第15話

 鍛錬場から再びギルドの会議室に戻ってきた一行。そこでデイブがモレスビーで話をした様に自分達のことを話していく。


 黙って聞いていたホワイトタイガーのメンバー。デイブの話が終わると、


「その前にいたモスト大陸でもお前さん達はNO.1だったんだろう?」


「恐らくな。最後は敵がいなくなったんで行ったら2度と帰ってこられないという大陸中央部の山の奥まで相手を探しに行ったからな」


「そのランクSSSとかになるとこっちじゃ魔人の上位クラスになるのか?獣人ならもう2人の相手にはならないだろう」


 模擬戦を見ていた精霊士のバーンズが言った。彼は前衛ジョブではないがAクラスの冒険者として冒険者を見る目は持っている。その目を持ってしてもデイブとダンの剣捌きは見えなかった。そして最後に2人が撃った精霊魔法。どう見ても自分より威力が上だ。


「なのでダンと2人で獣人領に乗り込んで行こうかって話をしている。モレスビーで聞いたけど獣人が侵略してきて領土が取られているって言うじゃないか。黙って見てるってのは俺たちのポリシーに反するんでね」


 あっさりと言うデイブの言葉に聞いていた者は皆びっくりする。自分達から獣人領に乗り込んでいって敵を倒しまくるなんて発想はなかった。


「それにおそらくだけどこの国内じゃ俺達の鍛錬にならないと思うんだ。となると獣人領の奥に乗り込んで魔人とか言われている奴らを相手にした方が鍛錬になる。いくら雑魚を倒しても強くなれないからな」


 この街でもそうだ。ダンが話すと空気が変わる。口数は少ないが話す時は半端ない圧が出ている。当人は気づいていないがこれが強者のオーラなんだろう。


 プリンスはダンの言葉を聞きながら強者のオーラを感じ取っていた。


「お前ら2人なら乗り込んでいっても問題ないだろう。ダンジョンでもそこまで強い相手はいないだろうしな」


 ジョンが言う。ずっとやりとりを聞いていたギルマスのチャールストンはこの赤魔道士と暗黒剣士の2人が大陸の勢力図を根本から変えるかもしれない。それほどの実力者だと感じていた。


 話が途切れたところで


「とりあえずデイブとダン、お前さんらは今からAクラスだ。カードを貸してくれ、書き換える」


 そう言ってカードを受け取ると職員にAランクにする様に指示を出した。


「本来ならその上のSクラスでもいいくらいなんだがな」


「Aでいいよ。ランクなんて関係ないからな」


 ダンがあっさり言った。


「そうそう。モレスビーでも言ったけど。ランクで強くなる訳じゃないからな。鍛錬して強くなるもんだと思ってる。これは俺達が冒険者を始めた時からの考え方なんだ」


 デイブが言うと確かにその通りだなと頷くプリンス。

 新しいカードを受け取った時にギルマスからは王都にいたいだけいても良い。街を出ていく時に一声かけてくれと言って打ち合わせが終わった。


 その後はロビーにある酒場で他の冒険者も交えての飲み会になる。2人がAランクになったと聞いても鍛錬場で模擬戦を見た他の連中はどうやっても歯が立たない程の実力差を目の当たりにしていたからか何も不満を言わなかった。


「ところでさ」


 酒を飲んでいて話題が一区切りついたところでデイブが声を出した。なんだという表情をしてデイブを見るホワイトタイガーのメンバー。


「この大陸というか国に来てから違和感を感じているんだが、ダンも同じ様に違和感を感じているんだけどさ」


 そう言って国境を越えられて攻められてきているのに防衛を冒険者に任せて軍隊が出てこないこと。その軍隊も規模が縮小されていることなどを聞いたと言ったあとで、


「普通は逆だと思うんだよな。攻められているのなら軍隊を前に出して領土を奪い返すとかすると思うんだ。冒険者任せにしている理由が理解できない。それとあんた達が王都にいる理由もだ。普通高ランクならモレスビーの様な最前線の街で活動した方がずっと国とっても良いことなんじゃないか?」


 デイブが話す隣でダンも黙って頷いていた。話終わるとホワイトタイガーのリーダであるプリンスが口を開いた。


「お前さん達2人の言ってることは全くもって正しいんだよ。俺達が王都にいる理由は後で話すが俺達もそしてここ王都ギルドも何度も国には軍隊を出せと言っている。俺達だけじゃない普通の国民も皆その思いだ」


 ダンとデイブは黙って聞いていた。


「知っているかもしれんが今の国王はここ数年病に伏せて寝たきりらしい。王女がいるが今この国の政務は宰相が仕切っていて王女は政務については蚊帳の外らしい。その宰相が国境は冒険者に任せて軍隊は王都を守ることに専念すべきだと言ってるんだよ」


 そう言うと他のメンバーからも


「変な話だろう?」


 という声が出る。


「王都以外は獣人に取られても仕方ないって風に聞こえるな」


「デイブの言う通りだ。そして俺達が王都にいるのはギルマスに頼まれているからだよ」


「頼まれている?」


 デイブに聞かれたプリンスは仲間の顔を見てから言う。


「ギルドが掴んでいる情報では王城の内部では権力闘争の真っ最中らしい。その権力闘争とは王女を次の国王にする派と寝たきりの国王を存続させて引き続き宰相が政を進める派の2つだ。この国で内紛が起きる可能性もゼロじゃないと見てる。俺達は万が一の事態の際に先頭に立って王女を守れと言われているんだよ」


 聞いていたデイブとダンは呆れた表情になる。


「外から獣人が攻めて領土を毟り取っている時にお家騒動かよ」


「それでもやっぱりおかしい話だぜ、普通なら王家の血筋を優先して国王が寝たきりならその王女があとを注ぐべきだろう?」


 デイブが言ったあとにダンが言った。


「正論ではダンの言う通りだし国民の多くもダンと同じ思いだよ。ただ宰相ってのが相当力を持ってるみたいでなかなかそう簡単にはいかないって話らしい」


「じゃああんた達も王女派ということになるのか?」


 デイブが聞いた。


「今の宰相の方針だと冒険者は最前線で盾となって死んでこいということだ。冒険者ギルドや冒険者に取って納得できる方針じゃない。ということで俺達冒険者は皆王女派さ」


 プリンスの言葉に酒場にいた他の冒険者達も大きく頷いている。


「その宰相ってのが相当怪しいじゃないかよ」


 デイブの言葉に大きく頷くプリンス。すると隣にいた精霊士のバーンズが口を開いた。


「ちょうど地方に視察に出ていて明日の昼過ぎに王都に戻ってくるって話だ。ここの大通りを通って城に向かうのが普通だからその雰囲気は明日見たらわかると思うぜ」


 バーンズはそう言ってから毎回だけど相当仰々しい隊列で権力自慢をしながら市内を通って城に向かっているんだよと言った。


 その話を聞いた2人はとりあえず明日その様子を見てみるかと言うことにする。


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