第19話 私ね、良い情報を耳にしたの。久人、聞きたくない?
「これで一歩進めた感じなのか……でも、まだまだだよな。これじゃあ、完璧に解決されるのは、いつになることやら……」
爆乳な生徒会長と隠れて付き合っていたことが噂として拡散され始めたからである。
一日経った今、その噂は勢いを緩めることなく、学校中に広がり続けているのだ。大半の人が、そして、教師も知っている事だろう。
もはや、逃れられないところまでやってきたと、久人は絶望を感じていた。
実のところ、
特に男子らは、陰キャ寄りな久人によい印象を持っておらず。それどころか、“パッとしない奴が、なぜ、爆乳な先輩にモテてんだよ”と、聞こえるように悪口を言われる始末。
心が折れかかっている。
心がいくつあっても、耐えきれそうもなかった。
久人は暗い表情のまま、先輩から告白される前の日常を振り返っていたのだ。
あの時は、まったくモテることはなく、苦しい日々だったが、逆に、その頃が幸せなような気がしてきた。
「……」
今は本当に苦しい時期である。
だからこそ、乗り越えなければいけない。
恵令奈先輩のことは好きであり、その心が揺れ動くことなんてなかった。
久人は今日のクラスでの出来事を振り返る。
隠していたのだ。だから、虐げられるのが妥当かもしれない。けど、あまりにも酷い仕打ちだと思う。
久人は元から学校での立場がそこまでよい方ではなかった。
余計に悲惨な状態になったのだ。
弁解しようと思っても睨まれ、距離感を詰めることは難しかった。
でも、今は耐えること。
それが重要である。
先輩の存在は唯一の心の支えであり、今後も重要な存在になりうるだろう。
「ねえ、ひさと。なにか、情報見つかった?」
本校舎から離れた位置に存在する剣道場。窓が全開の、その場所の床に座り込み、二人は昼食をとっていたのだ。
二人だけの空間ゆえ、
剣道場で身を潜めるように、休息をとる。
「い、いいえ……午前中だけではさすがに無理ですから」
「でも、恵令奈のためなんでしょ? 頑張らないと」
「はい……」
彼女の巨乳が、久人の左腕に強く押し当てられているのだ。
緊迫した話をしているのに、久人は、そのおっぱいに興奮しっぱなしだった。
こんな状況じゃ、話し合いにならないって……。
「ねえ、どういうこと? 久人?」
その声は決まっている。
幼馴染の
どうして、剣道場に、と思ってしまう。
久人は顔を上げ、剣道場の入口から入ってきた彼女を見やる。汐里は近づいてきたのだ。もしかしたら、こっそりと尾行されていたのかもしれない。
汐里とは同じ教室に在籍しているものの、彼女はその時、あまり関わってこなかった。
そもそも、関わらない方がいいと言ったのは、久人の方であり、幼馴染の言動は妥当である。
「というか。なんで、こんな時まで東海先輩とイチャイチャしてるの?」
汐里からのジト目が向けられていた。
わざと、イチャイチャしているわけではないのだ。
本当に変なところを見られてしまったと思う。
昼休み直後に廊下で先輩と出会い、今後の流れを確認するという名目で、隠し砦の剣道場にいるのだ。
そのイチャイチャ具合に至るまでには、色々な事情があるのである。
決して、如何わしい思いが、そこにあったわけではない。
――と、久人は何とか、自身の心を保つために、必死に自己暗示をかけていたのだ。
「勘違いしないでくれ。そんなつもりは……まったくない……」
汐里のジト目が収まることはなかった。
言葉の間に変な間合いがあったことで、疑いの眼差しを向け続けているのだろう。
久人は誤解を解こうとするが、なぜか東海先輩のおっぱいが押し付けられる。
先輩はわざと、やっているのだろうか?
そんなことが脳裏をよぎり、久人にとっては複雑な心境だった。
「というか、久人って、困ってるんでしょ?」
「うん……」
久人は落ち着いた口調で頷いた。
汐里は次第に現状を受け入れ、ため息交じりの息を吐く。
「……まあ、今の状況だと、久人と付き合える状況じゃないし。恵令奈先輩との結婚とかに関しても、今は考えないでおくわ」
久人の前で立っていた汐里は、その場でしゃがむのである。
彼女は、久人の顔をまじまじと見つつ、距離を詰めてくるのだ。
今まさに、二人の女の子に挟まれている状態。
学校中で危うい状況なのに、不謹慎すぎる間柄になっていた。
久人は内心、深呼吸をして、もう一度、現状と真摯に向き合うことにしたのである。
「それで、どうやって対処するのか決めたの?」
「まあ、大体はね」
「へえ、そう。じゃあ、後は手順通りやっていくだけね」
右隣に座っている幼馴染が肩の荷を下ろしたように言う。
「けど、なかなか、上手くいかないんだよ」
久人はため息交じりに口にした。
「そうなの?」
「なんていうかさ。確たる証拠が見つからないんだ。それがあればさ」
「確たる証拠ね……」
そして、表情を変え、何か思い出したように彼女は、制服のポケットからスマホを取り出す。
「ねえ、学校の掲示板とかって知ってる?」
「ん? 掲示板?」
「うん、そうよ。知らないんだったら見てみた方がいいよ。ほら」
久人にとって知らない情報であった。
東海先輩も食い気味になり、汐里のスマホを見るために場所を移動するのである。
久人の左腕に思いっきり当たっていた柔らかい感触はなくなり。少々寂しい気もしたが、気分を変え、汐里のスマホ画面を覗き込む。
その画面にはとあるサイトが表示されていて、興味深い内容が記されていたのだ。
「……学校での行事? なんか、色々書かれてるね」
「そうそう。基本的にはそうなんだけどね。なんか、このサイトには裏があるらしいの」
「裏? どういうこと?」
東海先輩は疑問めいた表情で問う。
「裏掲示板があるってことでよす」
「へええ、そうなんだ」
先輩は、この三人の中では、随分学校に通っているはずだが、今まで知らなかったようだ。
「でもね、それにはパスワードが必要みたいなの」
「どこ情報なの?」
久人は真実に迫ろうとする。
「チラッとね。さっき、ここに来る時に聞いたの。それに今ね、なぜ、その噂が拡散されたとされる、その裏掲示板らしいの。その掲示板を探れれば、何かがわかるかもね」
「そう、だねぇ……」
東海先輩は納得したかのように、腕組をしつつ頷いていた。
証拠を見つけられる日も近いと思う。
久人も、相槌を打ち、彼女の話に耳を傾けるようにした。
掲示板自体は、学校関係者が運営している。
多分、教師か、生徒会役員であることは可能性が高いと思う。
大きな情報を得るためにも、パスワードを探した方が早いかもしれない。
剣道場にいる三人は、昼食をとりつつも、作戦会議を執り行うのであった。
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