第5話 Side クレナ episode.2

「昨日、4月1日だったよな?」


 TVを見ながらクロウは呟く。

彼も違和感に気づいているようだ。


「そうだと思うんだがな。

彼女は3月31日だと言うんだ」


TVの中のアナウンサーは

私たちの認識とは違う日付を言葉にする。


夢、かと思ったが


クロウまでもそう認識しているのであれば


夢ではないのか?


それとも、そこまで精巧に作り上げられた夢なのか。


がチャッ、バタバタバタ!


思案していると

玄関の開く音と

誰かが走り込んで来る音が聞こえた。


「はぁ、はぁ……クレナ!今日は何日だ!」


走り込んできたのは

既に出社していた筈の父だった。


「父さん、今日は3月31日だそうですよ」


アナウンサーからの言葉通りに日付を告げる。


すると


「俺は昨日月初めの書類作成をしたんだ。

なのにそれがなくなっているし

月末処理までしなくちゃいけないなんて……」


目を見開いて紡ぐ言葉。


あぁ、やはりこれは夢などでは無くて


現実に

私たちが計り知れない事象が

起こっているのだと確信した。


「……えぇ、私もクロウも

昨日は4月1日だったと思っていたのですけど」


私たちは

どこにいるのだろうか。


一体何の為に

この日付を繰り返しているのだろうか。


 胸騒ぎがした。

言い得ない疑問に拭えない疑念


そしてはたと気付いた。


セレンはこんなに朝早くに

誰にも無言で家を出る事など今までになかったのだ。


一声かけるなり、書き置きを残すなりしていた。


それが、彼の

ウイングの『世話係』を始めた時の約束だった。


私は息切れをしている父さんと


TVのアナウンサーを睨みつけているクロウを置いて


部屋を出た。


向かう先はただ一つ。


玄関には、セレンの靴が置いてあったのだ。


「出掛けている訳じゃない、のか」


ではどこにいるのか。


これだけ人が騒いでいるのに妹の声は一切しない。


それどころか姿すら現さない。


「セレン!セレン!」


名を呼んでみるが、それでも何も物音がしない。


「クレナ?どうしたんだい?」

「クレナ?セレンちゃんがどした?」


2人が玄関に顔を出して声をかけてくれる。


その日常と変わらない姿に安堵を覚えると共に

妹がいないという事に気付けなかったという

自分の身に起きている非日常に違和感すら覚えていないという事に


強い嫌悪と、異常な世界に対する不快感を得ていた。

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