第4話 俺は何が何でも、生徒会長と付き合いたいんだ‼

「ねえ、変態? そろそろ、諦めたら?」

「ひさと? 早く書けって」

「というか、なんで、嘘をついたの? お兄ちゃん?」


 生徒会室の廊下を後にした阿久津久人あくつ/ひさとは、三人の美少女の声に包み込まれていた。


 昼休み時間。

 久人は彼女らと共に、中庭の中央に設置された簡易的で小型な屋根付きの木製の建物。その中に設置された木製の椅子に座り、正方形のような木製のテーブルを中心に四人で囲んでいる感じだった。


 逃れられない運命に今、直面しているのは事実である。


 自分と都合の悪い女の子と結婚してしまったら、それは人生の地獄と化すだろう。

 だが、好きな子と結婚出来れば、死ぬまで天国が続く。


 その分かれ道。

 ここは重要な話し合いの時間である。


「ねえ、久人って、どうして変態なの? というかさ、爆乳好きなんでしょ?」


 右側の椅子に座っている、幼馴染の早坂汐里はやさか/しおりからの問いかけ。


「え、いや、まあ、そうだな」

「キモッ、最低」

「……」


 ショートヘアで、それなりのおっぱいの膨らみを持つ、汐里から普通にディスられたのである。

 心が普通に傷ついた。

 幼馴染は少々毒舌なところがあるのだが、今はあからさまに毒舌になっているのだ。


「なんで、あの先輩のことが好きになったの?」

「それは……ば」

「ば? 何?」

「な、なんでもない」

「……」


 汐里しおりから睨まれる。

 幼馴染は怒ると怖い。


 何とか穏便に過ごせたいと思い、余計な発言をしないように心掛けたのである。

 久人ひさとは心の中で一旦、ため息を吐いたのであった。






「ひさとはさ。私の部活に戻ってきてくれるんだよな?」


 一旦、難が去った後、また、さらなる難が降りかかるのである。

 今度は左側の席に座っている、元部活の部長――大段東海おおだん/あずみからの問いかけであった。


「まだ、そんな気分じゃないというか。でも、返答は今週中ですよね?」

「そうだが、気分が変わったんだ。だからさ、一先ず、この用紙にサインをしてくれないか?」


 ポニーテイルの東海先輩から、入部届を渡されたのである。


「これに書けばいいんですか?」

「ああ、そうだ」


 東海あずみ先輩は胸のサイズは巨乳タイプであり、生徒会長ほどではないが、元気よく頷くと、その胸が軽く揺れるのである。

 彼女は解放しきった清々しい顔を見せているのだ。


 そのおっぱいの揺れ具合により、多少なりともどぎまぎしていた。

 けど、誘惑されないように、受け取った入部届の用紙ばかり見るようにしていたのである。


 久人はテーブルに置いた、その用紙と向き合い、右手にボールペンを持ち、しぶしぶと記入するつもりでいた。


「……ん?」


 何かがおかしい。


 東海先輩が渡してきた用紙。それは確実に入部届だったはずだ。

 が、よくよく見てみると、用紙に設けられた枠がちょっとばかし違うのである。


「こ、これって……? ん⁉」


 ようやく久人は、そのおかしさに気づいたのであった。


「こ、これ、婚姻届じゃないですか⁉」

「バレたか」

「それは、バレますからッ」


 久人は慌てた感じに椅子から立ち上がり、入部届のフリをした婚姻届を先輩に押し返したのだ。


「あーあ、あともう少しで、いいところまでいけたのにな」


 東海先輩は、ため息交じりのセリフを吐いていた。


「東海先輩、抜け駆けは駄目ですからね」


 近くにいた汐里からも指摘を受けることになったのだ。


「最初に言っておくわ。結婚とは、最初に動いて、相手をその気にさせたことが勝ちなの。先手必勝的な感じね」


 東海先輩は持論を展開し始めたのである。

 聞けば話が長くなりそうで、早くどこかへと逃げ出したくなっていた。


 久人は席から立ち上がり、こっそりと立ち去ろうとしたのだ。


「お兄ちゃん? どこに行くの? 逃げようとしているでしょ?」


 揺れることのない貧乳サイズの妹――、阿久津弥生あくつ/やよいは、東海先輩の持論が展開されている中、その久人の言動を見逃すことはしなかった。

 ツインテール風の髪を、外の風で揺らす妹は、テーブルを挟み、久人の正面の席に座っているのである。


「……」

「お兄ちゃん、バレたかっていう顔をしてますね。そんな見え透いた動き。わかりますから。何年、お兄ちゃんの下で、妹をやってると思ってるんですか?」

「その発言さ。なんか、距離を感じるんだが?」

「……」


 妹は意味深な感じに無言になりつつ、ジト目で久人をまじまじと見つめてきたのだ。


「な、なんだ?」

「何でもないですけど」

「そ、そうか……」


 久人は色々な意味でヒヤヒヤしていたのだ。


 さっきの妹の発言を耳にし、弥生が本当の妹じゃないと思ってしまった。

 まさか、義妹とかではないだろう。


 久人は胸に手を当て、一度深呼吸したのち、妹に見られながらも、席に座りなおしたのだ。






「それで、お兄ちゃんはどうするんですか? 汐里先輩と東海先輩から告白されたんですよ。ハッキリとした返事を返した方がいいのでは?」


 弥生から正論を言われたのだ。


「そ、そうだな……」


 久人は二人を交互に見、考え込むように俯きがちになり、押し黙ったのである。


「やっぱり、付き合えない」


 久人は断言したのである。

 もはや、決まっているのだ。

 爆乳な生徒会長、神崎恵令奈かんざき/えれなと結婚前提で付き合うことが――


 刹那、現在の空気感が変わったような気がした。

 ふと、顔を上げ、二人を交互に見やる。


「なんで、なんで、私をふろうとするの?」

「なあ、ひさと、考え直せ。あの爆乳と関わってもいいことないぞ」


 汐里と東海先輩から、各々の言葉を返答してもらったのだ。


「でも、もう決めたことなんだ」


 久人は必死に抵抗したのである。

 何が何でも、あの先輩と――

 爆乳な彼女とデートを重ね、結婚に至ると決めたのだ。


「そう。わかったわ。久人」

「じゃあ、私らもそれなりの手段を取らないといけないね」


 久人の視界に映る、二人の女の子の表情が暗くなった気がする。

 何か、ありえない事態に発展してしまいそうな、嫌な前兆のように感じたのだ。


「では、東海先輩、協力しましょ」

「ああ」


 二人はなぜか、結束したのである。


「え? どういうこと?」

「だからね、私らは久人がその気になるまで諦めないってこと」

「そうそう。だからね、覚悟しなよ、ひさと? 私らを敵に回した事を後悔させてあげるからな」

「……」


 久人は無言になった。


 幼馴染と、元部活の女部長の二人からの宣戦布告である。

 決して敵に回してはいけない存在と対峙することになったのだ。


 久人は確認のために、妹を見やる。

 が、弥生やよいは知らないふりしていた。

 これはもう色々とめちゃくちゃである。


 けど、生徒会長と付き合うためには、絶対に乗り越えない山かもしれない。


 久人は、何が何でも、先輩と正式に結婚できるように、恵令奈先輩のことだけを考えて生活しようと思ったのだ。

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