第9話


「あっ!!」


 朝何気なくオーブを見たミンはそれが微かに光っているのを見てびっくりすると同時にすぐにオーブに手を添えるとありったけの魔力を注ぎこんでいった。


「うーん、かなり遠いからかしらね。この光じゃ通話は無理だわ」


 そう言いながらオーブを抱えるとすぐに家を出てワッツとレミーの自宅に向かった。朝食を取っていたところに飛び込んできたレミー。その手にオーブを持っているのを見たワッツは手に持っていたフォークを放り投げて椅子から立ち上がった。


「繋がったのか?」


 珍しく興奮した声をだすワッツ。


「光ってるのよ、ほらっ」


「本当だほのかに光ってる」


 とレミー。ソファのテーブルの上に置かれたオーブの弱い光を見つめる3人。


「通じないのか?」


「ワッツ、流石に無理でしょ」


 レミーがたしなめた。


「かなり遠いわね。何とか繋がっているというレベル。とても声や画像は届けられない」


 ミンの言葉にそうかと落胆した声をだしたワッツ。


「でもこれで生きてるってわかったじゃない。2人ともちゃんと他の大陸に飛んでいったのよ」


「そうだ。そう言うことになるな」


 オーブが光って焦っていたワッツも落ち着きを取り戻してレミーの言葉に頷きながら椅子に座り直してから言った。


「ミン、悪いがこれからも注意して見ていてくれ。万が一通話ができそうだったらわざわざこっちに持って来なくてもいいぞ。かなり弱い通信だから切れるかもしれないし長時間繋がらないかもしれない。その辺りの判断は任せる」


「わかった。それでギルマスのプリンストンには言うの?」


 ミンが言うとワッツが俺が伝えようと答えた。そうしてしばらくするとほのかに光っていたオーブの光が消えた。


 その後3人で雑談をしている時にワッツがつぶやいた。


「そうか、あいつら生きていたか…」


 感慨深げに言う。レミーとミンは黙ってそのワッツの言葉を聞いていた。初めて武器屋にやってきた時から目をかけ、二刀流を教え、ランクが上がると良い剣を安価で売り、そしていつもやってきた2人の相談相手になってきたワッツ。


 自分ができなかったランクSに上り詰めたかと思うと大陸中央部の山まで制覇、そしてそのまま遠くに飛んで行ってしまった2人。


 2人がいなくなっても毎日の様にあいつらは元気にしているだろうかとレミーに話していたワッツ。こうして微かな光を通して彼らとまだ繋がっていると確認できた彼の短い呟きの中にさまざまな思いが詰まっているのをレミーとミンは知っていた。



 その日の昼過ぎ、ギルドが比較的暇になる時間にワッツはギルドにプリンストンを訪ねた。


「オーブが光ったのか」


「ああ。あいつらは生きている。本当に他の大陸に飛んで行ったみたいだ」


 ギルマスの執務室のソファに向かい合って座っている2人。ワッツの話を聞いていたプリンストン。


「そうか、あいつら生きていたか……」


 ワッツと同じ様に感慨深げに呟くギルマス。2人が火口に飛び込んでいったと聞いたときはびっくりしたがそれまでの中央部の山の状況は逐一ワッツに報告しており、それを聞いたギルマスがレポートを作成し大陸中のギルドに報告した。


 その反響は大きく、今まで誰も無事に帰ってこられなかった大陸最深部の山の状況が明らかになったが同時に生息している魔獣のレベルの高さからギルドとしてはあの地区への探索を禁止することにする。


 もっとも山裾でランクSが複数体、奥にいくとそれからさらにランクが上がる魔獣が生息している地域にわざわざ出向いていく冒険者もいないだろうが。


「この街の冒険者達も心配しているんだよな。とりあえず無事だってことだけでも言っておくか」


「あいつらはここヴェルス以外の街でも有名だろう。無事だってことは言っておいた方が良いかもしれん」


 プリンストンとワッツの話で無事だということを伝えることにする。


「帰ってくるのか?」


「わからん。あいつらの事だ、あっちの大陸でも鍛錬に明け暮れるだろう。そしてまた火口を見つけられたら戻ってくるかもしれんな」



 ヴェルスのギルドからノワール・ルージュの2人が無事でいるという話が出るとそれはあっと今に大陸中のギルドと冒険者の間に広まっていった。そしてどこでも酒が入るとその話題になった。


「何でも違う大陸に飛んでいったらしいぞ」


「この大陸の中央部のあの山をクリアするなんてノワール・ルージュ以外じゃ無理だろう。ランクSどころかトリプルSクラスが普通にいるって話だ」


「こっちに帰ってくるのかなぁ」


 そんな会話があちこちでなされていた。そして冒険者以外でもノワール・ルージュが生きているという情報を聞いて喜んでいる者達がいた。


「そうですか、お二人とも無事でしたか。それはよかった」


 レミーの店でワッツとレミーとミンを前にしてサムが言った。


「あの2人の事だ。あっちでも鍛錬の日々だろう」


 ワッツがテーブルに置いてあるお茶を飲みながら言った。


「それにしてもあのクリスタルの結晶体のオーブってのは純度が高いだけあって相当な性能になってるのね。まさか届くとは思わなかったわ」


 ミンが言った。レミーもワッツもその言葉に頷いている。サムはミンに顔を向けると、


「正直あれほどの結晶体から作ったオーブは今までなかったでしょう。どこまで通信可能かなんてわかりませんからね。通話は流石に厳しいとしてもこの星の反対側まで届いているとしたら本当にびっくりする性能ですよ」


「また何かあったらサムにも教えてあげるね」

 

 是非お願いしますと言うサム。ここにいる3人に加えてサムもあの2人を気に入っているのを知っているレミーが言った。



 そしてレーゲンスの街ではウィーナがその情報をサム経由で入手する。スラムに顔を出したウィーナは顔役のユーリがいる屋敷の中で2人向かい合いながら話をしていた。


「あの2人はどこに行っても大丈夫さ。あっちの大陸でも最強の冒険者だろうね」


 ユーリーから2人の無事を聞いたウィーナが言った。


「まぁな。俺達は奴らには世話になっている。それが無事と聞いてこっちも一安心だ」


「その内にふらっと帰ってくるよ。あの2人はそういう冒険者さ。あの2人を倒せるのはこの星にいないよ。あたしゃ断言できるね」


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