王都

第13話

「おかしな国だ」


 とダン。


「ああ、自分の領地に獣人が侵略してきているとい言うのに軍隊は出さないわ、Aクラスのパーティを戦場から遠い王都に置いておくわ。どうなってるんだ?」


 ギルドの酒場を出た2人は宿に戻って今はデイブの部屋で話をしている。


「Aクラスのパーティが王都にいることについてはギルドが離さないって言ってたな」


 ダンがそう言うと、


「何か離せない理由があるんだろう。それにしてもしっくりこないんだよな」


「まるでこの国が獣人達に蹂躙されるのを待っている様に見える」


 デイブの言葉にダンが言うとそうなんだよなとデイブが頷いた。


「王都に行ったら探ってみるか」


「ああ。どこまでやれるかはわからないが俺たちが納得できる理由を見つけたい」



 ギルマスのコーエンの話を聞いた2日後、2人は王都を目指してモレスビーの街を出た。事前に聞いていた通り国内に獣人はおらず出会うのは野獣ばかりだ。ランクにすればせいぜいCランク。たまにBランクで全く相手にならない敵ばかりだった。


「これじゃあ鍛錬にもならない」


「この国の冒険者のレベルが上がらないのも納得だよ」


 ダンとデイブはそんな話をしながら街道を歩いていき、途中の村や小さな街で夜を過ごすこと28日後、王都の城壁が見える場所まで近づいてきた。


 高くて頑丈な壁がずっと遠くまで続いていて端が見えない。2人はこの世界で初めて王都という都市にやってきたがその広さは2人の想像以上だった様だ。


 城門に近づくと長い列ができている。2人は城門でかなり待たされるかと思ったが列の整理をしていた衛兵が2人の格好を見つけて近づいてきた。


「冒険者か?」


「そう」


 そう言って2人でカードを見せるとそれを見た衛兵は、


「冒険者ならこっちだ。ここは商人と旅人の入り口なんだよ。荷物チェックをするから時間がかかるんだ。冒険者は別の入り口がある」


 そう言って2人を先導して進んでいくと城門には入り口が複数ありその1つは冒険者などのギルド専用の出入り口だった。


「冒険者は外で獣人や野獣を退治するから優先されるんだよ」


「なるほど」


 そう言って城門で再び2人のカードをチェックした衛兵。


「モレスビーからか。王都は初めての様だな。楽しんでくれ」


 カードを返しながら言った。礼を言った2人は城門を潜って王都の中に入っていった。


 外から見た以上に中は広大だった。大きな通りが網の目の様に走り、その中に路地がいくつもある。そして真っ直ぐに伸びている大きな通りのずっと先に城が見えていた。あれが王城だろう。


「レーゲンスの何倍あるんだ?この街は」


 王都の中を歩きながらデイブが言う。ダンも歩きながらこの王都の広さにびっくりしていた。2人が城門をくぐって市内を歩くこと数分で見慣れた看板が見えてきた。王都ギルドだ。


 3階建の堅牢な建物の前に立って両開きの扉を開いて中に入る2人。入る前から予想していたが中は広くてゆったりとしていた。


 ロビーも広くクエスト掲示板も大きい、併設している酒場もモレスビーの倍以上はあるだろう。ただ王都でここまで広くする必要があるのかとダンは一瞥して思った。


 王都は言うなれば安全地帯だ。最前線に冒険者を送り出してそっちを拡大する方が得策なんじゃないかと。


 デイブも同じことを思っていた様でロビーを歩きながら


「無駄にデカいな」


 と言う。


 カウンターに近づいて受付嬢にモレスビーのギルマスから預かった手紙を見せて


「モレスビーから来た冒険者のデイブとダンだ。こちらのギルドマスターに呼ばれて王都にやってきた」


 そう言って2人はギルドカードを出した。それを見て表情を変え、そして2人の顔を見る受付嬢。


「少しお待ちください」


 そう言うと奥に引っ込んでいった。ダンとデイブはカウンターで待っている間ギルドの中をぐるっと見渡してみる。数組の冒険者達がこちらを見ているがせいぜいBクラスレベルで相手にならない奴らばかりだった。Aクラスのパーティは出かけている様だ。絡んではこないがじっとこちらを見ている。2人ともそんな無遠慮な視線には慣れていたので視線を無視してギルドの中を見ていると


「お待たせしました、こちらにどうぞ」


 戻ってきた受付嬢の声がした。彼女についてカウンターの奥に歩いていくと一番奥にあるギルドマスター室に案内される。


「王都へようこそ。俺はここのギルドマスターをしているチャールストンだ。よろしく」


 一目見て冒険者上がりだとわかるがっしりとした体つきの男が手を伸ばしてきた。


「俺はデイブ。知ってるとは思うが別の大陸からやってきた。ジョブは赤魔道士だ」


「俺はダン。暗黒剣士をやっている」


 チャールストンは2人と握手をするとソファを勧めた。


「モレスビーのギルドからレポートが出ていてな。他の大陸からやってきた冒険者2名がいてジョブも聞いたことがない赤魔道士と暗黒剣士だという。そしてその2人がべらぼうに強いって書いてあった。モレスビーのコーエンからはAクラス以上の実力はあるという事だったがギルドの規定で冒険者をやる時のランクではCクラスが最高だ。王都で直接見て場合によってはランクを上げてくれと言われている」


 なるほど。それで王都に行ってくれと行ったんだなとギルマスの話を聞きながら2人は思っていた。


「モレスビーのギルドでは話をしたがもう一度直接話をした方が良いってことだな?」


「頼む」


 そうしてデイブが自分達のことを話しする。モスト大陸のことやこのシグナギ大陸に来た経緯、そしてこの大陸に来てからの事など、途中でチャールストンが質問をするとそれに答えながら説明をしていった。


「なるほど。コーエンのレポートどおりだ」


 レポートを読んで理解はしていたが直接聞くと驚くことばかりだ。ギルドや冒険者のシステムについてはこいつらが前にいた大陸の方がずっと進んでいそうだと思ったチャールストン。


「それでこの大陸に腕試しに来たって訳か」


 デイブの話を聞き終えたチャールストンが言った。


「そのつもりだったんだが今の所鍛錬になる様な相手に出会っていなくてね」


 そうデイブが言う。


「ラエの要塞で100体ほどの獣人を倒したんだろ?報告書に書いてあったぞ」


 チャールストンがそう言うとデイブが顔の前で手を振り、


「ありゃ雑魚だったよ。こっちのランクでいうCやBクラスはいくらいても雑魚だね、鍛錬にもならない」


「ダン、お前さんも同じか?」


 とダンの方に顔を向けて聞いてきた。ダンはその視線を受け止めて頷くと、


「正直こっちのSクラスの獣人や魔人でも俺達の鍛錬相手ににならないだろう。弱すぎるよ」


「本当かよ?」


 信じられないという表情をしながら言うギルマスの言葉に頷く2人。

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