第14話 待っている方が大変だけど、なんか、楽しかったりする
今日は土曜日。学校に行く用事もなく、どちらかというと気楽なひと時である。それに、
だから、待ち合わせとして、午前九時頃から地元の公園のベンチに座って待っていた。
先ほど先輩からスマホでメッセージが送られてきたのだが、今自宅を出たらしい。
先輩が遅れているわけではなかった。
ただ、久人が待ち合わせ時間より、大分、早くに到着しているのである。
久人は昨日からテンションが上がりまくりで、なかなか就寝できなかった。その上、早く起床してしまったこともあり、衝動的に待ち合わせの公園へとやってきたのだ。
朝、妹の
そこまで表面的に見せていたわけではないのに、長年一緒にいる妹ゆえ、何となく、そこら辺を察したのだろう。
ベンチに座っている久人は、早く先輩が来ないか。ワクワクして待っていたのだ。
それにしても、休日の公園は、少々人が多い。
小学生とか、それより小さな子供と、その親が砂場や滑り台、ブランコ近くにいるのだ。
七月に入ってから、数日が入った。
結構暑く、久人はTシャツにズボンといったスタイルである。
地味な感じになってしまった。
もう少し服装に気を付けるべきだっただろうか。
もしかしたら、今まで全くモテなかったのは、服装のせいなのだろうか?
久人は首を傾げていた。
次からは恵令奈先輩のことも考え、彼氏らしい服装を心がけようと思ったのだ。
ふと、思うことが別にある。
それは、昨日の
生徒会長のことをしっかりと知っているかどうか。それについてであった。
久人自身、
だから、
東海先輩は“知らないでしょ”と言っていたが、そんなことはないと思う。
「……」
恵令奈先輩と直接関わるようになって、大体、一週間が経過した。
生徒会長のこと自体を知ったのは、入学当初からである。
その頃は、副生徒会長だった。
むしろ、その頃から、恵令奈先輩の印象は強かったのだ。
爆乳であり、それだけが最初、目につき。その時から、全校集会の度に、先輩のことを意識し始め、目で追うようになった。
基本的に生徒会役員と関わる機会は、全校集会の時だけ。
または、同じクラスの人だけである。
久人は一学年下であり、接触を図る機会すらなかったのだ。
苦しかった。
もっと、先輩と関わりたいと。
日に日に、爆乳な先輩と関わりたいと強く考えるようになってきていたのだ。
だから、一年生の時は、積極的に委員会活動に参加し、何とかして生徒会長に気に入ってもらえるように。そして、意識してもらえるように努力を積み重ねていたのだ。
けど、生徒会長は人気があり、なかなか接点が持てず、少々諦めがちになっていた。
元々、
段々とやる気がなくなっていて、委員会も部活も辞めようかなと思い詰めるところまで至っていたのだ。
けど、今月になってから、全校集会の際に、公開告白されたのである。
その時は、心の底から嬉しかった。
奇跡的な発言を受け、本当のところ、あの時は信じられなかったのだ。
あの日、生徒会長から直々に呼び出され、その公開告白が本当だったと知った。
ようやく成果が実ったのだと思ったのである。
それと同時に、間が悪いタイミングで、汐里と東海先輩から言い寄られたのだ。その上、妹の弥生も積極的になった気がした。
なぜ今頃、ハーレムに⁉ と思い、今日に至るわけである。
ベンチに座っている久人は、重いため息を吐きつつも、今日の先輩とのデートに希望を抱いて前向きに考えるようにしたのだ。
「久人、待った?」
「いいえ、そこまで待ってないですから。気にしないでください」
午前十時頃。
公園にやってきた恵令奈先輩がやってくるなり、久人はベンチから立ち上がって、そう言った。
「そう? だったら、よかったわ」
恵令奈先輩はホッとした表情を見せ、落ち着いた態度を見せる。
目先には、青と白色が混じった、夏をイメージしやすいワンピース姿の先輩が佇んでいるのだ。
普段はクールな感じで消極的な態度も見せる彼女が、爽やかな印象の服装であり、新鮮な気分になる。
「では、そろそろ、行きましょうか」
「先輩の家にですか?」
久人はテンションを高めた口調で言った。
「えっとね、そっちの方じゃないかな」
「え?」
「まずは、スーパーに寄ってもいい?」
「スーパーですか? どうして?」
「久人のためにちょっと作ってあげたくなって」
「恵令奈先輩が?」
「うん。嫌?」
「嫌ではなく、嬉しいというか」
「よかった。じゃ、行こ」
「はい」
二人は地元のスーパーへと向かうことにした。
先輩と共に、スーパーに向かうこと自体初めてであり、少々緊張してしまう。
結婚し立ての関係性みたいで、そのように意識してしまうのだ。
先輩の家は、久人の自宅から相当遠い。
住んでいる町は同じなのだが、地域が違うのだ。
だから、高校生になるまで、出会うことがなったのである。
今思えば、生まれた時からほぼ一緒の環境下で過ごしていたと考えると、複雑な心境になるのだ。
もしかしたら、昔から出会っていたかもしれない。
久人は、爆乳な先輩と公園を後に道を歩いていると、ニヤニヤと妄想していた。
「どうしたの? 久人?」
「んん⁉ な、なんでもないですよ。気にしないでください」
「そう? だったらいいけどね。それより、目にクマができていない? どうしたの? 夜遅くまで起きてたの?」
右隣を歩いている先輩が顔を近づけてくるのである。
その上、距離が縮めば縮むほど、先輩の爆乳が、腕に当たるのだ。
こ、これはヤバいって……‼
そして今まさに、先輩の爆乳によって、久人の腕が挟まれたのである。大きな二つの膨らみによって、腕が締め付けられるようだった。
「せ、恵令奈先輩……胸が」
「え……きゃあッ」
恵令奈先輩は距離を取った。まったく気づいていなかったらしい。
頬を紅葉させ、恥じらっていたのだ。
「……」
「……」
二人は無言のまま、道を歩く。
気まずい時間を過ごし、そして――
沈黙が崩れる。
「……久人は、何食べたい?」
「えっと……カレーとかですかね?」
「それでいい……?」
「まあ、はい」
「で、では、カレーね」
ぎこちない会話のやり取りだった。
最初の内から先輩に面倒な料理を頼むのも申し訳ない気がする。
だから、料理の定番であるカレーを選んだのであった。
二人は再び無言になりつつも、スーパーへと向かって歩き出す。
久人は勇気をもって、右隣を歩いている先輩の手を触ろうとした。が、丁度良く、手で服装を整え始めたため、繋ぐことはできなかったのである。
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