第14話


「ギルマスが信じられないのはわかる。でもそれが事実なんだ。おれとダンに取ってはこっちのSクラスは雑魚と同じだとしか言えない」


 2人とも落ち着いている。仕草や表情から見る限り自分を強く見せたり嘘をついてる様には見えない。それよりも強い相手がいなくて本当に困っている様に見える。


 チャールストンはう〜んと唸り声を上げて


「とりあえず2人の実力を見たいんだがどうするかな」


「この街にもAクラスの冒険者がいるって聞いているが?」


「今は出ている。郊外のダンジョンに行ってるはずだがな、ちょっと待ってくれ」


 そう言ってギルマスが執務室の扉を開けて職員に声をかけた。


「ちょうど今戻ってきたらしい。彼らと模擬戦をしてもらおうか」


「こっちはOKだ」


 ギルマスは職員に声をかけると執務室の隣の会議室にこの王都所属のAクラスのパーティのメンバーに来る様に言った。そうして部屋にいる2人にも会議室に移動してくれという。


 ダンとデイブが会議室に入って間も無く5名の冒険者達が部屋に入ってきた。ナイト、戦士、狩人、精霊士、僧侶というオーソドックスな構成のパーティだ。


「どうしたんだよ?ギルマス?」


 先頭で入ってきた大柄な戦士の男が声を出した。他のメンバーはギルマスのそばにいる黒と赤のローブを着ている2人をじっと見ている。


(やっぱり大したことがない。マリアンヌクラスかそのちょっと上の程度だ)


 ダンは5人を見てすぐに彼らの戦闘能力を判断する。隣を見るとデイブも同じ様な表情をしていた。


「ダンジョンから戻ってきたところを悪いが、この2人と模擬戦をやってもらえないか?今日モレスビーからやってきた冒険者だ」


 そう紹介すると5人の視線が2人に注がれる。遠慮のない視線だが敵意はない。


「珍しい格好してるわね」


 2人を見ていた僧侶の女性が言った。このパーティは僧侶と狩人が女性だ。


「初めまして、俺はデイブ、こっちはダン。ちょっと訳ありでね。モレスビーからやってきたんだけどギルドマスターが俺達の力量を見たいって言っているんで相手をしてくれると助かるんだけど」


 明るい調子でデイブが言った。


(Aクラスの俺達と模擬戦するのをギルマスが勧めただと?こいつらはその実力があるってことなのか?)


「俺はプリンス、このパーティ、ホワイトタイガーのリーダをしている。ジョブはナイトだ」


 そう言ってプリンスがメンバーを紹介する。戦士はジョンという斧使いだ。狩人はステラ。そして精霊士がバーンズ、僧侶はシンディ。


「後で説明はするが俺は赤魔道士、ダンは暗黒剣士だ。こっちの大陸には無いジョブってことになってる」


「ん?どういうことだ?」


 デイブの話しを聞いてジョンが聞き返した。他のメンバーも訳がわからない顔をしている。


「後でしっかり説明してやる。まずは模擬戦だ。鍛錬場に行くぞ」


 ギルマスの言葉でホワイトタイガーの5人とノワール・ルージュそしてギルマスと職員らが事務所からその隣にある鍛錬場に移動していく。酒場を抜けて鍛錬場に移動していくとその酒場にいたBクラス以下の冒険者達が何事かと後をついて鍛錬場に向かって行った。


「ジョン、ナメるなよ。あいつら結構やるぞ」


 移動しながらプリンスが隣を歩くジョンに耳打ちする。


「ああ。俺にもわかってる。2人とも結構どころか相当やりそうだ」


 ジョンも2人が醸し出している雰囲気を感じ取っていた。こいつらはAクラスの獣人以上だな。間違いない。


 鍛錬場に着くとギルマスのチャールストンがダンとデイブに顔を向け


「どうやってやる?」


「模擬戦だし1対1でいいんじゃないかな?」


 デイブが答える


「となると」


 とギルマスが言うと


「こっちはジョンと俺だ」


 とナイトのプリンスが言った。ジョンが続けて


「プリンスはナイトをしてるが片手剣は半端ない」


「わかったじゃあ最初は俺がやろうか」


「じゃあ俺が相手になろう」


 デイブが言うとジョンが同じ様に言い、お互いに模擬刀を手に取る。デイブは模擬刀を2本手に持つと鍛錬場に来ていた他の冒険者から声があがった。ジョンは何も言わずに斧を手に持って鍛錬場の中央に出ると続いてデイブが中央に進み出た。


「模擬戦だ。剣を弾き飛ばされるか膝を着く、あるいは参ったと言うまでだ」


 ギルマスの声に頷く2人。


「あいつら相当やりそうな雰囲気だ」


 鍛錬場の隅で見ているホワイトタイガーのメンバー。精霊士のバーンズが言うと他の4人も頷く。


 ジョンが手に斧を持って構えるとギルマスがはじめ!と声を上げた。デイブはその場に立って動かない。


「じゃあ行かせてもらうぜ」


 そう言って斧を振り上げて向かっていったジョンだが次の瞬間にその斧が手から弾き飛ばされていた。


「勝負あり」


 ギルマスの声が鍛錬場に響く。周囲で見ていた連中は何が起こったのか分からない間にジョンの斧が弾き飛ばされていた。


(想像以上だ)

 

 審判をしていたチャールストンはジョンが向かって言ったその瞬間にデイブの右手が動いたかと思うと斧を弾き飛ばしていたのをかろうじて目で追っていた。


「なんてぇ速さだよ。見えなかったぜ。完敗だ」


 ジョンが飛ばされた斧を拾ってからデイブに握手を求めた。


「ここまでとはな」


「剣だと俺よりダンの方がずっと強いぞ」


 デイブが言った言葉を聞いて皆一斉にダンに視線を向ける。今のデイブの動きでも見えなかったのに黒のローブの男はそれよりも上だというのか。


「じゃあ次は俺が相手をしよう」


 そう言ってプリンスが前に出てくる。盾は自分の盾で剣だけ模擬刀を持った。ダンはデイブから渡された片手剣の模擬刀を両手に持つ。


「本気で行かせてもらう」


「どうぞ」


 プリンスの言葉に短く答えるダン。

 ギルマスのはじめ!の声で左手に盾を持っているプリンスがダンに向かってきた。そしてぶつかったと思った時にはプリンスの片手剣は弾き飛ばされ、プリンスは盾を持ったまま後方にぶっとばされた。


(俺にも見えなかった。一体どうなった)


 ぶつかったと思ったら大きく弾き飛ばされて鍛錬場に叩きつけられたプリンス。自分でもどうなったか分からないうちにぶちのめされていた。


 弾き飛ばしたプリンスに近づいて手を差し出すダン。すまないなと言ってその手を掴んで立ち上がると


「完敗とかいうレベルじゃないな。俺達じゃあ勝負にすらならない」


 と言った。


「ダン、今はどうなったのか教えてくれるか?俺にも見えなかった」


 ギルマスのチャールストンが言うと嘘だろう?ギルマスにも見えないってどんだけ鋭いんだよと言う声があちこちから上がる。


「デイブの動きはかろうじて見えた。見えただけだ。そしてダンのは全く見えなかった」


 ダンはギルマスの言葉を聞くと、


「突っ込んできたところを左手の片手剣で相手の片手剣を弾き飛ばすと同時に右手の片手剣を盾にこうやってぶつけただけだよ」


 ダンがゆっくりと両手の動きをして見せた。左手の件は斜め下から上に振り上げ、右手の剣は剣を横にして腕を突き出す様にして盾にぶつけている。


 そしてデイブとダンが左手を突き出すと鍛錬場にあった人形に強烈な魔法が2発直撃する。激しく動く2体の人形。


「……魔法も撃てるのか、しかもすごい威力だ」


 プリンスは目の前の2人との次元の違いを痛感していた。

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