第9話 Side クロウ episode.1
クレナは言ったんだ。
『この世界を正さないと』と。
オヤジさんが目の前で灰になってからというもの
ずっと4月1日から抜け出せなくなっていた。
何度朝を迎えても
ニュースキャスターは今日を4月1日だという。
これがエイプリルフールのネタなのだと
世界規模で巻き起こったモノなのだと言われた方が
正直マシかもしれない。
でも、何度4月1日を繰り返しても
クレナのオヤジさんは帰ってこなかった。
『何かが、あの子に関する何かがトリガーになっている事は確かだ。
だけれども不用意に口にするべきでは無いのだろう』
それから、何度4月1日を迎えたのか定かではなかった。
クレナはセレンちゃんと幼馴染のウイングを探し歩いていた。
そして気づいたんだ。
俺たちにはセレンちゃんの姿が見えないのに
ウイングにはその姿がしっかりと認識出来ていて
会話も行えている理由
オヤジさんが灰になって消えたのは
『この世界』が
セレンの理想郷であり
ウイングにとっては桃源郷であるが故に
邪魔な存在が消え去ったということに。
『セレンの目的はわからないけれど、それを明かそうとすれば父さんのようになるわ。
……彼との接触も、同様の危険は孕んでしまうけれど…』
それでも、この世界のままでは前に進めないことは分かりきっている。
世界は人の歩みを待ってはくれない。
ついて来れない者は、置き去りにされて
時間の波に飲み込まれてしまう。
そうして、溺れて
傷は言える事もなく膿んで
誰にも見向きもされないまま消えていくんだ。
このままではクレナもオヤジさんも、セレンちゃんも
あのウイングとかいう幼馴染も
前に進めなくなる。
いつかの日に差し出して貰った手を
溺れないように支えてくれた人を
今度は俺が救い出す番なんだ。
「クレナ。ウイング君と接触してみよう。
この世界の歯車を戻すんだろう?」
背中を押して貰った分、彼女の背中を押す。
この決断で俺が苦しんでも
彼女の進みたい方向へことが進むように
世界を動かすんだ。
それが、俺の世界に色をつけてくれた人にできる
唯一の恩返しだから。
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