第5話 爆乳で美少女な先輩が、おっぱいを押し付けてくるのだが⁉

「阿久津久人? 先ほど耳にしたんだけど。他の子と付き合ってるって本当?」

「え?」


 生徒会室の隣の客室。

 今、放課後であり、阿久津久人あくつ/ひさとは、その部屋のソファに座っていたのだ。


 目の前にいる生徒会長の神崎恵令奈かんざき/えれなはとんでもないことを口にしていた。

 久人は慌てた感じに、その誤解を取り除こうとしたのである。

 なぜ、意味不明な嘘情報が拡散されているのだろうか?


「先輩、どうしてその情報を?」

「さっきね。廊下を歩いている時ね、数人の女の子から告白されている人がいるってことで、耳にしたの」

「……その情報で、なんで俺だって決めつけたんですか?」

「それは……わからないの?」

「いや、分からないですよ……」


 久人は首を傾げてしまう。


 どうしてモテるのだと恵令奈えれな先輩は認識したのだろうか?

 そもそも、久人は殆どモテたことなどないのだ。

 そんな人の恋愛事情なんて心配するほどでもないと思うのだが……。


 けど、予め、先輩には言っておかなければいけないことがあった。

 それは昼休みの件である。


 久人は顔を上げ、対面上のソファに座っている先輩の方を見やったのだ。


「どうしたの?」

「あのですね。一応、言っておかないといけないことがありまして」

「どんな内容?」

「俺、二人の女の子から脅されているというか。大変なことになってるんです」

「それ、告白されたってことでは?」

「そうかもしれないですけど。別にモテるようなことをしたわけでもないのに、急に告白されたので、脅されているようなものですよ」

「……」


 先輩は少々思考する素振りを見せつつ、チラチラと久人の方を確認するように見つめてくるのである。


「どうしたんですか?」

「やっぱり、阿久津久人は自分を客観視できていないのよ」

「そんな事はないですけど……」

「いいえ。そんな事あるの。だからね、もしも、その二人に言い寄られても、逃れられる作戦を考えましょ」

「作戦ですか?」

「そうよ。やっぱり、私……あなたを奪われたくないし……」


 先輩はボソッと口にする。


「え?」

「んッ⁉ な、なんでもないわ。ただの独り言よ」

「そうですか」

「……」


 先輩は頬を紅葉させ、俯きがちに押し黙ってしまったのだ。






「では、ここから作戦会議ね」

「作戦とはどういった内容ですか?」

「その二人から、切り抜けられる方法よ。もし、その子らと付き合うことになっても、その二人に誘惑されないような心を持つ練習みたいなものね」


 恵令奈先輩はそう言う。


「それ、どうやって練習をするんですか?」

「そ、それは……」


 先輩は何かを話しているようだが、声が小さくて、久人は聞き取れなかったのである。


「え? 聞こえなかったんですが?」

「だから、その……私の隣に来て……」

「な、な、なんでですか⁉」

「い、嫌なの?」

「違います。むしろ、嬉しいというか……」


 久人ひさとは思ったことを、おどおどした態度を見せつつ、口にした。


「一先ず、私の隣に来て……」

「はい……」


 久人はその場に立ち上がり、対面上に位置するソファへと移動するのだった。


「これでいいですか……」


 久人は先輩の隣に腰を下ろしたのだ。


「そ、そうよ、それでいいわ」


 先輩は緊張しているようで、声のトーンがさらに一段階下がったような気がする。


「も、もう少し」

「近づくってことですか?」

「そうだよ」


 久人は距離を詰めた。

 体が接触するほどの距離である。

 今まさに、先輩の肌を、制服越しに感じているのだ。


 心臓の鼓動がみるみるうちに加速していくようだった。


「これからどうすればいいんですか?」

「私とこのまま、少しの間いること」

「え? これに何の意味が?」

「そ、それはだね。女の子と密着しても、心を靡かなくする練習なの……」

「こんな練習で対処できるものですかね?」

「……わからないけど」


 先輩もそれなりに意味不明なことをしている実感はあるらしい。が、もはや、後戻りできないシチュエーションに恥じらいを感じ、この練習をやめるとは口にはしなかった。

 でも、先輩と近距離で一緒にいられるだけで、久人は嬉しかったのだ。


 それ以上に、先輩の爆乳を左腕で感じられていることに興奮し始める。

 これは天国に近い。

 久人はひたすら、そんなことばかり考えていたのだった。






 人によっては、結婚は人生の墓場だと言われることがあるが、それは間違いだ。

 結婚相手さえ間違わなければ、地獄と化することはないだろう。

 間違わなければ――



 そんなことを今、久人は感じていたのだ。

 それよりも、先輩の爆乳を制服越しであっても感じられていることに喜びを覚えていた。


「これで、女の子から言い寄られても問題はないと思うわ……多分」


 恵令奈先輩は自信なさげに呟くように言った。


「でも、逆にこの練習、緊張しないですか?」

「そ、それはそうだけども。阿久津久人に耐性がつくなら、こういうやり方の方がいいというか、まあ、そういうことなの」


 先輩は少々、混乱しているらしい。

 活舌が悪くなっているところがある。

 その上、意味不明な発言が多かった。


「それでは、私とのデートの件だけど」

「……先輩? このままの態勢で、やり取りを続けるんですか?」

「え、ええ、そうよ。嫌かしら?」

「そうじゃないですけど……」


 このままで会話できるなら、それに越したことはない。


 久人は内心、嬉しくてしょうがなかったのだ。

 爆乳を感じつつ、好きな先輩と一緒にいられることに。


「では、デートに関するか話を始めるからね」

「はい」


 久人は元気よく頷く。


「まず、デートする場所は、隣街とかがいいわよね? その方が知っている人にもバレないしね」

「そうですね」


 そうであってほしい。

 知っている人にバレてしまったら一巻の終わりである。

 そこから知り合いを伝って噂が広がってしまうからだ。


 先輩は爆乳であり、学校内でも絶大な人気がある。

 特に男子生徒から。


 先輩と付き合いたい人は多いのである。

 この関係は隠さなければならないのだ。


 今日の朝の出来事は間違いだったと、生徒会が中心になって誤解を解いてくれたらしい。

 だから、この学校にいる数名の人以外、久人と先輩が本当に付き合っている事なんて知らないのである。

 ただ、数名の知っている人が一番、厄介だったりするのだ。


 妹の弥生やよい

 幼馴染の汐里しおり

 元部活の部長の東海あずみ


 その三人の存在はとにかく、今後の脅威になるだろう。


 けど、先輩との関係性を続けるためには、乗り越えなければいけない壁であり、山なのだ。


 久人は右手を力強く握った。

 絶対に、この絶望的な環境を乗り越えていこうと――

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