恵令奈先輩と付き合い始めたから、幼馴染と女部長から言い寄られた件

第35話 恵令奈先輩と付き合っている場合、これって、浮気になるのだろうか?

 なんで、こんなことに……。


 阿久津久人あくつ/ひさとは、なんとも言えない感情を抱き、大きな溜息を吐いてしまう。

 それにしても、双方から伝わる、おっぱいの誘惑には、なかなか、勝てそうもなかった。


 ヤバいって、この展開は……。


 夏休み前に、正式に付き合うことになった彼女――神崎恵令奈かんざき/えれな先輩がいる。

 先輩は爆乳であり、学校内でもダントツトップレベル。

 

 久人は元々、先輩の爆乳に惹きつけられ、好意を抱くようになった。

 けど、今では心の底から、先輩の中身を受け入れ、好きになったのだ。

 だがしかし、いくら好きになったとしても、婚約までには至れていなかった。

 先輩の両親から許されたのは、高校生の間だけ、付き合ってもいいということ。


 やはり、結婚となれば、両親の態度もそうそうブレることはないだろう。

 恵令奈先輩には、元から婚約者がいるのだ。

 神崎家の家柄的にも、それなりの理由があってもしょうがないだろう。


 恵令奈先輩と両想いな関係性だったとしても、両親の許可がなければ、そうそう婚約なんてできない。


 久人は人生の難しさを痛感していたのだ。




 それにしても、夏休みに入ってから、大変なことばかりが続いていた。

 久人には、爆乳な美少女がいるのだが、別の女の子と付き合う羽目になっていたのだ。


 恵令奈先輩と正式に、婚約した後であれば、確実に浮気していることになる。

 だが、そういった間柄にはなれてはいない。

 むしろ、婚約しなかったことで、ギリギリ、言い逃れできる環境下ではあるのだが、知り合いに、今の状況を見られてしまったら絶望的である。

 久人は疚しく思いつつも、双方にいる二人の美少女と街中を歩いていた。


「ねえ、湊―、次はどこに行こっか? あっちの方? それとも、こっち?」

「次は私が決めさせてもらうから。ひさともそっちの方がいいでしょ?」


 双方から聞こえる女の子の声。


 右側からは、ショートヘアスタイルな幼馴染の早坂汐里はやさか/しおり

 左側からは、ポニーテイルスタイルな部長の大段東海おおだん/あずみ


 二人の美少女に囲まれ、日曜日の今日、街中を歩いていたのだ。


 普通に歩く分にはいいのだが、なんせ、おっぱいの大きい女の子と密着したまま、人前を移動している。


 他人に見られながらだと、気恥ずかしく、久人は、頬を紅葉させ、少々俯きがちになっていた。


 こんな、人前で堂々と歩きたくないんだけどな……。

 久人は別のところで遊ぼうといったのだが、汐里と、東海先輩から強引に街中に連れ出されていたのだ。

 これはもう、逃れられない運命なのだろう。

 知り合いにバレないことを、神に祈るしかなかった。






「ねえ、久人はどこがいい?」

「ひさとは、私と一緒に、今から映画館に行くんだよね」

「えー、久人はそれでいいの? 勝手に決められてんじゃない?」

「勝手じゃないよね、ひさと」


 再び、双方から問われる。


 おっぱいを感じながらも、久人は必死に冷静さを保とうとしていた。

 このままでは、本当にどうにかなってしまいそうである。


「お、俺はどっちでもいいけど」


 久人は心臓の鼓動を早めながら呟いた。


「えー、そんなの適当過ぎじゃない?」

「当たり障りな感じゃなくてさ。ひさと、ハッキリとしてよな」


 また、双方からのおっぱいに圧倒される。

 そろそろ、下半身がヤバかった。




 本来であれば今日、恵令奈先輩とデートする予定だった。

 しかしながら、それを断ることなんてできなかったのだ。

 ゆえに、用事があると、昨日、恵令奈先輩に、申し訳ない心情の中、断りのメールを送ったのである。


 そんなこともあり、今日は色々な意味で、憂鬱であった。が、成長しているおっぱいを双方から感じられている時点で、勝ちなのかもしれない。


 そもそも、こうなったのも、昨日、妹の弥生やよいのせいである。結果として、恵令奈先輩との大事なデートを邪魔されてしまった。


 どうにもならない状況に、しぶしぶと従うしかできなかったのだ。




「まあ、別に映画館でもいいわ」

「じゃ、映画館な。ひさともそれでいいよな?」

「……うん、それでいいよ」


 久人は余計に意見せず、二人の美少女に連れられ、ビル中にある映画館へ向かう。

 その最中、街中にいる人らの視線が痛かったものの、必死に久人は堪えて、ひたすら歩くのであった


 その建物に入り、三人はエレベーターに乗って、映画館フロアへと到達する。


 夏休み期間中ということもあり、辺りをあっさりと見渡しただけでもわかるほどの多さ。それなりに混んでいる印象。


 三人は、映画館フロアにある現在上映している映画ポスターを見やることにした。

 夏ということもあり、夏に関連したものが多い。


 ホラー系でもいいのだが、二人はどう思うのだろうか?

 汐里は、そこまで怖がりではなかったはず。

 東海先輩はどうなのだろうか?

 先輩もそれでいいと、頷いてくれるのなら、ホラー系の映画を見てみたいと思った。


「私は、こういう感じの映画がいいかな?」


 汐里は、恋愛系の映画を選んでいた。


「私はアクション系とか、そういうのもいいんじゃないかなって、思うんだけど」


 東海先輩は、激しい感じが好きらしい。


「ね、久人は何がいいの?」

「俺は……」


 久人はもう一度、壁に貼られているポスターをあっさりと見渡し。右側にいる幼馴染の方を向いた。


「じゃあ、夏ってことで、ホラーとかで?」

「ホラーね、私は別にいいけど。東海先輩は?」

「私は……まあ、いいけど。元々、映画を見ようと言い出したのは、私だしね……」

「二人とも、ホラーで一致?」


 久人はおっぱいを感じ、双方を見、試しに問う。


「私はOKだから」

「わ、私も、ホラーは普通に見てるしな……そんなの簡単だよ。でも、アクション系もいいと思うんだけどね」


 左側にいる東海先輩の様子がなんかおかしい。

 先ほどまで、明るく楽し気に振舞っていたのに、挙動不審な態度を見せていたのだ。


「じゃ、決まりだね」


 汐里は、なぜか、ニヤニヤしながら、勝手に話を進めている。


「私、チケットを購入してくるね」


 汐里はそう言うと、久人から離れる。彼女は人混みの中へと紛れ込んで行ったのだ。


 なんだか、大変なことになりそうだと思い、久人は再び、ポスターの方を見やった。


「……別に大丈夫だし……別に……そんなの大丈夫だし……」


 東海先輩の震えた声が聞こえた。


「どうしたんですか?」

「え? な、な、何かな?」


 東海先輩は久人と視線が合うなり、動揺しながら後ずさっていた。

 普段なら逃げ腰ではない先輩。やはり、挙動がおかしい。


 本当にどうかしたのだろうか?


「一応、聞いておきますけど、東海先輩、ホラー系とかよく見るんですか?」

「まあ……一応ね」

「だったら、問題ないですね」

「あ、ああ……でも……」

「え? でも、なんですか?」

「んん、なんでもない……でも、アクション系でも」

「東海先輩、ホラーが苦手だったり?」

「ば、バカにするな。私は、そんな人じゃない。失礼な奴だな」

 東海先輩は瞳を思いっきり瞑りながら、強い口調で言いきっていた。


「大丈夫でしたら、上映中、食べるものを買いに行きましょうか?」

「……ん、ん、まあ、行こうか。うん……」


 東海先輩は自身の中で納得したかのように、躊躇いがちに頷いたのだった。

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