第8話
ギルドに戻ってさっきの会議室に入ると2人はCクラスのカードを受け取った。ジョブ欄には魔法剣士、暗黒剣士と書いてある。
「俺の権限ではCクラスまでなんだよ。堪えてくれ。実力的にはAクラス以上だってのは俺が認める」
カードを渡しながら申し訳なさそうに言うコーエン。
「何クラスでもいいさ。これで身分保証がされて自由に動けるのなら構わないさ」
ダンが言った。
「このカード、こっちにないジョブ名を書いてくれてるが大丈夫なのか?」
「それについては俺から国内のギルドにレポートを上げる。お前達2人が別の大陸から来たのも含めてな。この国で剣と魔法が使える奴はいない。正直に書いて事情を説明した方が長い目で見たらお前達も動きやすいだろう」
ギルマスの言葉にありがとうと礼を言う2人。
「それでこれからどうするんだ?」
コーエンが聞いてきた。
「まだこの大陸のことがよくわからないからとりあえずはこのモレスビーの街で活動するつもりだよ。ところでこの町の近くにダンジョンはあるのかい?」
「ある。ここから1日ほど歩いたところにダンジョンが複数ある。いくつかは既にクリアされているが未クリアダンジョンもあるぞ」
未クリアがあると聞いて2人の表情が明るくなった。
「じゃあその未クリアダンジョンに挑戦するよ」
そうしてギルドからおすすめの宿を聞いた2人はギルドの部屋を出て1階に降りていった。ロビーに併設している酒場にはボルケーノのメンバーとBクラス、Cクラスの冒険者達が2人を待っていた。皆で酒を飲みながら話をする。
「何クラスのカードになったの?」
「Cクラスだってさ」
「登録時になれる最高値ね、コーエンも頑張ったじゃない」
マリアンヌとデイブのやりとりを周囲の連中が聞いている。
「Cなら行動に制限はないんだろ?」
「無いと言っていいわね?」
そう言って確認する様にメンバーの方を見たマリアンヌ。
「無いだろう。Cクラス以上は正式な冒険者という位置付けになっている。ラエの要塞での様な都市防衛クエストもC以上だしな」
ジャンが答えた。それなら問題ないなという2人。怪訝な顔をしている周囲の冒険者を見てデイブが言った。
「俺達はクラスには全くこだわってない。強い敵と対峙して鍛錬するのが目的だからね。強くなれればカードのクラスなんて俺達にとっては意味のない話なんだよ」
デイブが言ってからダンが続けた。
「カードのクラスで強くはなれない。格上と戦闘をして強くなれる。俺達はそう信じて今でやってきてるしこれからもこれを変えるつもりはない。これが俺たちのスタイルなんだよ」
「耳の痛い話ね」
「別にマリアンヌらにそうしろと言ってるわけじゃない。ダンが今言ったけど俺達のスタイルはこうだって話だよ。周りにそうやれって言う気もない」
その後は2人が以前いたモスト大陸の話を聞かれるままに話する。
「こっちに来てびっくりしたのはどこもかしこも緑があり川が流れていて木々が生えてるってことだ。モスト大陸は荒野の大陸だった。僅かにある森や湖、川、草原の場所に城壁に囲まれた都市がある。都市と都市との間には茶色の荒野だけだ。緑はほとんどない」
「じゃあどこで鍛錬をしてたんだい?」
酒場にいた冒険者が聞いてきた。ラエにもいたBクラスの冒険者だ。普通ならBクラスの方がランクが上になるが彼はAクラス冒険者に接する態度で聞いてきた。
「都市周辺の森の奥にいけばランクA、こっちでいうAクラスがいる。あとはダンジョンだな。ダンジョンは多数あって低ランクから高ランクまでいるから鍛錬するには良い場所だよ」
デイブが丁寧に答える。
「でもあっちの獣人は言葉を話さないんだよな?」
「ああ、魔人ってのもダンジョンの奥にいたが言葉を話すのには会ったことがない。大抵は無言か唸り声を上げて襲いかかってくるよ」
「それはそれで怖そうだな」
「俺達はそういうもんだと思ってたからな」
その後はこのシグナギ大陸の話になった。
「俺達人間が住んでいる国と獣人領とは長い間戦闘状態だ」
そう言ってクラウドが酒の入っているグラスをどけるとテーブルの上に紙を置いて簡単な地図を書く。
要塞でも聞いたがここは大雑把に言って長方形の形をした大陸らしい。そしてそのほぼ中央に横線を引いた。
「ここに大きな河が流れている。以前はこの川がお互いの国の国境になっていたがここ数年獣人が川を超えて南の俺たちの領地に侵略してきている。今の国境線は大体この辺りだ」
線がもう1本追加された。それは川から南に入ったところでその線を見ると人間の領土は40%、獣人が60%程度の様だ。
「押し込まれてるのか」
デイブが聞くとそうなんだよというクラウド。
「こっちは国なんだろ?軍隊とかいうのはないのか?」
地図に目をやっていたダン。彼は国というものを理解していたので疑問に思ったことを口に出す。
「正式にはここはジュエノ王国と言うの。王都はここにあってここには国王がいるのよ」
マリアンヌが地図に丸を書いた、丸の位置はここモレスビーと南の海岸線との中間からやや南にある。
「そしてもちろん国として軍隊は保有している。でもどういうわけかその軍隊はここ数年毎年規模が縮小されているのよ」
「逆だろう?国境線を超えて入ってきているんだから増やさないと」
ダンが言うと皆それが謎なんだよという。
「国境の維持は冒険者がやれって言われてるのさ」
そうしてクラウドは新しい丸をいくつか書き加えた。
「ここがモレスビーだ。そして川に並行してこことこことここ。全部で4つ都市がある。国はこの4つの都市を防衛最前線と呼んでいる。そしてこの4つの都市には全てその郊外に要塞を構えている。モレスビーだとラエの要塞だ。あんなのが各都市にある」
クラウドがつけた新しい丸を見るとここモレスビーは防衛最前線の都市でもっとも東に位置している。
ダンは説明を聞きながら違和感を感じていた。前世の知識でも国を守るのは軍隊で普通ならこの国境線に軍隊の基地か要塞があって然るべきだ。ところが聞いている話では全く逆になっている。これではまるで獣人達にどうぞ好きに攻撃してくれと言っている様なものだ。
「俺達が口に出すべきじゃないかもしれないが、どうもおかしい」
ダンが言うとそうでしょう?とマリアンヌも言い、
「王都の冒険者ギルドからもギルドは魔獣や魔人の討伐はするが国を守るのはギルドじゃなくて軍隊の仕事だと何度も提言している様なんだけど聞き入れてもらえていないらしいのよ」
ダンの話を聞いていたデイブも確かにおかしいなと呟いてから、
「俺達は来たばかりだ。まずはこの街と国に慣れないとな」
「そうだな。憶測ばかりで話をしても仕方ないか」
デイブの言葉にダンも頷く。
ギルドに紹介された宿はこじんまりとしたこ綺麗な宿だった。食堂の料理の味もいい。
2部屋取った2人は夕食を終えてからデイブの部屋に入って明日からの打ち合わせをする。
「オーブはどうだった?」
「そうだ。すっかり忘れてたよ」
デイブが魔法袋からオーブを取り出すとそこに魔力を込めていく。
「夜空の星の位置から見たらここはモスト大陸とは反対側にある様だったな」
窓の外に顔を向けたダンが言う。
「つまり今こっちは夜の7時ごろだ。ってことはヴェルスは朝の7時ごろってことか」
「そうなる」
「おいっ!!」
外を見ていたダンはデイブの大声で振り返るとオーブが微かに煌めいていた。
「繋がってるが相当離れているからだろう。反応が薄い」
オーブに近づいたダンが見ると弱い光がオーブの中で揺れている。
「ミンの魔力とデイブの魔力でもこれが限界か」
「でもこれで俺達が生きてるってことは間違いなく伝わったぞ」
興奮したデイブが言う。
「その通りだ。それだけでも価値があるな」
そう言ってデイブを見るダン。デイブも大きく頷いている。
「どこか高い場所に行ったら感度は上がるかな?」
続けてダンが言った。
「どうだろう。でもその可能性もあるな。気に留めておこう」
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