第10話 なんで、こんなハーレム展開になっちゃうんだよ‼

 朝の出来事である。

 阿久津久人あくつ/ひさとは目を覚ました。


 自室のカーテンの隙間から僅かに入り込んでくる光。

 ふと思う。

 昨日の出来事を――


 恵令奈えれな先輩と一緒に三駅先の大人びた感じの喫茶店に入り、そこで、ひと時を過ごしたのである。


 程よい感じのBGMで心が現れた感じになり、心地よかった。

 やはり、一緒の時間を過ごすなら、好きな人の方がいい。


 それにしても、先輩のおっぱいはやはりデカかったのだ。

 一緒にいる時間が増えれば増えるほど、それを実感できた。


「……今週中は、恵令奈先輩の家に行けるのか……」


 久人はドキドキしていた。


 胸の内が温かくなってくる。

 嬉しい感じになり、先輩のことばかり考えてしまうようだった。


「先輩の両親って、どんな感じなんだろ……んッ、そ、それより、早く朝食を食べないと」


 久人はベッドから離れるように立ち上がり、カーテンを全開にする。

 そして、パジャマ姿のまま、自室を後にした。






「どうしたんですか、お兄ちゃん?」

「な、なんでもないし」


 久人は妹の方を見ることなく、返答した。久人は、昨日のことを振り返りながら、一階のリビングで食事をとっていたのだ。


「そう? なんか、あったでしょ? 昨日も少し帰ってくるの遅かったし」


 妹の阿久津弥生あくつ/やよいは、疑いの視線を向けてくるのだ。


 何とか感づかれているに違いない。

 久人は雰囲気的に思う。


 けど、墓穴を掘らないために、余計な発言はしないことにした。

 久人は食事を続ける。


 朝の料理が置かれているテーブルの反対側に座っている弥生は、一旦、箸を置いたのだ。


「どうした? もう終わりか?」

「……」


 弥生やよいはジーッと久人の顔をまじまじと見つめてくるのだ。


「別に、そうじゃないですけど」

「?」

「お兄ちゃん、あの先輩と一緒に如何わしいホテルに?」

「違う。そんなことはないから」

「本当? だって、昨日いつもよりも遅かったし。もしかしたらって思って。でも、私、お兄ちゃんが、その先輩とそういう関係になっても、気にしませんからね。気にしないからね」

「……なんで、二回同じことを?」

「まあ、それはそれとして。お兄ちゃんは、他の二人の先輩とはどうするんですか? 入部届を貰ってきたんですよね?」

「それはな、一応な」

「二つの部活を掛け持ちなんてできるんですか?」

「できると思うけど」

「へえ、すぐにやめた兄ちゃんが続けられるのかな?」

「続けられるさ」


 久人ひさとには目的があった。


 恵令奈先輩と今後付き合っていく上で、汐里と東海先輩の存在は厄介になってくる。だから、対策できる方法を知るために入部するのだ。


 そういった理由もあり、割と本気で、その二つの部活に在籍するつもりでいる。

 信念に狂いはない。


「まあ、いいんじゃない? でもさ、あの二人の先輩は手強いと思うよ」


 妹はニヤニヤしていた。


 本当に仲間なのか、敵なのか不明だ。


「あとはお兄ちゃんに任せるけど。もし、手詰まりになったら、私でもいいからね」

「……え? どういうこと?」

「……わからないんだったらいいよ……」


 妹は久人に聞こえない程度の独り言を口にしていた。が、すぐに意味深な笑みを見せてくる。

 弥生はテーブル上の自身の使い終わった食器を持ち、キッチンの方へと、ツインテールを揺らしながら立ち去って行った。


 な、なんだったんだ……?


 意味深なセリフに、久人は一瞬、食事をする手を止めてしまっていた。






「そういや、お兄ちゃんは、どうして、生徒会長と付き合うことになったの? そもそも、どこが好きだったの?」

「しッ、そんなこと、大きな言葉で言うなって。誰かに聞かれたらヤバいだろ」

「ごめん、てへぺろ♡」


 妹の弥生は調子よく、ちょっとばかり舌を出し、謝っていた。


 今、二人は制服に着替え、自宅を後に、通学路を歩いていたのだ。

 辺りには数人程度の同じ制服を身に付けた人がいる。


 別の学年か、別のクラスの人ばかりだが、誰と誰がどこで繋がっているかわからないのだ。

 余計な情報は漏洩させない方がいい。久人は内心、そう考えていた。


「まあ、そうだな……」


 久人は思考する。


「おっぱいでしょ?」

「……」


 返答する前に、妹から先制攻撃されてしまう。


「図星?」

「……そ、そうじゃない」


 久人はできる限り、誤魔化したかった。でも、たじたじであり、視線をキョロキョロさせてしまっていたのだ。


「そう? お兄ちゃんって、この前、嘘ついたじゃん。だから、信用できないんだよねー」

「その件はごめん……た、確かに、おっぱいは……」

「好きなんでしょ?」

「……」


 久人は素直に頷いた。


「私のおっぱいは小さいからモテないのかな?」

「そんなことはないと思うけど……」


 久人の左隣を歩いている妹は、ぺったんこな胸を制服越しに両手で触っていた。


「……」

「ねえ、お兄ちゃん? どうしたら、大きくなると思う?」

「そんなこと、聞いてくるなよ」

「でも、おっぱい好きなお兄ちゃんだったら、分かりそうだと思うけどなぁ」


 弥生は隣で、まな板のようなおっぱいを寄せ集めている。

 多少は、ふっくらとしてきたものの、デカいとは言えなかった。


 妹の胸は、頑張ってBカップくらいだろう。

 平常時は、Aカップか、それ以下であると思われる。

 が、そんなことを口にしたら、ただで済まされないのは確実だ。


「ねえ、お兄ちゃん?」


 弥生は胸を触ったまま、すり寄ってくる。

 久人の左腕に寄せ集めた胸を押し当ててくるのだ。


「やめろよ、そういうのはさ。俺ら、兄妹だろ? それに、弥生のことは、恋愛的な視線で見たことなんてないし」


 久人は不自然な感じに視線を逸らす。

 小さいながらも、妹の僅かな胸の感触を制服越しに左腕で感じていた。


 弥生の誘惑するかのような立ち振る舞いに少々、意識してしまいそうになるが、何とか、冷静に対応するのである。


 この前、恵令奈先輩から指導されたことを思い出す。

 おっぱいを押し付けられたとしても、女の子に靡かないようにする事を――


「つまんないの。お兄ちゃんって」

「……そういうこと言うなって。兄妹同士、そんなの……」


 久人は受け入れがたかったのだ。






「おはよう、変態ッ」


 弥生から少し距離を取ったところで、背後からの問いかけを受ける。

 振り向けば、幼馴染の早坂汐里はやさか/しおりがいた。


 汐里は駆け寄ってくるのである。

 しかも、今歩いている通学路の曲がり角で大段東海おおだん/あずみ先輩ともバッタリと遭遇してしまうのだ。


 ⁉

 な、なんで、こんなことに⁉


 妹の弥生でも、何とか耐えきったのに、どうしてこうなってしまうんだ⁉

 久人は自分の人生を呪いたくなった。


「じゃ、行こうか、ひさと!」

「さっきさ、弥生ちゃんのおっぱいをガン見してなかった?」

「そんな誤解されるようなこと言うなって」


 久人は、汐里にハッキリと告げた。


「そんなにおっぱいが好きなら、私のおっぱいでも揉ませてやろうか?」


 正面にいる東海先輩は巨乳を見せつけてくるのだ。

 生徒会長とは若干小さいが、いい勝負だと思う。


「それより、俺、学校に……」

「じゃ、皆で行こうよ」


 巨乳な東海先輩に、そう言われたのだ。


「変態? 私のも揉む? 幼馴染の好みでタダにしておくけど?」

「いいよ、そういうの……」


 でも、気になってしょうがない。

 この前、腕に感じた幼馴染のおっぱいは程よく柔らかかったのだ。


「まあ、ここでやるのもよくないし、まずは学校に行こうか」


 東海先輩は今の空気感をリードするが、妹は少々不満そうな顔をチラッと見せていた。


 久人は絶望を感じつつ、三人の女の子に囲まれ、今付き合っている生徒会長がいる学校へと向かう羽目になったのだ。

 こんな状態、恵令奈先輩に見られなければいいけど……。


 不安な想いを胸に抱き、周りにいる人らに見られながら、久人は登校するのだった。


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