第21話 バレてしまった⁉ …のか? …違う?

 今まさに、サイトを確認していた。


 じりじりと、室内が暑くなってくる。

 先ほど窓を開けたのだが、本当に息苦しく感じた。

 額や頬を汗が伝い、パソコンを前に、椅子に座っている久人は制服の袖らへんで拭う。


 真剣にやらないとな。

 苦しかったとしても、諦めるわけにはいかないし……。


 阿久津久人あくつ/ひさとは、二人の女の子と共に、生徒会室の部屋に勝手に侵入し、そして、パソコンを通じて学校の掲示板を確認していたのだ。


 生徒会のパソコンを見ても、通常の掲示板しか映っていない。

 裏サイトを開くためには、やはり、パスワードとなるものが必要になってくるだろう。


 久人はサイトを流し見しつつ、パソコンのフォルダを個別に確認していた。

 できる限り、多く開き、そこに記されているファイル名をザっと見やる。


「……」


 久人は黙ったままだった。

 生徒会のパソコンだけあって、色々な情報が混在している。パッと見て、何がどの資料ファイルなのか把握できなかった。


 その上、誤って在籍している生徒の個人情報を見てしまわないか、それだけ、ヒヤヒヤしてしまうのだ。


 これは責任第一であり、暑さにやられ、変なところをクリックして、データを消去してしまったら、退学どころか、警察沙汰になるかもしれない。


 久人は真剣な瞳を見せ、据え置き型のパソコンと睨めっこを始めた。


「ねえ、何かわかった?」

「ひさと?」

「……」


 双方からの女の子の声が聞こえる。

 が、意識を集中しているため、すぐに耳には入ってこなかったのだ。


「……」


 ようやく。そして、何となく、久人はわかってきた。

 どのファイルを見ればいいのかを――


 時間が許す限り、できるだけパスワードと関連する多くのファイルを開こうと思う。


 地道な作業ではあるが、暑さの中、必死に我慢して全身を集中させ始めるのだった。


「ねえ、久人?」

「……汐里はさ、ちょっと手伝ってほしい」


 右隣にいる早坂汐里はやさか/しおりの発言に、久人はすぐに返答する。


「え……う、うん」


 汐里は久人の右隣の椅子に腰を下ろし、パソコンを見つつ、久人からの指示を貰っていた。


「東海先輩は、誰か来ないか、廊下に出て確認しておいてください」

「え、あ、ああ。わかったよ」

「出る時は、見つからないようにお願いします」


 久人は真剣な面持ちで先輩に言った。


「じゃ、校舎の廊下を確認しておくから。もし、何かあったら、スマホに連絡を入れるから」

「はい。それでお願いします」


 久人は再び、パソコンと睨めっこ状態になった。

 大段東海おおだん/あずみ先輩は生徒会室の方の扉から出、校舎の見回りに行ったのである。






「ねえ、久人?」

「……何?」


 久人ひさとはぶっきら棒な話し方になってしまった。

 幼馴染が相手だったとしても、今は気を緩ませることなんてできないからだ。


「なんか……さ」

「ん?」

「んん、なんでもない。気にしないで……そうだ、久人? チョコでも食べる?」

「チョコ?」

「うん、さっきから頭ばかり使ってるでしょ? 疲れてると思うし、ね」

「そうだな……」


 久人は画面上を見、簡単な感じに言った。


 右の椅子に座っている彼女は制服のポケットから、お菓子のようなものを取り出す。

 そのお菓子は包み紙のようなものに覆われていた。


 久人はそれを見る。

 何だろうか……?


 久人は疑問を抱きつつ、隣の椅子に座っている汐里しおりから貰う。

 その包み紙から出てきたのは、ハートの形をしたチョコだった。

 コンビニで購入したものなのだろうか?


 そのチョコを手に取ると、指にチョコクリームの部分がべっとりと付着してしまう。


「ごめんね……溶けちゃってるけど。味は普通だと思うから、ね。食べてみてよ」


 汐里は上目遣いで、久人の様子を伺い、チョコを食べるところをまじまじと見たいようである。


 久人は一旦、気を緩め、パソコンから視線をそらしたのち、チョコを口にしたのだ。


「……」


 久人は咀嚼しながら再び画面を見、パソコンを操作し始めるのだ。


「……美味しいと思うよ」

「え? 本当?」

「うん」

「よかったぁ……」

「……もしかして、これってさ。手作り?」

「そうだよ。よくわかったね」

「まあ、な。大体、分かったよ」


 口にする前は購入したものだと見間違うほどのヴィジュアルだったが、口にして分かった。

 長年一緒にいる関係なのだ。大体、舌に伝わってくる感触で察することができたのだ。


 久人はチラッと、右の方を見やると、汐里は嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「ねえ、それに何か入っていたか、わかる?」

「え?」

「わからない感じ?」

「……そ、そんなことより、掲示板のパスワードの方が重要だから。その話はあとでな」

「……」


 彼女はそれから大人しくなり、ただ、久人が作業しているところを見つめているだけになっていた。






「これって……」

「どうしたの?」

「いや、見つかったというか。ああ、これか……」


 久人のテンションがじわじわと内面から湧き上がってくるようだった。

 それからというもの、久人は手にしたスマホを操作し、学校の掲示板を開き、パスワードを入力してみる。


「もしかして?」

「うん」

「やった的な?」

「ああ」


 汐里の声のトーンが上がっていく。それに応じて、久人も嬉し気に返答していたのだ。


 二人のテンションは共鳴するように高ぶる。ようやく、息苦しい環境下からの解放に近かった。

 そんな中、遠くの方から薄っすらと、誰かが走ってくる音が聞こえる。


 生徒会室にいる二人は、その音に体をビクつかせてしまう。“まさか、生徒会?”と思いつつ、一瞬、硬直する。


 逃げないといけないが、まだ開いたファイルやフォルダを閉じていないのだ。

 どうしようもできない事態に、二人はあたふたしていた。


 刹那、絶望を知らせるように、生徒会室の扉が無慈悲にも開かれるのだ。二人は終わったと悟った。


 けど、違ったのだ。

 開けられた扉から姿を現したのは、巨乳な東海あずみ先輩。彼女は息を切らしていた。


「ちょっと、もう来てる」

「「え?」」


 二人は現状を理解するまで少々時間がかかり、東海先輩だったとしても、現実だと受け入れられてはいなかった。


「先輩ですか」

「ビックリしたぁ……」


 汐里、久人は、胸の内を変にドキドキさせ、胸に右手を当てていた。


「ボサッと座ってないでさ。早くさ。早くしないと生徒会役員がくるって」


 先輩は激しい口調で、二人に言う。


「じゃあ、早く逃げないとじゃん」


 汐里がハッとし、席から立ち上がる。


「だから、さっきから、そういってるじゃんって」


 東海先輩は、二人を交互に見、焦りながらハッキリと言い切ってたのだ。

 久人は、画面上に開いているファイル、フォルダをすべて閉じる。


「もう見つかったの?」

「大丈夫、ギリギリね」


 久人は頷くように返答した。


「そうか。だったら、もう出るよ」 

「でも、出ると言ってもさ。もう、こっちに向かってきてるんでしょ?」


 汐里は先輩にそう言いつつ、室内をあっさりと見渡し、散らばっている資料はないかを確認していた。


「そうだね」

「……じゃあ、隣の客室に隠れよ。そこで一旦身を潜めた方がいいよ」


 久人は提案する。


「わかった。じゃ、隣に移動しようか」


 東海先輩は納得するように頷く。

 

 三人は一旦、その部屋に隠れようとする。

 その直後、誰かが生徒会室の扉のドアノブを掴み、回す音が聞こえた。


 三人は急いだ。三人が客室の方の扉を閉めた直後、生徒会室の扉が開かれたのであった。






 丁度、役員会議を終えた生徒会長が、室内に入った頃合いだった。


「……どうしたんですか? 副生徒会長?」

「……」


 同じ役員の人から問われていたのだ。

 副生徒会長は少々無言になり、室内を見渡す。


 何かがおかしいと、彼は感じていた。


「……閉めていた窓が開いてる? それに、生徒会室の扉が施錠されていない……?」

「え?」

「いや、なんでもない。じゃあ、さっきの会議のことについて、まとめに入ろうか」


 ――と、副生徒会長は、誰にも見えない位置で口角を上げていたのだった。

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