第28話 恵令奈先輩のことを伝えた翌日、妹が積極的になったのだが…⁉
「お兄ちゃん、やっと起きた?」
妹の愛らしい声が聞こえる。
それと同時に、体が重く感じるのだ。
何だ、これ……。
すると――
「ねえ、早くしないと、遅れちゃうよ?」
「……んん……」
久人はまだ寝ぼけている故、ハッキリとした意識を保てないでいた。
カーテンから入り込んでくる朝の僅かな光によって、次第に意識が鮮明になってくる。
「……というか、なんで、俺の上に乗ってんだよ」
「別にいいじゃん。それに、お兄ちゃんって、全然起きなかったし」
「だからって、俺の上に乗るなって……」
久人は面倒くさそうに言った。
久人は今、ベッドで仰向けになっており、パジャマ姿の弥生が、ゆっくりと上の方へと移動してくる。
「ちょっと待てって、俺の腹の上に居たら、俺が起きれないだろ。ちょっとどいてくれ」
「いや」
「なんでだよ」
「いいじゃん……」
「どうした?」
「何でも」
「よくわからないんだが……」
久人は面倒くさそうに呟いた。
「ねえ、生徒会長とは距離が結構縮まったんだよね?」
「ああ」
その件については、昨日の夜、自宅に到着し、その夕食時間中に話した。
大体のことは妹も把握している。
「ねえ、結婚まではたどり着いていない感じでしょ?」
「そうだな」
「生徒会長と結婚したいんでしょ?」
「まあ、それはな」
「でもさ、その前に、二人の件はどうするの?」
「汐里と、東海先輩か?」
「うん」
「それは……後で断るしかないというか」
「断れる?」
「まだ、わかんないけど……今は、色々なことが重なって、部活にも行けていないしさ。それらのことを解決できそうな気はしないけど」
久人にはやることが多かったのである。
副生徒会長の件と、掲示板。そして、学校内に湧いて出ているアンチなど。
それらの存在により、汐里も東海先輩も、恋愛的な感じではなく協力的な感じになっていた。
多分、この一件が解決されれば、もっと積極的に距離を縮めてくるだろう。
あの二人には世話になっている。だから、断ろうと思っても、そう簡単に断れるような雰囲気でもなかった。
どうしたらいいのか、久人は迷っていたのである。
「お兄ちゃん? そんなに考え込まなくてもいいよ。困ったら、私に相談すればいいから。そうすれば、なんでもしてあげるから」
「わかったよ……それより、そろそろ、俺の上からどいてくれないか?」
「いいよ……でも」
「でも?」
「キスして」
「は?」
意味が分からなかった。
どういう事なんだ?
「だから、キス」
「……俺、恵令奈先輩と一応付き合ってんだけど?」
「でも、生徒会長はいないよ。それに、バレなきゃ問題ないよ」
「だとしてもだ。そんなことできないだろ……俺らは兄妹だしさ」
「兄妹じゃないとしたら?」
「――⁉」
久人はビクッとした。
この前、そんなことを、妹が話していたような気がする。
もしや、本当に血が繋がっていないのか。と、意識すると動揺を隠せなくなる。
久人は視線を妹からそらし、不自然な対応をしてしまう。
「もしかして、意識しちゃってる?」
「別にしてない……」
「へえ、そうなんだ」
弥生はツインテールを右手で触りながら顔を近づけてくるのだ。
弥生が、実の妹ではない……?
いや、まさか……?
久人は内心、ドキッとしていた。
心が掴まれたかのように、心臓の鼓動が変になってくる。
弥生の唇が重なる直前、久人は両手で妹の肩を触った。
「どうしたの、お兄ちゃん? やっぱり、恥ずかしいんじゃない?」
「違う……から。それよりさ、弥生は実妹なのか? それとも、違うとか」
久人は緊張した面持ちで問う。
目と鼻の先にいる妹。
真剣に彼女と向き合いながら、瞳をしっかりと見つめ、聞き出そうとしていたのだ。
「……お兄ちゃん」
「な、なに」
「それはね」
妹の声質が一段階下がる。
不安な空気感が漂う中、久人は弥生の言葉を伺う。
もし、本当に血が繋がっていないのだとしたら。と、そう考えると怖い。
唾を呑み。
短い時の間に、久人は色々なことを思考していたのだ。
「……からね」
「え?」
「違うからねってこと」
「⁉」
久人は目を丸くした。
その直後、妹は楽し気に笑っていたのだ。
「お兄ちゃん、騙されてるじゃん」
「なッ、なんだよ、嘘なのかよ」
「そうだよ。私、生まれた時から一緒にいたじゃない。血が繋がっていないとか、ありえないからね」
「あはは……だよな。そうだよな」
久人は乾いた感じの笑い声で、その空気感を乗り越えようとした。
「嘘なのかよ」
「そうだよ。お兄ちゃん、引っ掛かってるしさ。さっきの顔、面白かったよ」
「笑うなって、そういうことでさ……」
久人は自分のことがバカみたいに思えた。
弥生は正真正銘の実妹なのだ。
それがわかっただけでも、心のモヤモヤが解消されたような気がした。
「その話は一旦、終わりで。それより、俺、起きたいんだけど」
「いいよ」
「だから――」
「でも、キスね」
「まだ、それやるのかよ」
「うん。じゃないとベッドから立たせてあげないから」
本当に困った妹だと思う。
面倒くさそうに瞼を閉じていると、ふと、口元に柔らかい感触が当たる。
それは、昨日、恵令奈先輩から感じた唇と同じようなもの。
久人が瞳を見開いた時には、弥生とキスをしているのである。
「――⁉」
ビックリしたのち、久人は強引に離れようと試みるが、できそうもなかった。
数秒後、弥生はようやく久人の口元から唇を離してくれたのだ。
「ねえ、お兄ちゃん、私の唇どうだった?」
「なんで、感想なんて……」
「私は、お兄ちゃんとのキス、よかったけど」
「勝手に評価するなって」
久人は視線をそらしながら言う。
なんで、朝っぱらこんなことに。
そもそも、なぜ、昨日、恵令奈先輩のことについて話したのに妹は積極的になってくるのだろうか?
この前の裸エプロンもそうだったが、血の繋がった兄妹なら、そういったエッチなことをしたいとは思わないのが普通。
現実の兄妹同士で、恋愛を意識するとか殆ど聞いたことがない。
「あとね」
「ん?」
久人は妹の声に反応する。
すると――
弥生は上半身のパジャマを脱いだのだ。
でも、どうせ、ブラジャーでしたとか、言うのだと、久人は思い、何となく妹の方を見る。
「⁉」
久人が思っていたのとは違っていた。
弥生はブラジャーすらもつけていなかったのである。
おっぱいがハッキリと見え、貧乳であることが明らかになったのだ。
「お兄ちゃん、顔赤いよ?」
「う、うるさいって」
「じゃ、私、一階のリビングで、朝食の準備しているから」
「……」
久人は何も言い出せなかった。
気まずくなり、押し黙ったまま、ベッド上で座り、一人でモヤモヤと考え込むことになったのだ。
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