第20話 これは重要な潜入捜査なんだ、絶対に成功させたい‼
「あれを手に入れるからね」
「わかってるわ。でも、汐里も静かにね」
「わかってますから……先輩も、久人もね。しっかりとやってよね」
「俺は大丈夫だから。それより、早く探さないと役員が戻ってくるって」
久人は少々急かすように言った。
今、室内には、
三人は作戦通りに、生徒会室に入り込んでいたのである。
校舎の中で、トップクラスな組織が活動している部屋に踏み込んでいた。
さっきから、冷や汗ばかりかいてしまうほどで、見つかってしまったらという恐怖に煽られ、
心臓の鼓動が小刻みに早くなっていく。
今は暑くても、部屋の窓は開けられない。
生徒会役員らは今日、委員会の全体会議で別の場所に移動しているのだ。
そんな中、勝手に窓が開いていたら、他の人に不審がられることだってある。
余計な行動は慎みつつ、久人は資料のある棚を前に探りをかけていた。
「というか、なかなか、ないわね。本当にここの部屋なの?」
「多分ね。あの掲示板を運営しているのが、教師と生徒会役員なのよ。今のところ、職員室を捜査するのは難しいし。一先ずは、やりやすいところから捜査した方が簡単でしょ?」
「そうね……でも、本当にないのよねぇ……」
東海先輩はしゃがみ込みながら、役員の席の引き出しを開けたりしていた。
汐里に限っては、ロッカーの中を隅々まで確認していたのだ。
三人は、昨日、剣道場で決めた通りに作業に取り掛かっていたのである。
水曜日の今日。作戦通りに立ち回れてはいるものの、一〇分経っても欲しい情報は見つかっていなかったのだ。
三人は、各々の口から、疲労交じりのため息を吐いていた。
「というか、そろそろ暑く感じない?」
「さっきからね。もう、開けてもいいんじゃない?」
「ですよね……」
汐里、東海先輩、久人は、個々のセリフを呟き、暑さの限界を感じていたのであった。
委員会集会が終わるのは、大分先だと思う。
暑くて、ぶっ倒れても元も子もないのである。
久人が窓の方に向かおうとした直後、東海先輩が、その場で立ち上がり、背伸びをしていたのだ。
「じゃ、私が開けるから。みんなは作業を続けてて」
「……でも、やめよ」
「なんで?」
「だって、その……やっぱり、後々面倒になりそうだし」
汐里は不安そうな瞳を見せている中、先輩は窓前まで移動していた。
「けどさ……扉を開けないのは、一〇分程度で見つけるって前提だったからでしょ? けど、今どう考えても、一五分近いのよ? これはちょっとだけさ。ほんのちょっとだしなら、バレないと思うのよね」
「んん……」
窓の前に佇む先輩を前に、汐里は考え込んでいる。
「汐里。俺は少しだけならさ、開けてもいいと思うよ。ここから出る時にさ。サッと閉めればいいんだし」
「……まあ、そうね。そうしましょうか……先輩、帰る時は必ず閉めてくださいよね」
「わかってるって」
東海先輩は左手を団扇代わりに、扇ぎながら右手で器用に窓の施錠を解除していた。
二センチほどの開き具合。
外から見ても気づける者はいないだろう。
久人は、そう思った。
ちょっとばかり、ひんやりした、外の風が入り込んでくる。
そのまま、
今日は水曜日。
昨日は剣道場とかで作戦会議をし、今、潜入しているのだ。
学校の中で一番の組織の部屋なのに、なぜ簡単に潜入できたのかと思われたかもしれない。が、これには裏があるのである。
それは、合鍵だ。
合鍵というのは、以前から生徒会長の
先輩から好意を抱かれたこともあり。生徒会室の隣の部屋である、客室の扉の鍵を貰うことができたのだ。
どんな時でも、出入りしやすいように考えた、先輩なりの配慮である。
まさか、こんな時に合鍵を使う時が来るとは思わなかった。
恵令奈先輩も、このことを知ったら驚きだろう。
先輩には、生徒会室に潜入していることは、事前に伝えていなかった。
それを口にしてしまうと、誰かに聞かれていた場合、さらなる変な噂が拡散される可能性があるからだ。
まずは、味方から距離を取った方がいい。
恵令奈先輩には申し訳ないが、久人は心の中で謝罪する姿を見せたのである。
先輩は今、委員会集会という大いなる敵と対峙している頃合い。
本当の意味で彼女を助けるためにも、掲示板のパスワードを見つけようと必死になっていたのだ。
「ねえ、そろそろ、見つかった?」
このメンバーのリーダーは、
その彼女が、皆に確認を取るように問うのだ。
あれから室内調査を始めて、さらに十五分ほど経過したのである。
いい加減、せめて掲示板のパスワードくらいは知りたい。
どうにかしないといけないと思うほどに、久人の心は息苦しくなってくるのだ。
「全然だし……というかさ。本当に、ここにあるの? 汐里さ」
夕方、五時を過ぎた頃合い。委員会集会も、そろそろ終わりそうな時間に迫ってきている。
「あるから……」
「本当か?」
しゃがみ込んで探っていた東海先輩は、その場に立ち上がり、ロッカー周辺に佇んでいる彼女を見やった。
「あるって。私、昨日、聞いたし。噂で」
「噂だろ……それ、単なる嘘だったら、シャレにならないというか。私たちの作戦が無駄になるだろ?」
「……わかってるから。そんなに怒らなくても……先輩もそれで、良いって承諾してくれたじゃない……」
汐里はボソッと口にする。
「……」
東海先輩は無言だった。
少々自信なさげな顔を見せる汐里に対し、先輩は睨みを利かせていたのだ。
普段は淡々としているが、暑さも相まってピリピリしている。
「そんなにさ……落ち着いたら、二人とも」
久人は仲介するように言った。
「わかってるから……でも」
東海先輩は悔しそうな顔を見せ、再び押し黙ってしまった。
先輩は生徒会長の同級生であり、内心のどこかで心配しているのだろう。
そんな思いが彼女から伝わってくるようだった。
「……あれ? ……ちょっと待って、もしや……」
汐里はロッカーの前で考え込むように立ち止まった後、右手で頬を触っていた。
何かを思い出したのか、ひらめき的なものなのか定かではないが、機転を利かした発想にたどり着いたに違いない。
「どうしたのよ」
その姿に疑問を覚え、東海先輩が問う。
「もしや、パスワードって、パソコンの中にあるんじゃないかと思って」
「パソコン?」
東海先輩はパソコンに目を向け始めた。久人も、その机に置かれた、数台のパソコンを見、思考する。
「確かに、そうかもしれないな。そう簡単に、機密情報は落ちてないし」
久人は頷き、棚前から、パソコンのあるところまで向かう。
据え置き型であり、電源はついたままだった。
今であれば、簡単に覗き込むことだって可能だ。
合鍵のことを知らない、恵令奈先輩以外の役員らは、潜入するなんて想定していないだろう。今まで、そういった問題を、この学校は抱えることなんてなかったのだ。
今まさに、久人らは役員らの弱みにつけこんでいる感じになっていた。
だがしかし、勝手に嘘の情報を拡散したことは許せない。そもそも、副生徒会長が主犯格のように思えてならないのだ。
この前の態度を見れば、一目瞭然だろう。
絶対に、裏の顔を暴いてやる。
久人は、怒り交じりの感情を胸に、パソコンを操作することにした。
「ねえ、汐里は、パソコンは得意なの?」
「そこまでではないけど……久人はできる?」
汐里は確認するように話しかけてくるのだ。
「まあ、大体はね。今、弄っている最中だから、あまり話しかけてこないでくれ」
と、久人は机の上に設置された、据え置き型のパソコン画面を見、キーボードとマウスを活用し、弄るのだ。
これは一人だけの問題ではない。
今後の恵令奈先輩の立場に大きく関わってくるのだ。
どうにかして、先輩を、この苦しみから解放させてあげたい。
この中に、掲示板のパスワードがあると信じて、久人はパソコンと対峙するのであった。
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