第9話 【神田明神の授業】SFPエッセイ209
【神田明神の授業】だいこくさまにえびすさま、まさかどさまが先生さ。だいこくさまは食と財政、えびすさまは商売繁盛と釣りの秘技。まさかどさまは一味違う。戦い方を教えてくれる。中央にいて偉そうにしている奴らとの戦い方を。辺境の力、ロックな生き方教えてくれる。 #140SFP
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通称「大黒様」というのはオオナムチノミコトで、大国主の名前で通りが良いだろう。これまた通称「恵比寿様」というのはスクナヒコナノミコトのことで、オオナムチノミコトのスクナヒコナノミコトは義兄弟となってコンビで国を治めたという。二人組で国を治めたというのはなかなかユニークに思えるのだが、名前に「オオ」と「スクナ」とついているところ見るとリーダーとサブリーダーみたいなものだったのだろうか。
この二人は由来も面白い。オオナムチノミコトはスナノオの息子または子孫とされ、スクナヒコナノミコトはガガイモの実を割ってつくった船に乗ってどこかから来訪した悪童だったとある。暴れん坊のスナノオの後継者と、恐らく海外からやってきた恐ろしく小柄なルールブレイカーと、およそメインストリームではない2人組が豊葦原中国(とよあしはらのなかつくに)、いわゆる中つ国を平定したのだ。
話はこれで終わらない。なんと彼らはせっかく自分たちの手で平定した国を譲ってしまうのだ。譲る相手はアマテラスオオミカミの使者で、それぞれ雷の神様と船の神様だという。雷と船だなんて、なぜそんな組み合わせの使者を送ったのか意図が不明だが、雷は一触即発の武力で、船は貿易の可能性と考えると交渉手段として「戦争か商売か」の二択を迫ったとも思えて興味深い。
ちなみに雷の神様ことタケミカヅチは、「国を譲るかどうかは力くらべで決めよう」と申し出たオオナムチの息子の一人と掴み合いの勝負をし、一捻りでやっつけて、これが相撲の発祥だという話もある。武力衝突ではなく、スポーツの一発勝負で決めたというのだから文化的には21世紀の世界より随分洗練されている。
相撲で国譲りを決めた、なんて聞くとずいぶん牧歌的な童話めいて聞こえるが、オオナムチは即断では決めずに、息子たちに「どう思うか」と質問をしている。武力ではかなわないのは明らかだとオオナムチは判断したのだろうし、息子1もそう思って従った。息子2は黙って引き下がれず一戦を交えた。そのあたりの機微を伺うに、やはり渋々国を譲ったというのが本当のところだろう。
スクナヒコナは何をしていたのかというと、どうやらこの頃にはもう常世の国に行ってしまっていたらしい。知恵と知識でオオナムチを支えた神は、ガガイモの船に乗れるくらい小さく(一寸法師のモデルとされている)、粟の茎をよじ登っているところを弾き飛ばされて消えてしまったという説もある。不慮の事故でパートナー(かなり仲が良かったようだ)を失ったオオナムチの悲しみは察するに余りある。
そんな大切な、分身のようなパートナーと共に国々を渡り歩き、混乱に陥ってた世の中を平定し統治した中つ国をどうして手放したいはずがあろうか。国譲りがなって、高天原から送り込まれてきたニニギが国を平らげようとする時、出雲に封じられたオオナムチと、常世に行ったとされるスクナヒコナは最も警戒すべき勢力であったことは間違いない。
この二人を祀ったのが神田神社、通称「神田明神」の始まりである。つまり高天原が中つ国を治める出発点で最強の荒ぶる神を祀った神社なのである。オオナムチは地震を起こす大鯰を抑え込む要石の役割を果たしていると言われるが、神田神社は国を揺るがす最強の荒神を抑え込む要石そのものにほかならないのだ。大和朝廷がまだ各地の有力な勢力と武力衝突を繰り返していた天平期、関東に要石となる神社を置いた意味は明らかだ。
ちなみに神田という言葉の語源は「御神田(おみた)」であり、これは伊勢神宮の管轄下にあったことを意味する。伊勢神宮の主神はアマテラスであり、もちろん高天原系の神社である。その御神田に祟り神ともいうべき出雲大社の主神とそのパートナーを祀ったのだから、大和朝廷はよほど荒神たちの祟りを恐れたものと思われる。
だからその関東に平将門が出現した時の朝廷の慌てぶりは想像するに難くない。結局、将門が新皇と称してからたったの2ヶ月で平定できたので、いったんは安心していたのだろうが、そのまま時代は平安時代末期の戦乱と政争、そして武家の台頭による勢力図の塗り替えが進み、平家が隆盛し武家が権力を掌握するにいたり、源平の勢力争いを経てついに鎌倉幕府が制定されるが、その後も暗殺と政争の混乱を続けるのはご存知の通り。
万寿、永長、康和、文治と、死者数千人から数万人という大規模な地震が襲い人心を動揺させ、とどめは死者2万3000人あまりという、13世紀末の鎌倉大地震だったろう。平将門は、戦乱や天災、そして疫病の流行などをもたらす新たな荒ぶる神として、死後その名が繰り返し語られてきたに違いない。14世紀に入ってまもなく将門は神田神社に合わせて祀られることになる。明らかに荒ぶる神を鎮めるためのこの神社に。
このたび「神田明神の授業」と題して、これら3つの柱を、文字通り教育の柱にすえて個人向け講座を開催します。冒頭のツイートでは親しみやすく、「だいこくさま」と「えびすさま」という風に書きましたが、正式にはオオナムチとスクナヒコナの医薬・温泉・まじない・穀物・知識・酒造・石など武力ではなく殖産興業によって国を平定するわざ、さらには同性とのパートナーシップ、特異な外見と性格を持つ多様性などを幅広く学びます。
平将門については記した通り、ロックな生き方を学びとってもらいます。権威や権力・中央に闇雲に楯突くことが目的ではありません。疑念も持たずに権威や権力・中央に媚びへつらったりつき従ったりするようなことなく、自分の頭で考え、自分の頭で判断し、自分で進むべき道を選び取る姿勢を重視します。それがメジャーな道かマイナーな道かなど関係なく突き進む姿勢。その判断力を支えるのが最初の二神と言えるでしょう。
時代は、天災だけでなく、人災、戦災も待ち受ける乱世へと突入します。本講座にご関心のある方は、ぜひ以下のコメント欄またはメッセージにて、お名前・連絡先・学びの目的・寄進料を明記の上、お申し込みください。三柱と協議の上、こちらから受講の詳細をお伝えいたします。スタイルだけではない本物の、ロックな人生を目指すあなたの参加をお待ちしています。
(「【神田明神の授業】」ordered by 三遊亭遊かり -san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
※注意:このエッセイはフィクションであり、 実在の人物・団体・事件・講座などとは一切関係ありません。
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