と、厳つい角を持った男。
鋭い目つき。銀色の長髪。甲冑に身を包み、大きな槍を持っていた。
シバは俺に戦いを挑み、星の専有権を奪おうとした。
丁度いい。
退屈していたところだったからな。
俺はシバの挑戦に挑み、全能神の軍団を率いて戦った。
互いの軍勢は1億を超える。
それが雲の上を飛び、互いの能力を交錯させるのだから、中々に派手な戦いだ。
そんな戦いが1ヶ月以上続いた。
正直……。
飽きた。
やはり、平和が一番だ。あとハーレム。
「なぁ、シバ。そろそろ終わりにしないか?」
俺の聖剣と奴の槍が衝突すると、天空に稲光が走った。
100万を超える兵は吹っ飛び、豪風が吹き荒れる。
雲の上には俺と、シバだけが残った。
彼の青い肌が真っ白になるほど、バチバチと稲妻が発生する。
「貴様が死ねば終わりになるさ。ゼクスアラード!」
「そう言うなよ。協定を結ぶって方法もあるさ」
「ふん……。それはない! 私の目的はお前を殺すことだ!」
やれやれ。
俺が殺されれば、この世は薄暗い暗黒の世界になるだろう。
そんな陰気な世界は願い下げだ。
朝か夜かもわからなくなるんだぞ。みんな困るに決まっている。
仕方がない。
「フルパワーでやろう」
俺の全身は力が満ちた。
光のオーラを身に纏う。
シバは汗を流しながらも、期待しているように笑った。
「ハ、ハハハ……。この時を待っていたぞ」
彼も力を込めた。
漆黒のオーラが全身を包み込む。
それは感じたことのない強大な力。
互いにフルパワーなのだ。
俺の聖剣の一撃が、この星にどれほどのダメージを与えるかわからない。
それは、彼も同じことだろう。
2つの力が衝突した時。
星が消滅してしまうかもしれない。
だから、今までフルパワーは出さなかった。
しかし、この戦いを終わらせるには、やるしかないのだ。
「シバ。すまない。最後だ」
「それはこちらのセリフだ! 死ねゼクスアラード!!」
きっと、わかっていた結果なのかもしれない。
だから、俺はフルパワーではやらなかった。
戦いを楽しんでいる自分がいたのだ。
俺の力はシバを大きく上回っていた。
漆黒のオーラを、光の力で駆逐する。
俺の一撃は彼の体を切り裂いた。
「ぎゃぁあああああああッ!!」
終わった……。
と思いきや。
切り裂かれたシバの体から暗黒のオーラが溢れ出し、俺を包み込んだ。
ぬっ!
「いかん!」
吹き飛ばしたいが、力が足りん!
フルパワーの代償か。
俺は暗黒のオーラに力を奪われ落下した。
凄まじい速度で落下する。
視界は暗闇に覆われ、状況が読めない。
ボチャン……。
と、急に落下速度は落ち着いた。
この熱さは……マグマだ。
俺は地上に落ちたのか……。
いかん……。
意識が遠のく……。
俺の体がマグマ程度で消滅するとは思えんが……。
シバのオーラの影響がある。
死ぬのか?
いや、これは睡魔だ。
めちゃくちゃ眠い。
あの暗黒のオーラの影響か。
ダメだ……。
もう……。
何も……。
考えられない……。
…………。
ちょっと……。
寝よう。
ちょっとだけ……。
「は!?」
と目を覚ました時。
俺はベッドから飛び起きた。
時計を見ると、深夜の1時を過ぎている。
「なんだよ。あれ? バグじゃん! 俺は無敵の全能神なのにさ!!」
そう言って、頭に被ったコンソールを外した。
俺は現実世界に戻ってきたのだ。
どうしようもない自分の世界に。
俺の名前は小田 神司。
16歳の高校1年生だ。
さっきやっていたのは
アイゴッド。
総プレイ時間は1500を超える。
もう続編のアイゴットアフターが出ていて、それは多人数でやるタイプなのだが、この1作目は1人だけで楽しむゲームなんだ。
メーカーはオンラインでサービスを提供する仕組み。あと1年はサービスを続けるみたいだからな。バグなんてクレームもんなんだ。
それにしても、
「魔神シバと俺の戦いは胸熱だったな……」
1ヶ月も続く戦い。
プレイ時間の半分はアイツと戦っていたからなぁ。
結局、俺は負けたのかな?
このイベントの続きが気になる。
シバを倒した映像は見えていたから、魔神軍は滅んでいると思うけど……。
「もう一度ログインしてみるか……」
バグの件も確かめたいしな。
と、コンソールを被ろうとした時である。
「あん、ああん♡」
隣の部屋から女の声が聞こえてきた。
ギシギシとベッドが軋む。
ああ……。
これはラッキーイベントではないんだ。
本当に残念だが、まったく、微塵も、嬉しくない。
俺は壁をドン! と叩いて、
「いいかげんにしろ!!」
と、叫んだ。
そしたら返事が返ってきた。
「この家は私が金を出して買ったんだ! あんたが外へ出てろ!!」
これが俺の母親である。
「はぁ……」
とてもゲームの続きをやる気になれない。
水商売をしている母さんは、また新しい男を家に連れ込んだのだ。
バツ2の母。
俺の本当の父親は、母さんの初婚相手だった。
酒、ギャンブル、浮気、なんでもする男で、中でも酷かったのが暴力だ。
自分より弱い者にはとことん暴力を振るった。
勿論、俺と母親もその犠牲に遭い、いっぱい殴られた。
奴に付けられた、手の甲についたタバコの火傷は一生消えないだろう。
そんな男に懲りた母は離婚を決意。
次の父親はマシになるかと思ったが、そいつも暴力を振るう奴だった。
結局、また離婚するのだが、母親がアホだと気がついたのはその時だ。
連れてくる男にロクなのがいない。
どうして学習しないのか。
きっと今の彼氏もくだらない男なのだろう。
息子がいる隣りの部屋でセックスするかよ? イカれてる。
親ガチャにハズレた。
俺の人生は終わっている。
父親の暴力。
価値観の狂った母親。
こんな俺が真っ当な対人関係を築けるわけもなく。
友達なんか1人もいない。
ネット世界でだって、どうにもおかしな空気になってしまう。
文章の会話でも、なぜだか上手くいかないんだ。
別に敬語だって使えるし、上辺だけの会話ならいくらでもできる。
でも、疲れるんだ。
気を使いすぎて、自分が嫌になる。
だから、1人用のV Rのゲームを楽しんでいる。
ゲームのキャラなら気を使わなくていいからな。
これが唯一無二。俺の世界だ。
このゲームさえあれば、別に寂しくなんかないさ。
本当に、現実は終わっているんだから。
学校にいけば、虐めを受ける。
上履きが濡れていたり、俺の机だけ、その上に椅子が乗っていたりする。
クラスのみんなはそれを見てクスクス笑うんだ。
怒るなんてできないさ。
俺は苦笑いでその場を濁すだけ。
みんなはそれぞれグループを作っていて、ゲームとか漫画の話を楽しそうにしている。ゲームはもっぱら続編のアイゴットアフターの話で持ちきりだ。
俺の大好きなゲームの続編。
興味がない、と言ったら嘘になる。
本当は、みんなとゲームがやってみたいんだ。
ゆ、勇気を出して、聞いてみよう。
え、笑顔で話すんだ。
「ぞ、続編って面白い? へ、へへへ……」
「はぁ〜〜?」
と、答えたの海城である。
みんなに聞いたはずなんだがな。
彼は、クラスでも俺のいじめを率先して楽しんでる男だ。
そんな奴が答える。
「面白いかどうかなんて、やればわかるじゃん」
「み、みんなでパーティー組むゲームなんだろ? へへへ」
「一人でも楽しめるって! 魔物とか仲間にしてさ! ぎゃはは!」
「そ、そうか……。ま、魔物を仲間にね。お、面白そうだな。ははは」
海城は目を細めた。
「よぉし! 今日も帰ったらみんなでアイゴットアフターやろうぜぇ!」
そう言って背伸びをすると、その拳は俺の鼻を直撃した。
ガンッ!!
「痛ッ!」
ツーーっと鼻血が流れる。
「なんだ。居たのか。俺の手が当たったじゃないか。邪魔」
うう……。
俺がその場を離れると、遠くから声が聞こえた。
「小田って気持ち悪いよな」
「アイゴットアフターやるのかな? 見つけたら全力でぶっ殺そうぜ」
「仲間になんか入れないわよ。プクク」
鼻血はダラダラと流れる。
教室に俺の居場所なんてない。
現実世界でも……。
「あん♡ もっとぉおお!!」
ざけんな!
クソ親がぁああ!!
「うう……」
俺にはこのゲームしか居場所がないんだ。
そうだ。
あのバグはどうなってんだろう?
俺はパソコンを立ち上げてメーカーのホームページを見た。
「は……。マ、マジか?」
う、嘘だろ?
信じられない……。
そこにはアイゴットのサービス終了報告が書かれていたのだ。
「1年って言ってたじゃないかよぉお!! ふざけんなぁああッ!!」
諸事情により、と文章には添えられていたが、そんなことは関係ない。
どんな理由であれ、俺の世界を奪うなんて許せないのだ。
「じゃあ、俺がマグマに入って寝てしまったのはこれが原因かぁあ? そんなぁ……」
その文には、2日前にサービスが終わったことが書かれていた。
「一昨日だと? 昨日もログインしていたし、今日だって時間を過ぎてもログインできていたぞ?」
気が気でならなかった。
ただ、俺の世界が無くなる恐怖しかなかった。
急いでコンソールを頭に被る。
確かめよう!
「ログインだ!」
警告文が現れた。
【警告】
『意識が現実世界に戻らないことがあります』
な、なんだこれ……。
と、その文章をタップすると、次の項目が現れた。
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