第20話修練場

 大通りから少し外れた細道を抜け、街を二分する用水路を端で渡ると、西側の街、ギルド街が現れる。


 人々が行き交い、騒がしく生活をするための区画が東側ならこちら西側はそれらの生活を支える施設の管理を行う区画であり、紡績、鉄工、上下水道、肉屋、製パン、塗装、仕立て屋等々、街に住まう人々の生活を支えるための運営や管理を行うギルド本部が軒を連ねており。


 全体的に街の西側は厳かで物静かな印象を与える。


 そんな街の中央に建つ場違いなドーム状の建物が、訓練場だ。


「いつ見ても、本当街の西側の街並みに似つかわしくないよね。この場所」


 真っ白な訓練場を見上げながら僕はそう呟くと。


「まぁ、主な収益がお祭りの時に開催されるコロシアムの入場料と賭博の金だからな。金持ち貴族や血生臭い生活と無縁の奴らが通いやすいように西側に設置してあるのさ」


 つまらなそうにフレンはそんなことを教えてくれた。


「へー。でも意外だね、貴族向けの賭博施設をこの街の領主様が作るなんてさ」


 兎角この町の領主様は賭博に厳しく、世代交代と同時に国営のカジノまで潰したほどだと言うのに。


「ううん、違うよユウくん。ここはたしかにギルドが委託されて管理はしてるけど、この建物自体は個人で運営されてるんだよ?」


「え?個人で?」


「うん。世界中にあるし、ギルド関係なく誰でも使えるから国営とよく勘違いされるんだけれど、本当はSSSランク冒険者のアーノルドが作った訓練場ギルド【アームストロング】が管理運営している施設なの。詳しい経緯は情報屋のフレン君のほうが詳しいんじゃないかな?」


「そうなの? フレン」


「まぁ、俺も全部を知ってるってわけじゃねえが。もともとアームストロングって団体はギルドじゃなくて冒険者の育成と支援を目的とした小規模団体だったのさ。初めは細々と西の片田舎で運営をしてはいたんだが、当時団体のトップだったアーノルドが魔王軍幹部を倒して有名になってからは、支援団体を利用する客が激増……結果、需要に応えるためにギルド登録をして全国に波及させたらしい」


「なんでギルド登録を?」


「ギルドになると、所属者数に応じて国から援助金と施設の提供を受けられるようになるのと、魔王軍幹部を倒した人間が始めた新規のギルドともありゃ、投資をしたがる人間も多くいるだろうと踏んでの事さ。アーノルドは冒険者としての腕だけじゃなく、経営者としても腕が立つからな……思惑通り、アームストロングは個人経営にも関わらず、世界で5本の指に入る大ギルドにあっという間に成長をしたというわけさ」


「……なんか、色々とすごい人だってことはわかったけれど」


「そもそもじゃが、支援団体のトップが魔王軍幹部倒したって所がわけわからないんじゃけど、支援じゃないじゃん。最前線で殴ってるじゃん。その団体、誰も支援って言葉辞書で調べたことないのか?」


「あはは……アーノルドは少し変わった人だから、というよりSSSランク冒険者はみんな一癖も二癖もあって……だからちょっと苦手なんだよね」


 苦笑いを浮かべてぽつりと呟く姉ちゃん。


「あんたも十分変わりもがっもごっ……」


 それにたいし余計なことを言おうとしたフレンの口をそっと閉じて話を続ける。


「苦手、ということは、アーノルドさんはこの街にはいないんだね」


「うん、アーノルドは隣の国の人だし、ここは中規模程度の修練上だから、滅多なことがない限りアーノルドは来ないから安心して大丈夫だよユウ君‼︎」


「そうなんだ」


 変わり者と姉ちゃんは言うが、魔王軍幹部を倒したのだから腕は確かなのだろう。

 ちょっとあってみたいなとも思ったのだけれど……姉ちゃんのこの様子だと簡単には会うのは難しそうだな。



 修練場の入り口前まで到着をすると、姉ちゃんは慣れた手つきで入り口の扉に手をかけて手招きをする。


「はい、ここが入り口! 私は中の人たちとも顔馴染みだし、おねーちゃんがみんなにユウ君を紹介してあげるね。それじゃあ、たのもー……ってあれ?」


 外枠を朱色に塗られた木製の扉を姉ちゃんは勢い良く開ける……と。




「んんんんーーー‼︎ いいYO‼︎ すんごくいいいいい‼︎ もっと、もっと私を叩くんだ、その鞭がその力が私の上腕三頭筋をプルプルさせるんだYOOOOO‼︎」


「「「ハイ‼︎ 兄貴‼︎」」」



 そこには、海パン姿で四つん這いになった筋肉もりもりマッチョマンの変態。

 そしてその周りを複数で取り囲み鞭で叩く男たち。


 そんな想像すらしていなかった光景に……僕たちは(姉ちゃんも含め)茫然と立ち尽くすことしかできなかった。



……一体何を修練しているんだろう。

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