第一部:練恋契約
第一章:嫌い同士で恋人のフリをするメリットを答えよ
Lesson.1
『嫌いな人』--頭に浮かべた際に一人位は出てくるんじゃないだろうか。
かく言う俺、
小さい頃から我儘で暴君でガキ大将みたいにうるさくて明るくて、それでいて傲慢で。幾度となく幼馴染だからという理由で巻き込まれてきた。
そしてそれは今も変わらない。
高校二年になって、新たな環境に適応してきたある日の休日。
俺は夏歌に呼び出されて、彼女の部屋にいた。
「で?俺の貴重な時間を奪ってまで、部屋まで拉致ってきた理由は?」
机を挟んだ奥に座る夏歌に尋ねる。普段とは違った深刻そうな様子から只事では無いのだろうと思っていた頃もあったが、コイツが深刻そうな時は基本しょうもない事だ。ただ、一応聞く姿勢をしなければ、コイツはとにかく泣く。そしてしつこい。
「ふっ、よくぞ聞いてくれたね。
「・・・帰るわ。またな」
「ちょ、待ってよ!ねえ!青ぉぉおおおおお!!聞いてよおおお!真面目に話すからぁぁぁぁぁ一!?」
アホらしい芝居がかった話し方にイラッとした俺は部屋を出ていこうと立ち上がったタイミングで、夏歌が即座に机に飛び乗り、泣き喚きながらしがみついてきた。
「はぁ…。分かったから離せ、バカ夏」
しがみついたまま離してくれない夏歌を無理矢理引き剥がして、ため息をつく。
「ぐすっ…。ふん!分かればいいのよ、分かれば!まったく青はダメダメなんだから!」
「・・・さっきまで泣いてた癖に切り替えの早いことで」
「な、泣いてないわよ!バーカ!バーカ!そんなんだから一度も付き合ったことがないのよ!」
「はっ。そういうお前も恋愛のレの字も味わった事ねえだろ」
互いに特大ブーメランを投げ合うこと数分。
「はぁ…はぁ…。そろそろ本題に入ってくれ…まじで…」
「そ、そうね…。でも、元とは言えばアンタが…いえ、もういいわ…。私が青を拉致した理由…それは--」
「それは?」
頭を切り替えて、夏歌の話に耳を傾ける。
「私と付き合いなさい、青」
「・・・え?嫌だけど?」
「・・・は?何でよ?」
「なんでって、そりゃ昔も今も変わらずお前はガキ大将みたいなもんだし、そもそもの話が恋愛対象としてお前を意識したことは一度もないからだ」
嫌な目にあってきた事で夏歌を今更、恋愛の対象として見るのは無理な話だ。それに、コイツと付き合うメリットが存在しない。嫌いな奴と付き合うのは拷問としか思えない。
「あー、そういうこと。ごめんごめん、勘違いさせたみたいね」
「・・・勘違い?」
「そう、勘違い。私も青の事を恋愛対象として見たことないし、どう考えても私と釣り合う要素ゼロじゃない」
どこからその自信が湧いてくるんだって位に自意識過剰の夏歌の発言にストレスが蓄積されていく。
「じゃあ、その付き合え発言にはどういう意味があったんだ?」
「それはまぁ、私たちって高校二年生じゃない?だけど、未だに恋愛したことが無い。そんなのって人生つまらないと思わない?」
「恋愛したいなら適当にそこらの男に告白しときゃいんじゃねえの?」
「そんなヤリ○ンみたいな女と私を一緒にするな!私以外に言ってたら生涯童貞確定案件だぞ!馬鹿者!」
最低発言だとは思うが、興味もないのだから仕方ない。それに女友達のいない俺が夏歌以外にその発言をできるわけも無い。
「あー、はいはい。悪かったよ。まぁ、よく分からないけど、つまらないだろうな」
「やれやれ、アンタと違って、私は恋に焦がれる乙女なの。だけど恋愛ってしたくてもできるようなものでもない。そ・こ・で!私の恋愛の練習台になってもらいたいのよ」
「なんで俺が練習台なんぞにならなきゃいけねえんだ。メリットを提示しろ、メリットを」
「メリットならあるじゃん。この超絶美少女幼馴染と嘘とはいえ恋人関係を味わえるんだよ?それって全裸で外出する位の歓喜ものじゃない?」
夏歌は胸を張って答える。 悪いが俺からしたらメリットではなくデメリットでしかない。嫌いな奴と恋人関係?フリだと言われても無理だ。
「それがメリットってんなら、この話は断らせてもらう」
「断るってのは無駄よ?」
「・・・なんでだよ?」
「え?もうアンタの両親に報告しちゃったし」
夏歌はそう言うと机に置かれたスマホを手に取り、操作する。そして一つの再生ファイルを流した。
『
『深刻そうな顔してどうしたんだい?夏ちゃん?』
『あら、どうかしたの? 夏ちゃん?』
夏歌の声の他に、父さんと母さんの声が聞こえてくる。
『実はですね…この度、
『おぉ!やっと青と夏ちゃんが!』
『あらあら、あの青がねぇ。ふふっ、今日は盛大にお祝いしないとですね』
それを最後に再生ファイルは終わった。どうやら外堀を埋められたらしい。
「おまっ・・・勝手に何してんだよ!?」
「というわけで、諦めて私の練習台になりたまえよ、青--ううん、ダーリン♡」
「・・・はぁ。やればいんだろ、やれば」
断った所で無駄なのは分かっていた。
「うんうん、素直でよろしい!私だってモテ要素ゼロで爽やかの一欠片も無い青の事は好きじゃないんだから、お互い様よ」
「一言余計だ、バカ夏」
こうして俺と夏歌は嘘とはいえ、恋人関係になった。
僕らは嫌い同士で恋人 雪鵠夕璃 @ASUJA
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