第9話 久人…私の家に来てほしいの…
「じゃ、これね。明日までに書いてこれるんだよね?」
とある部室前の扉近くで
先輩から受け渡されたものは、入部届であった。
この前のように婚姻届けではない。
久人はまじまじと確認したのち、受け取る。
「はい、明日までには」
「じゃ、約束だからね。生徒会室に行く前に、一旦、私のところに来ることね」
「はい。それはわかってます。それはそうと、あの子は?」
「ん? ああ、あの後輩か?」
「はい、そうですね」
「今日はっていうか、この頃、休みがちだけど」
「そうなんですか?」
「ええ。まあ、それより、入部届の件ね。というか、ようやく久人が戻ってくる気になったか」
納得しきった感じであり、戻ってくる前提で勝手に話を進めているのだ。
実のところ、久人は部活に戻る気でいるのでなんの問題もないのだが。久人は先輩の話を最後まで聞くようにした。
途中で変なセリフが混じって、流れで頷かないようにするためである。
「では、ここで」
「え? もういなくなるの?」
「はい。今日は少し用事がありますので」
「何だよ。部活風景くらい見ていけばいいのにさ」
「それは……本当に時間が迫ってるので、今日はここで」
久人は逃げるように、先輩に背を向け、廊下を走ったのである。
東海先輩は、剣道部の部長だ。
それなりに術力があり、高校一年生の時から選抜に選ばれることが多かったらしく、全国大会に進出するほどの実力の持ち主。
そんな人がなぜ、剣道初心者の久人を部活へ呼び戻そうとしていたのかは不明だった。けど、そのお陰もあり、すんなりと再入部届も受理されそうである。
剣道部の部室に行く前に、幼馴染の
あとは、今日の夜にでも記入し、明日様子を見つつ、東海先輩と、汐里に一旦渡せばいいだろう。
先を急ぐかのように駆け足になり、校舎内の昇降口で外履きに履き替えた後、全力で地元の駅へと走って向かうのであった。
「恵令奈先輩はどこに行きたいんですか?」
「それはもう決まってるわ。本当だったら阿久津久人に決めてほしかったんだけど。まあ、いいわ。今日は私が誘ったんだものね……うん」
三駅先の街中を歩いている
先輩は
「どうしたんですか?」
「え、な、なんでもないわ。それよりこっちに来なさい」
「え?」
「だ、だ、だから、こっちに……よ」
先輩は少々頬を紅葉させつつも、積極的に言い寄ってくるのだ。
学校にいる時とは違う。なんの障害もないことも相まって、迷うことなく距離を詰めてくるのである。
「で、でも。恵令奈先輩? 周りの視線が」
街中を見渡せば、二人の方をまじまじと見てくる通行人が数人ほどいるのである。
そもそも、先輩は爆乳なのだ。
カップ数は未知数だが、高校生とは思えないほどのおっぱいなのである。
故に、爆乳ばかりに気になっている人と多くすれ違うのだ。
「どうしたんだろうね?」
「先輩、たぶん、その、あれですよ」
「あれって? もしかして、私たちが付き合ってること?」
「そうじゃなくてですね、胸の方だと思います」
「⁉」
先輩は驚きの表情を見せ、頬を赤く染める。今更ながらに衝撃を受けている感じだった。
恵令奈先輩は胸元を隠そうとするものの、デカすぎて隠しきれていない。
その仕草を見て、やはり、先輩のおっぱいは規格外なのだと思った。
二人はそのまま、先早に目的地へと向かっていくことになったのである。
その街中の喫茶店内。
意外と落ち着いた雰囲気を感じられる場所であり、パッと見、客層として三十代以上の人の方が多い印象である。
なぜ、先輩はこの店を選んだのだろうか?
そうこう思いつつ、店内のBGMを聴きながら、店内の雰囲気に馴染んできていた。
「阿久津久人?」
「は、はい」
久人が別の方へ視線を向けていると、急に話しかけられ、体をビクつかせてしまう。
「そろそろ、何かを注文しない?」
「そうですね……それと、なぜ、フルネームなんですかね?」
「それは、その方が呼びやすかったから……嫌だったか?」
「そうではないですけど……付き合っているわけなので、もう少し気楽な話し方でもいいような気はしますけど」
「そうか。そうだな……」
テーブルを挟み、対面上の席に座っている爆乳な
が、おっぱいがデカすぎて、腕組をすると余計に、その二つの膨らみが強調されるのである。
久人は目のやり場に困り、少々戸惑う。
「ん? どうしたの?」
「な、なんでもないです……気にしないでください」
「そうか?」
「……」
久人は大人しくなりつつ、俯きがちになった。
「じゃ、じゃあ、久人は?」
「はい、それでいいと思います」
久人は先輩の方を見た。
「では、今後は久人と呼ぶから」
恵令奈先輩は少々恥ずかし気に、少々テンションを上げていたのである。
「さっそく、メニュー表を、ね」
先輩が広げてくれていたメニュー表を、二人で見る。
基本的にコーヒー系の飲み物が多く、オレンジジュースやコーラなど、そういったものはないようだ。
「では、カフェオレですかね……これは冷えている方と、温かい方を選べる仕様なんですね?」
「そうらしいわね」
「恵令奈先輩は、この喫茶店に以前来たことはあるんですか?」
「えっとだな、一、二回くらいはな」
「そうなんですね」
久人は頷くだけだった。
「久人は、カフェオレか……だったら、私も」
「それでいいんですか?」
「そうね。では、注文するわね」
先輩は挙手して、喫茶店スタッフを呼び出していた。
数秒ほどで女性のスタッフがやってきて、注文内容を淡々と話していたのだ。その後、スタッフは店の奥へと戻っていった。
「んん、それでは今後のプランなんだけど」
「付き合っていく上でのプランでしょうか?」
「そうだね……」
恵令奈先輩は一回咳払いをしつつ、久人の方をチラチラと見つめてくるのだ。
「どうしたんですか?」
「まあ、なんというか、その前にだね……今週中でいいんだけど」
「?」
話の流れがちょっとばかし、変わったような気がする。久人は雰囲気的に察した。
「その、私の家に来てほしいというか」
「い、家にですか⁉」
「私の両親と一先ず会ってほしいというか」
「⁉」
久人は驚いて、席から立ってしまいそうになった。それほど、先輩の家に行けることに喜び、色々とエッチな妄想を膨らましていたのだ。
「まあ、その、今週中だからね。今日すぐにというわけじゃないよ」
「わ、分かりました……」
久人は頷き、承諾する。
結婚ということを踏まえれば、先輩の家へ訪れるのも妥当。
久人は決心を固め、先輩の家に行くことを決心した。
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