第4話 Side クレナ episode.1

 何かがおかしいと思ったのはいつからだったか。

TVのアナウンサーは何も気にする風もなく

今日が3月31日だと告げる。


「昨日は4月1日だと話していなかったか?」


素朴な疑問を口に出したが

幸いなことに

我が家には私1人なもので

その問いに答える人も


その呟きに疑念を抱く人もいないのだ。


既に母親は他界していて

父親は会社に出勤している。


いつもであれば妹が一緒に食卓を囲んでいるはずだが


その姿がないので


恐らくは幼馴染のところにでもいって居るのだろう。


心臓の弱い幼馴染。


『私がお世話係ってことですか?』


と不貞腐れていたは思えない程

彼女は成長していた。


「恋心とは不思議なものだな」


「俺のクレナさんは誰に恋してんだ?」


口から溢れた言葉に反応があって

その方向へ顔を向ける。


すると

少しだけ口を尖らせらた青年が立っていた。


目元まで隠れた髪で

表情を窺い知ることはできないが


この声のトーンは

恐らく拗ねている。


何か勘違いしているのだろう。


「私が恋心を抱いているのはクロウだけだ。

もし、浮ついたら先に報告するさ」


口元が少しだけ


パッと見ただけでは理解が難しいほどに

ほんの少しだけ緩んだ。


表情には出ないが

彼は左耳につけた雫型のピアスに触れていた。


だから


「ほら、これは証拠。

君と私の約束だろう?」


そう言って私自身がつけている

右耳の同型のピアスを見せる。


「そう、だな。

疑うような言い方、悪かった」


 恋心とは不思議なものだ。


不満ばかり述べていた少女が

勇んでお世話係をしてみたり


自己肯定感の低い青年が

少しだけ自信を持って人生を進もうとしたり


……執着心などまるでなかった私が

独占欲を見せてみたり。


なんの要因で起こるか分からない。


分からないが故に解明したくなる。


まぁ、既に脳内物質の影響だという事は

話されている訳だが

それでも、なぜその物質が出るのか

それによる影響がここまで大きなものなのか


不可思議なことは多い。


「人は、不思議だな。クロウ?」


妹以外で『初めて』護りたいと感じた相手。


普通は逆だろうと笑われるかも知れないが

この関係が、私には心地良い。


「そうだな」


不器用で、自己肯定感のまるでない

捨て猫のような青年を見つけた時


『護らなきゃ』という想いと同時に

『この人であれば、私の話を聞いてくれるかも』

という衝動にも駆られた。


 周囲からの羨望、畏怖を集めていた自覚はあった。

それでも、私の生活の平穏を守る為には

仕方のない犠牲だと思っていた。


それでも、私もたまには弱音を吐きたい人間なのだ。


心を打ち明けれない世界は


酷く窮屈なんだ。

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