第10話

 ダンとデイブはモレスビーの街で冒険者の活動を始めた。幸いにこの街では一番最初に50人の冒険者の前でその実力を披露し、また街で唯一で最強のAクラス冒険者のボルケーノがノワール・ルージュは私達よりもずっと強いと公言してくれたのでCクラスと言っても2人は他の冒険者達からは1目も2目も置かれていた。


 街の外を出歩いて様子を見て夕刻に戻ってきた2人はギルドに顔を出した。


「今日はどうでしたか?」


 受付嬢が聞いてきた。初日にギルマスのコーエンと一緒に会議室にいた女性職員だ。名前がニムというのは後で聞いた。


「あまりいないな。1日歩いてこれだけだったよ」


 デイブがBクラスの魔石をカウンターに置いた。Cクラスは面倒くさいから魔石を取らなかったという。


「Aクラスはいなかった。効率が悪いよ」


 その場で精算をして討伐代金を受け取る2人。


「明日は休養日で明後日から未クリアダンジョンに行ってみるよ」


「わかりました。場所はここになります。モレスビーから徒歩で2時間ほどですね。ここはまだ10層までしかクリアされていません」


 ニムが地図を見せてくる。それを覗き込む2人。おおよその方角がわかると地図から顔を上げお礼を行ってカウンターを離れた。そうして酒場を見るとボルケーノのメンバーを見つけてそこに近づいていく。


 彼らもダンとデイブがギルドに戻ってきた時から見ていたので目が合うとお互いに手を上げる。2人が酒場でボルケーノの隣のテーブルに座ると酒場にいた他の冒険者達もそこに集まってきた。どこの街でも強い冒険者の話は聞きたがるんだなと集まってくる仲間を見ていたダン。


「今日は外に出てたのかい?」


 2人が座って酒が来るとボルケーノのジャンが聞いてきた。


「そう。でも外ではBとCとしか出会わなかった。効率が悪いから明後日からダンジョンに潜ることにするよ」


「未クリアのダンジョン?」


 聞いてきたジャスミンを見て頷くデイブとダン。


「10層までクリアされてるってさっき受付で聞いたけどそれってボルケーノだろう?」


「そう。11層でAクラスが複数体出てきたの。なので安全を見て10層までで攻略を止めているの」


 僧侶のジャスミンが答える。安全マージンを見て攻略するのは悪いやりかたじゃないよなとデイブが言うとマリアンヌが、


「ノワール・ルージュってダンジョンで格上とかがいるフロアってどうやって攻略しているの?」


 と聞いてきた。この質問は他の冒険者も聞きたいと思っていたのか全員がノワール・ルージュに注目する。


「俺達のやり方は格上がいるフロアとかここは厳しそうだなと思ったフロアでは攻略を目指さないやり方をしてきた」


「攻略を目指さない?」


 デイブの言葉に素っ頓狂な声を出したのはジャンだ。デイブはそのジャンを向いてそうだと言ってから話を続ける。


「そういうフロアに当たると攻略を止めて上の階から降りる階段をキャンプにしてそこの近くに湧く獣人を相手に鍛錬しているんだ。獣人は時間でPOPしてくる。そしてジョブも決まっていない。1体湧くならその1体を確実に早く倒せる様になるまでは攻略しない。その場で1ヶ月でも2ヶ月でも留まって鍛錬する。そして2人が完全に自信がついてからそのフロアを攻略している」


「あっちの大陸でも1つのフロアで1ヶ月とか2ヶ月は普通に留まってたよ。そしていろんな戦法を試してみたりもした。たとえばデイブが前で剣を振って俺が後ろから魔法を撃つとかさ。考えられるいろんなパターンで敵を倒して鍛錬してたんだ。そしてどのジョブの敵が来ても、どこから来ても間違いなく倒せるとなった時に初めてフロアの攻略を開始した」


 デイブに続いてダンが言った。聞いている冒険者は皆びっくりした表情だ。ダンジョンでフロアを攻略せずにその場に留まって鍛錬するという発想はなかった様だ。


「普通はダンジョンで同じ場所で1ヶ月も2ヶ月もとどまるなんて出来ないだろう。でもそれをやってきてから今のお前さん達があるんだな?」


 ブルーが言うとその通りとデイブ。

 マリアンヌは話を聞いていてなるほどと感心していた。確かに薄暗いダンジョンで同じ場所に留まってひたすら湧き待ちをして鍛錬する冒険者はいないだろう。2人だからとはいえ考えようによっては効率が良い鍛錬だ。


「ボルケーノもそうやって鍛錬したら格上との戦闘にプレッシャーがなくなるよ?」


「なるほど、参考になるわね。ありがとう」


 デイブの言葉にマリアンヌは礼を言った。


「ところでさ」


 とデイブが話題を変えた。


「俺達がいた大陸は都市国家が独立していて国という大きな概念があまりなかったんだよ。こっちは何だっけ?ジュエノ王国だっけ?そこが国を治めているんだろ?国王とかいるのいかい?」


「もちろん。国王陛下はいらっしゃる。ただここ数年はあまり表には出てこないな。宰相が普段の政務を取り仕切っていると聞いている」


 クラウドが答えててから国王がどうかしたのかと聞いてきた。


「いや。この前も言ったけど軍隊というか国軍が国境を警備するのが普通じゃないかと思ってさ。しかもここでは獣人と対立している。要塞だって4つの前線都市の近くにはあるって話だしさ。どうなってるのかなと思って」


「皆不思議に感じてるわよ。要塞もしっかりした造りだしね。国境は冒険者が対処しろって突然ギルドから言われたけど違和感持っている人は多いわよ」


「国境を警備するのはギルドに任せるって国は言ってるんだよな?」


 デイブとマリアンヌのやりとりを聞いていたダンが言った。ダンは周囲の連中がそうだよと頷いたのを見ると、


「じゃあ俺達がここでのんびりと敵が来るのを待たずにこっちから乗り込んで行っても大丈夫だってことだ。国境の警備は冒険者なんだからな」


 びっくりしている反応が多い中デイブが言った。


「ダンジョンクリアしたら行ってみるか」


「そうしよう。勝手に人の領地に入ってきてる奴らは追い返さないとな」


「やってくれよ。ノワール・ルージュならいけるだろう」


 2人のやりとりを聞いていたジャンがけしかける。他の冒険者もノワール・ルージュならそのまま敵国の奥まで行っちまいそうだなと言っている。


「とりあえず大陸中央の川まで蹴散らすのを目標にするか」


 デイブが言った。


「そうだな。途中で獣人の村か街があるんだろう。片っ端から潰していきゃいいだけの話だ」

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