第32話 人生の先輩として言うけどね…君、もう少し自分を見つめ直したら?
これで、終わりだ……。
そう思ったのは、久人だけではない。
久人と協力してくれている、他の四人もそう思ったことだろう。
ようやく気分が晴れる。
もしかしたら、校内にいる人らも、多少なり気分が晴れたかもしれない。
そこらへんは定かではないが……。
朝の学校。
八時くらいの時間帯。
目的は一つ。
あいつの情報について垂れ流す事。
それに加え、以前、副生徒会長が、
すべてが明らかになっていく。
この時を待ち望んでいたかのように、特に生徒会長である
今、久人は恵令奈先輩と共に、生徒会室の客室にいるのだ。
二人は対面するようにソファに座っている。
「恵令奈先輩? これでいいんですか?」
「ええ。これで十分よ。今のところ、あの子は登校していないみたいだし。あの子から反論されるまで、できる限り放送をループするだけよ」
恵令奈先輩は楽しそうだった。
そんな彼女の顔を見るのは久しぶりな気がしたのだ。
久人も次第に気分が落ち着いていき、先輩に共感するように笑みを見せ始めるのだった。
「これで、あの子はもう言い逃れはできないわ。このノートに記されている事。絶対に許さないし」
ソファに座っている先輩は、昨日入手した秘密のノートを右手に持って、余裕のある態度を見せていた。
恵令奈先輩は根に持っているようだ。
まあ、それはしょうがないとしか言いようがない。
それほど、そのノートは先輩を批判した内容だったからだ。
あいつはもっと苦しめばいいと思う。
あいつが学校に来た頃には、もはや、言い逃れをしている場合ではなくなっているだろうと――
久人も、あいつが苦しんでいる顔を想像すると、すっきりとした。
あそこまで罵声を浴びせた事。
それに、先輩へ、ヘイトを集めるようにした行為。
絶対に許すつもりはない。
久人の信念はそうそう変わることはないだろう。
学校の権力を使い、掲示板で人の悪口を拡散するような最悪な奴は苦しめばいいのだ。
「……ねえ、ちょっと、騒がしくなっていない?」
「え? 何がですか?」
「廊下の方よ」
「……確かに、なんか、声がしますね」
久人も口を閉じ、廊下の方へ注意深く意識を集中していると、人の声がハッキリと聞こえてきたのである。
もしや、あの場所に集まっているのだろうか?
生徒会室は三階にあり。ここから数歩歩いたところに放送室があるのだ。
副生徒会長を味方する奴らの反論の声かもしれない。
二人は立ち上がり、一旦、廊下に出ることにしたのだ。
廊下に出た時には、状況が一変している感じだった。
三階廊下の一部の場所に、数人が集まっているのだ。
そこには、あの人物の姿もあった。
それは副生徒会長のこと。
彼は、学校に登校していたらしく、放送室前で抗議しているのだ。
状況を抑え込むため、放送室からは東海先輩が出てきて何とか宥めている。
「おい、お前、何してくれてんだよ。お前らが勝手に放送室を使って、言いふらしやがって……俺の学校生活がさ……チッ……どうしてくれるんだよ。お前に責任が取れるのか?」
副生徒会長は、東海先輩に突っかかっているのだ。
「何とか言えよ。というか、お前さ、ここの委員会じゃないだろ。勝手に使ってるとか、後で先生に言っておくからな。まあ、お前みたいな奴、停学になると思うけどな」
副生徒会長は吐き捨てるように、強気な姿勢で言い、マウントを取ってくるのだ。
生徒会という立場を利用し、東海先輩を潰そうとしている。
久人と恵令奈先輩は、生徒会室の前からでも、そんなやり取りが行われていることに気づけるほどだ。
二人は止めように入ろうとするが――
「ねえ、そういうことで誤魔化すの辞めたら?」
「な、なんだよ」
東海先輩の切り替えしに、副生徒会長は後ずさっている。
「お前、俺が誰なのかわかってるのか?」
「わかってるさ。だから言ってんの。君さ、立場的には、生徒会の方が上かもしれないけどね。もう少し、人に対する礼儀をわきまえた方がいいよ」
「――ッ、なんで、お前みたいな奴に」
「君は、私の友人でもある恵令奈を陥れたんだ。それなりの代償を取ってもらうから。あと、この子の味方をするために、やってきた人らもそうだけど。同罪だからね。全部、この子のせいにするのもなしね」
東海先輩は、副生徒会長と、その後ろにいる人らに淡々と言う。
説教みたいな感じではなく、一歳しか違わないが、人生の先輩として、しっかりと向き合い、意見しているのだ。
「私も本当はこんなこと、放送室を使って流したくはなかったさ。けど、君たちの言動があまりにも目に余るものだったし。バツとしてね。それと、さっきの放送は先生らの耳にも入っているだろうし。色々と尋問されるかもしれないけど。そこは自分の罪と向き合いなよ。最後に、掲示板とか、今日から廃止ね。それか、別の人に管理してもらうとか。そういう対処をしてもらわないとね」
「……俺は……」
副生徒会長はどうしても納得がいかなかったようだ。
今までとんとん拍子でやってきて、後は生徒会長である恵令奈先輩を対処するだけで完璧だったのである。
「俺らもう無理です……」
「いい加減、罪を認めましょうよ」
「その方がいいって」
副生徒会長と協力してくれていた人は一同に懺悔する用意はできているようである。
その人らの姿に、副生徒会長は絶望し、頭が真っ白になった方のように、膝から崩れ落ちるのだった。
もう、自分を助けてくれる存在はいないと痛感したからなのだろう。
彼は、それから言葉を発することなく、協力者と一緒に三階を後にしていくのだった。
久人と、恵令奈先輩が到達した頃には、もう二人の出番はなくなっていたのだ。
「これで話は終わりだし。解決ね」
と、東海先輩は二人に笑顔を見せてくれる。
その後、放送室に居た、妹の
これで一旦、解決ということになるのだろうか?
少々荒っぽいやり方にはなってしまったものの。こうするしか、解決する手段はなかったと思う。
久人はそう感じてしまうのだ。
でも、これでようやく恵令奈先輩の気分が晴れてくれたのならいい。
久人は前向きに考えることにしたのだった。
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