第19話 お巡りさんこっちです
数日後。
「なるほど、それで妾を呼んだというわけか」
修練場へと向かう道中、僕はマオにことのあらましを説明すると。
マオは納得したと言った表情でそう呟いた。
「うん、魔法が使えればなにかと便利でしょ? 召喚以外も使えるようになればなって思って……ちょっと怖いかもしれないけれど上手くやるから我慢して」
「まぁたしかに昨日の今日でまだちょっと怖いが……背に腹は変えられまい」
「お姉ちゃんに任せてねマオちゃん‼︎」
「まぁ、あの様子じゃ気取られてる様子も微塵もないしのぉ」
自信満々に胸を張る姉ちゃんをみて、安堵したように息を漏らすマオ。
そんな気苦労に気づくはずもなく、姉ちゃんはというと僕たちの隣で興奮気味にはしゃいでいる。
僕たちとのお出かけがよほど嬉しいようだ。
「あぁ、ユウ君のお友達と四人でお出かけなんて、なんだか私、今すごいお姉さんっぽいことしてると思わない!?」
「え、そうかな?」
弟の友達とお姉さんは一緒に遊びには行かないんじゃ……と思ったが当然のことながら姉ちゃんは聞いていない。
「そうだよ!感動だなぁ……私もやっとお姉ちゃん力が高まってきたってことだもん‼︎ よーし、お姉ちゃん張り切っちゃうんだから‼︎」
「お姉ちゃん力ってなんじゃ? ユウ」
「さぁ……溜めるといいことあるんじゃない?」
「ふむ、お姉ちゃん力。魔術の一種か、それとも神秘、いや錬金術の可能性も……てのじゃじゃ?」
「さぁマオちゃん、修練場にレッツゴーだよ‼︎ 時空魔法でも重力魔法でも小惑星落としでもなんでも教えてあげちゃうんだから‼︎」
考え事をするマオの手を姉ちゃんは不意に取って瞳を輝かせる。
どうやら僕と同年代の魔法使いということで厄介な姉の本能を刺激してしまったらしい。
「ふ、普通に初級魔法が使えるようになればいいんじゃけれど‼︎?」
「えー! それじゃあもったいないよ‼︎ それだけの魔力があるならロマンを求めないと」
「ろ、ろまん? なんじゃそれ、美味しいのか?」
「美味しいところは持っていけるよー‼︎」
和気藹々と話すマオと姉ちゃん。
話が噛み合っているかといえば疑問だが、最悪の出会いが嘘だったかのように二人は一見仲が良さそうにならんで歩く。
なんだかんだすべてを受け入れるその懐の深さは、流石魔王様と言ったところだろうか。
まるで本当の姉妹のように話す二人に、僕はほっと胸を撫で下ろす。
と。
「で? マオはわかるけれど、なんで俺まで連れてこられてんだよ……仕事あるんだけど」
少し遅れてついてきていたフレンが声をかけてくる。
相変わらず気の毒になるほどの仏頂面だ。
「人がたくさんいるところに行くんだし、何よりマオはあんな感じだろ? 何かあったときは君の口先が必要になると思ってね……まぁ、本体は余計だから最悪口先だけ来てくれればよかったんだけど」
「んなことできるか‼︎ 引きちぎれってか!?」
「ははっ、冗談だよ冗談。それよりも、あのマオの服すごい似合ってるけれどどうしたの?」
「あ? あんなボロボロでペンキまみれの服で外なんて歩かせたら孤児と間違えられて騎士団に連れてかれちまうだろ? だから俺が作ってやったんだよ」
「フレンの手作りなんだ……あれ」
黒色のレースに赤いフリルの付いたワンピース型のドレスは、おそらくそこら辺の仕立て屋では手に入らないほど凝った造りであり、思わず声が漏れる。
意外と器用なんだよな……フレンって。
「んだよ、男が裁縫できちゃ悪いのか?」
「いや、純粋にすごいなって思って」
「マオみたいな奴を拾うのもあいつが初めてってわけじゃねえからな。必要に
迫られて習得しただけだっての」
不貞腐れるようにフレンはそう言うが、服を褒められたのが嬉しかったのかその表情は満足げだ。
本当、素直じゃないんだから。
「なんじゃ? 妾の服の話か?」
そんな会話をしていると、話が聞こえたのかマオが振り返り自慢げに僕たちの前で服を見せつけるように一回転をする。
脇の部分と背中の部分がよく見えるようになったドレス。
このデザインはつまりフレンの趣味ということになるが……いい仕事をするものだ。
「うん、よく似合ってる」
「おぉ、お主もそう思うか勇者‼︎ そうであろうそうであろう? この服のために、金髪に体を色々と触られたり紐っぽいもの巻き付けられたりしたが、なに、服の対価と思えば安いものよ‼︎」
「触られ……紐……騎士団さーーん‼︎」
「ちょおおおぉ‼︎ ちがっ、誤解だ‼︎?」
「……フレン君、その、お姉ちゃんえっちなのはいけないと思うの」
「採寸だっつーの‼︎? なに変なこと抜かしてくれてんじゃマオこのやろー!?」
「おや、そうだったのか? 妾てっきり其方が妾の魅力にやられて森の狼さんになったのかと思ったぞ」
「意図的かてめぇ‼︎? 恩をあだで返しやがって、この妖怪胸壁‼︎」
「なんじゃとぉ、やるのか垂れ目金髪ぅ‼︎」
相変わらず仲がいいのか悪いのか、睨み合い火花を散らす二人。
そんな様子を姉ちゃんは楽しそうに笑みをこぼす。
「ふふふっ、二人は本当に仲良しさんだねぇ」
「僕には今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうに見えるけれど」
「喧嘩するほど仲がいいって言うでしょ? お姉ちゃんちょっと羨ましいな」
「羨ましい?」
「ほら、ユウ君と私、あんまり兄弟喧嘩ってしないじゃない? 基本私がユウ君に怒られるばっかりで」
「自覚があるなら少しは変な行動を慎んでよ姉ちゃん……」
「あーでも、しっかり者の弟に叱られるのもお姉ちゃんって感じがするし‼︎? 兄弟喧嘩をするのも捨てがたいわ‼︎ うううぅ、どうしようユウくん‼︎?」
「姉ちゃんうるさい」
「くはっ‼︎? 辛辣なユウくんも可愛い……本当、私お姉ちゃんでよかった」
本当、一人でも勝手に楽しそうだなこの姉は……。
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