第6話 今後の課題は山済みだ…なんで、こんなタイミングでハーレムなんかに…

 やっぱり、どうしても、神崎恵令奈かんざき/えれな先輩とは正式に付き合いたい。

 ばく――

 いや、そうじゃない。けど、そうかもしれないと思った。

 やはり、爆乳は好きだ。


 恵令奈えれな先輩は爆乳であり、久人が求めていた理想の美少女である。

 そんな彼女から直接、想いを伝えられたのだ。

 このチャンス逃すわけにはいかない。


 けど、それなりの関係性にならなければ、恵令奈先輩の両親から認められないだろう。

 結婚する上で、両親からの同意は必須である。

 決して逃れられない、人生においての試練だと思う。


 久人は強い熱意を胸に、真夏になった七月。

 活気づいていたのだ。

 けど、ある程度、冷静さもなければ疲れてしまうだろう。


 久人は軽くため息を吐き、心を宥めるのである。

 今は、そんなことよりも考えるべきことがあった。あの二人の存在である。その二人の存在が今後、大きな壁になってくるのは確実なのだ。


 早坂汐里。

 大段東海。


 二人が妙なところで結束を固めてしまったこともあり、迂闊に変な言動なんてできない。


 まさか、変なタイミングでハーレム展開になるなんて。

 あの二人から言い寄られるとは、七月になる今日まで、まったく予想していなかったのだ。


「個人的にも作戦を練らなければ……」


 帰宅後の自宅。

 阿久津久人あくつ/ひさとは今、自室に引きこもり、勉強机を前に、椅子に座っていたのである。


 学校の生徒会室の隣の部屋で、恵令奈先輩とは、それなりの作戦会議を練った。けど、今は、個人的な作戦を組み立てているのだ。

 一人で行動している時に、あの二人から言い寄られても対処できるようにである。


「……」


 久人ひさとは一人でニヤついていた。

 それにしても、恵令奈先輩の爆乳はさすがだと感じていたのだ。

 先ほどのことを一度でも思い出してしまうと、顔の緩みが止まらなかったのである。


「んんッ、今月は特に気を付けないとな。それで、どうやって乗り切ればいいんだ?」


 久人は一度咳払いをする。そして、思考するものの、なかなか、よい案が出ずに頭を抱え始めていたのだ。


 そもそも、なぜ、あの二人が今になって告白してきたのだろうか?

 今までそんな素振りなんて一切なかったのに……。

 意味不明でしょうがなかった。


「……俺、あの二人から好かれることなんてしたか?」


 冷静になって考えるも、その謎が明らかになることはなかったのだ。


「まあ、意味不明なことを考え込んでも意味ないか……」


 と、久人は一人で呟くのだった。


「何が意味ないの? お兄ちゃん?」

「――⁉」


 久人は頭を上げ、咄嗟に振り返る。

 何事かと思い、自室を全体的に確認したのであった。

 部屋の扉近くの壁になぜか、妹の阿久津弥生あくつ/やよいが佇んでいたのである。


「⁉ な、なんで、弥生が俺の部屋に⁉ というか、いつから⁉」

「さっきからいたよ?」

「マジで?」

「うん」


 弥生は愛らしく笑みを見せ、頷くのである。

 妹からすべてが見透かされているような感じだ。

 久人のプライベートはすべて無いに等しいものだった。


「……俺の部屋に入る時くらい、なんか言ってくれよ」

「別にいいじゃん。昔からの仲じゃない」

「だとしてもだ」


 久人は人生の先輩として、妹の弥生やよいに指摘したのである。


「……お兄ちゃんに言われてもあまり説得力がないなぁ」

「そういうな」


 久人はツッコんだ。


 すると、弥生は小走りで、ベッドの方へ移動したのである。


 そして、ベッドの端に腰を下ろして、久人の方を見つめてくるのだ。






「ねえ、お兄ちゃんはさ。二人とは付き合わないの?」

「汐里と、東海のことか?」

「うん。そのまま放置ってわけじゃないよね?」

「放置したら、絶対に何かしてくるだろ? 多分」

「そうだね」


 弥生は、ベッドの端に座ったまま、足をパタパタさせていた。

 妹がリラックスしている時に見せる仕草である。


「というか、弥生は、俺に対して何かしてこないのか?」

「私が?」

「ああ」

「……もしかして、私から告白されたくなったの?」

「ち、違うし」

「へええ」


 妹からジト目で見られてしまう。


「お兄ちゃんがそういう性癖があるなら、私、告白してもいいよ♡」

「いや、やっぱりやめだ。実の妹とそんな関係になるなんてさ」

「……」

「ん? 何だよ」

「んん、なんでもないよ」


 妹は受け流すように、気楽な感じに受け答えしていた。


 意味深な返答の仕方に多少の疑問を抱きつつも、久人は再び勉強机と向き合うのである。


 机に広げられた用紙。

 その用紙には、今後どうやって、恵令奈先輩と距離を縮め、あの二人とどういう風に距離を取るかの戦略が記されているのだ。


 久人は用紙と睨めっこしながら、悩む。

 多分、ここはこうした方がいいだろうな……。

 この日にここに行って、あの二人とはこういう風に距離を取れば……。


 久人は独り言を小さく呟きつつ、ペンを片手に、用紙に記入していた。






「お兄ちゃんッ、何を書いてるのかな?」


 ベッドの端から立ち上がり、近づいてくる妹。


「何だっていいだろ。見るなって」


 妹は、久人が書いている用紙を覗き込んでくるのだ。


「隠し事?」

「隠し事じゃないし。というか、今はどこかに行ってくれ」

「しょうがないなあ、まあ、リビングに行くことにするけどね。お兄ちゃん、ハッキリとしないと、後々困ることになると思うよ」

「そ、そんなことわかってるさ」

「本当?」

「ああ」

「まあ、頑張ってね♡ お兄ちゃん」


 背後に佇んでいる弥生から肩を触られたのだ。


「あの二人の先輩は本気だと思うよ」


 妹は耳元で、こっそりと、一瞬大人びた口調で言う。


「と、というか、なんで、あの二人が……俺のことを好きになったんだよ」


 久人は顔だけ振り返り、弥生に問う。


「それ、私に聞くの?」

「ああ。弥生だったら、何か知ってると思ってさ。一応、聞いてみただけさ」

「……」


 妹は一瞬、無言になり、室内の空気感が変わったような気がした。


 な、なんだ?

 怖くなり、久人はたじたじになる。


「ねえ、お兄ちゃん?」

「な、なに?」

「お兄ちゃんは、自分の胸に手を当てて、なんであの二人の先輩から言い寄られているのか、今一度考えた方がいいよ」

「⁉」


 久人は体をビクつかせたのだ。

 弥生の反応がとにかく怖い。

 本当に、背筋が凍りそうになった。


 まだ、七月に入ったばかりである。

 怖い発言は、あともう少し後にしてほしい。


 久人は押し黙ってしまう。


「まあ、そういうことで、お兄ちゃんッ、気を付けてよね!」

「……あ、ああ」


 久人は一応頷いておくことにした。


「というかさ、弥生はさ、俺の味方なのか?」

「……うん」

「何だよ、その間は、怖いんだが」


 弥生はニヤッとした笑みを見せると、“じゃ、夕食作ってるね”と言い、部屋を後に階段を駆け下り、リビングへと向かっていくのだった。

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