第6話 【リバーサイドに建つ古いビルの1室に集まった人々の未来はいかに!?】SFPエッセイ206

【リバーサイドに建つ古いビルの1室に集まった人々の未来はいかに!?】利口バカのアホ詐欺師。歪なドアノブ握りしめ大層疲れて老けルック。一旦VIPルーム乗っ取る。井戸端ツネ子が始末をつける。2階辺りで集い待ち続け、竹ひも時計ビン取り覗き見て、乱打一丁 鼻一つ勝ち逃げ。#140SFP


   *


 あいうえお作文というものがある。わかりやすい例をあげると、各行が「あ・い・う・え・お」で始まる文章を作る、というようなものだ。


   あ 案の定、

   い 行きつけのバーでは

   う 上から目線の

   え エステティシャンが

   お お前呼ばわりでからんできた。


 というようなものだ。ちなみにこれは昨夜近所のバーで実際に起きた出来事だ。あいうえお作文というのはやってみると面白い。過去に書いた「#140SFP(140字のSudden Fiction Project)」作品でも、実は何度も挑戦している。


【学習塾】「がっぷり四つに くんだなら、しまいにゃなれるよ ゆうめいじん。うまくちからを じくにのせ、ゆうゆう勝てるぞ、苦もなくね。」これなあんだ。(ヒント:あいうえお作文) #140SFP


【正月晴れ】正月晴れってぼくはよぶ。よく晴れ空気がきりっとする日を。うきうきキモチがはずむ日を。楽器鳴らそう声はりあげよう。つらいことなどふっ飛ばそう。ばれなきゃこっそり泣けばいい。レモンかじって空見上げ。(「しようがつばれ」であいうえお作文をつくろう) #140SFP


【あいうえお】あかるい あさには 頭さえ。いきる いしが いちばんさ。ウクライナの 臼は 移り気で、越権行為の えせ エテ公。怒られ 遅めに 訪れる。(ことば遊びがわかるかな?) #140SFP


 なんて調子だ。あいうえお作文に限らないが、こういう、ある種の制約があることは、書く上で不便になるような気がするのだが、実は案外そうでもない。全く何の制約もなく好きなように書いていい時よりもむしろちょっと制約がある方が好みかもしれない。というのも、全く何の制約もない場合には、あまりにも自由すぎて、次の展開、次の一文、次の一文字の可能性が常に無限大に存在してしまうから、なかなか決まらないのだ。


 一方、あいうえお作文ならば、書き出しの一文字が決定している。だから迷いようがない。それだけでもずいぶん書きやすくなる。おまけに、その一文字は自分が書く文章の内容や展開のことなどお構いなしに最初から待っている。なのでその一文字から始まる一文をある意味無理やりひねり出すことになる。まったくでたらめに適当なことを書いてもいいのだが、複数の案を考えるうちにわりとしっくり行くものが見つかる。


 そんな調子で書いていくと、思いもよらないものを書き上げることがある。展開そのものは書く前には予定できない。だから予定調和にはならない。でもまるっきりのでたらめかというと、常に複数の選択肢の中からしっくり行くものを選んでいるので、そういう点では自分の価値観や審美眼にかなったものを書くことになる。だから、やはりまぎれもなく自分が書いた文章になっている。


 簡単にいうと、自分でも予想できないような展開ながら、自分らしい文章を書き上げることができる。これは楽しい。こういう縛りや制限・制約は、一見不自由に思えるのだが自分自身でもあらかじめ想定できないような新しい表現を引き出すという意味では、実は創造に欠かせないものだということもできる。


 もうお気づきだろうが、冒頭の140字のSudden Fiction Projects作品は、あいうえお作文になっている。お題だけで30文字以上も使ってしまっているのに、その30文字を全部織り込んだ「あいうえお」作文になっているのだ。え? 意味がわからない? でもなんとなく状況は浮かんでくるでしょう? 謎めいた詩のようなものとしてはこれで十分ではないだろうか。


 正直に告白すると、実はこれまでに書き綴ってきた200編あまりのSFPエッセイは全てあいうえお作文で書いている。どのSFPエッセイも段落の最初の一文字を拾って繋ぐと常にわたしの母国に向けた暗号となっているのだ。その暗号に基づいて書くからいつも自分でも思いがけない独創的な発想が出てくるのだ。


 それでもまだ納得できない人もいるようだ。どうすれば納得できるのだろうか。


 理解できないからといって、バカにしてしまってはいけない。案外試してみれば気に入ることもある。酒でも手元に置いて、一度アイウエオ作文とやらを書いてみるか、どれどれ何から手をつけようか、二番煎じみたいになるのはいやだ、淡々とさりげないのがいい、つまみを口に運びつつ、ふざけた調子で書き進めるといい。ルールや縛りはごめんだが、意外な展開があるならいい。微熱めいた熱中が訪れ、留守番電話に切り替えて、脳みそをが不思議に回転し始める。いきなり浮かんだフレーズを、つるつる書き付けていくだけで、信じられないような速さで、続きがどんどん生まれてくる。西も東もわからぬままに、あいうえお作文とやらを、紡ぎ出すうち我ながら、まんざらでもない創作家気分。月が白く浮かぶ青空、台風一過の澄んだ空気、額にじんわりとにじむ汗は、遠くなったはずの夏の名残。ビルに集った人々のこと、とうに忘れていたけれど、ノックの音で思い出す。みんなどこへ行ったのだろう? 来世で会おうと誓いを立てて、異次元世界に解き放たれた。果てしない旅のはじまり。行き着く先の見えぬ物語。書き出してみたら書けた。賑やかに書き散らしたこの段落丸ごとあいうえお作文ってわかった!?(りばあさいどにたつふるいびるのいつしつにあつまつたひとびとのみらいはいかに!?)。


(「【リバーサイドに建つ古いビルの1室に集まった人々の未来はいかに!?】」ordered by 犬塚 浩志-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

※注意:このエッセイはフィクションであり、 実在の人物・団体・事件・SFPエッセイなどとは一切関係ありません。

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