第10話 Side クロウ episode.2

 そうして、クレナはウイングとの接触を図った。


俺たちには認識出来ないセレンちゃんの存在を


この世界の異常さを、あいつ自身に理解してもらう為に。


 結果的に、クレナはこの世界から存在を消された。


それを見て思い出したんだ。


セレンちゃん自身が事故にあったのもトラックに轢かれたと言っていたことを。


セレンちゃんには俺たちが認識出来るのに

俺たちには彼女の姿を認識することが出来ない。

その理由が明確に思い浮かんだ。


それは俺たちがセレンちゃんが事故に遭っていることを

正確に覚えていること。


どうやらウイングはそれを覚えていない様子だった。


泣き叫ぶばかりで

どうしてクレナが死んだのか


どうして自身が繰り返す世界に囚われているのか

理解できていない様子だった。


正直、コイツなんかの為にクレナが犠牲になったのかと思うと

怒りも湧いてくる。


でも、それでも

クレナがこの世界からあいつを

目覚めさせようとしていたことは確かで


それがクレナの願いなのだから

叶えてあげたいと思う。


自分を犠牲にして生きてきた彼女に出来る俺の恩返し。


1番大切だと思えるからこそ


俺を犠牲にしても笑っていて欲しいと願う存在の為に


きっと次は俺が灰になるけれど

それでも、きっとどこかで見てくれていると信じているから。


 セレンちゃんに居場所がバレないようにあいつを呼び出して


この世界の仕組みを


この世界の終わりを伝えるんだ。


みんなにとってハッピーエンドとはいかないが

世界を正しい道筋に戻すことができるかも知れない。


死の間際に願った桃源郷なのかも知れない。

それを崩す者は排除される世界


それがこの世界の本当の姿なのだろう。


ごめん、セレンちゃん。

それでも俺はクレナに笑っていて欲しいんだ。


泣き腫らした目でも


必ず俺が笑顔にするって決めたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る