第29話 俺は、絶望的な今の環境をどうにかしたい
「どうするの? お兄ちゃんはさ」
「それは……」
久人は気まずかった。
視線を妹からそらす。
なんせ、今日の朝、
確かに、妹のおっぱいは貧乳である。
それは本当であり、昔とさほど変わりはなかった。
なぜ、昔と変わっていないかと断言できるとかというと、見たことがあるからだ。
別に疚しいことではない。
ただ、小学生の頃、一緒にお風呂に入ったことがあった。
合法的に見ることができたのだ。
その時と比べて変わっていないということは、成長していないということ。
しかしながら、今日の朝、ハッキリと、その膨らみを直視できたわけではない。
一瞬の出来事で、大きさをしっかりと把握できたわけではないのも事実。
もしかしたら、多少は大きくなっていたのかもしれない。
というか、なぜ、弥生はブラジャーをつけていなかったのだろうか?
久人は対面している弥生を見やった。
「ん? どうしたの? なんか、良い提案とかあるってこと?」
「え、いや……そういう事じゃないさ」
久人は再び、視線を不自然にそらした。
ただ、久人は妹のおっぱいを制服越しに見つめているのだ。
そこまで大きくはない。
そんなことを、ふと思う。
昼休みの時間。別の方から、薄っすらと誰かの声が聞こえるものの、誰も裏庭に来る様子はなかった。
裏庭に何かがあるわけではない。
ベンチと、植えられた木。それと、校舎の壁でできた日陰。それくらいであり、ここを訪れる人は殆どいないのだ。
来る人と言えば、大半が一人になりたい人や、秘密の話をする人くらいだろう。
久人は妹と一緒に、それらに該当する秘密の話をしているのだ。
変な噂を拡散させた副生徒会長をどうするかという話題でやり取りをしている。
でも、なかなか、良い提案がない。
それが現状である。
「お兄ちゃん? 私の胸ばかり見てない?」
「は、は? 別に……み、見てないし」
久人は見ていないふりをする。
「へえぇ……そう? なんか、本当に視線を感じたんだけど。おっぱいばっかりに」
「違う……から……」
久人は気まずそうに言い返した。
「もしかして、私の貧乳、好きになったってこと?」
「そんなわけないだろ……俺は爆乳派だ……以前も言っただろ」
「はいはい、そういうことにしておきますよ。でも、私はいつでもいいからね」
「え? 何が?」
「んん、なんでもないよー」
「何だよ……」
久人は、さっき自分の言ったことを思い出し、気まずそうに立ち振る舞うのだった。
「それで、お兄ちゃんはどうやって、副生徒会長を対処するの?」
「それは、まだわからないというか。色々と対策は打ったんだ。けど、対策がなぁ……」
久人は頭を抱えた。
絶望的な環境下。
あの面倒な副生徒会長と関わりたくなかった。
けど、今のままでは、生徒会長の恵令奈先輩が危ない。
それに、今抱えている問題を処理できなければ、
なんとしてでも、解決しなければ……。
久人が腕組をしつつ、深く悩みこんだ姿勢になる。
「……」
考え込んでいると――
「あれ? ここに居たんだね、久人ッ」
誰かと思う前に、声質で分かった。
その子は、
彼女は勢いよく接触してきて、瞼を閉じて考えていた久人の右腕に抱きついてきたのだ。
「うわッ、な、なんだよ、急に」
久人は瞼を見開く。
そして、右にいる汐里を見たのである。
ショートヘアの彼女は、軽くウィンクをしてさらに距離を詰めてくるのだ。
「なんの話をしてたの?」
汐里は強引に話を進めてくる。
「汐里先輩。今ですね、副生徒会長の件について話していたんです」
「副生徒会長? ああ、あの人ね」
汐里は、弥生の言葉に対し、頷くなり、久人から離れるのだった。
「あの掲示板の件よね。久人は、証拠を集め終わったとか言っていなかった?」
「ま、まあ、そうだけどさ」
「ん? どうしたの?」
「あの件なんだけど、失敗に終わったんだ」
「え?」
汐里は驚き、目を点にしたのである。
「じゃあ、私たちの努力は何だったの?」
「ごめん……何もできなかった」
「……なんで?」
「それはさ。生徒会室の窓とか、扉が開いていたらしくて」
「……東海先輩が閉めていなかったってこと? そうなるよね?」
「う、うん。だけど、その件については、あまり指摘しないでほしいんだ。そもそも、勝手に生徒会室に入ったこと自体が、よくないことだしさ」
「……まあ、そういうこともあるよね。だとしたら、別の方法を考えないとね」
汐里は近くにあった木製のベンチに腰かけた。
「はあぁ……あの先輩ねえ、まあ、どうしようもない人」
ベンチに座る汐里は、ボソッと呟いた後、久人と弥生の方を交互に見る。
「ねえ、明日休みじゃない。だからさ、私の家に来て、一緒に話そ。そっちの方がリラックスして会話できるんじゃない?」
「そうだね」
弥生は承諾するように頷くのである。
「お兄ちゃんもそれでいいかな?」
「まあ、そうだな。急に決めてもどうしようもないしな」
焦って決めて、変な結論に至ってもしょうがないのだ。
冷静に決めた方がいい時だってある。
「東海先輩も一応、呼んだ方がいいかな?」
「……うん。そうだね。その方がいいかも」
汐里の声のトーンは低い。
あまり積極的な反応の仕方ではなかったが、一応、頷いてくれたのだった。
久人はあとで、東海先輩に連絡しようと思う。
「それと来週でさ、学校終わりでしょ?」
「ん? ああ、そういや、来週の木曜日くらいで終業式か」
妹の問いに、久人は確かにと思った。
「来週までに、何とかしないとねぇ。こんなの続くの嫌だし……久人が、皆から嫌われるとこなんて見たくないしさ」
汐里は悲し気な顔を見せ、ベンチに座る彼女は何かを考え込むように、落ち込んだ姿を見せていたのだ。
これ以上、汐里の悲しむ姿勢を見たくない。
久人はそう思い、決心を固めるのだった。
自分が不甲斐ないせいで、いつも一緒にいる女の子らが悲しむと考えると、申し訳なくなる。
普通に生活したいという想いが、じわじわと内面から湧き上がってくる。
久人は、校舎の壁に寄りかかる妹と、木製のベンチに座る汐里を交互に見つめるのだった。
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