第25話 ころんころん、もちもち、ぷるるるん

【文披31題】DAY25 テーマ「キラキラ」


「気になったんだけど」

「なんだ?」


 膝の上に乗ったり落ちたりで転がり続けながら、ようは器用に目だけ俺の方に向けた。


「お前それ楽しいの?」

「なにが?」


 ころんころんと俺の周りを転がりながら目だけがずっとこちらを見ている。

 その身体どうなってるんだ、というのは深く考えたくはない。


「転がるの」

「たのしいぞ?」

「そんなに目をキラキラさせるほどか」

「うん」

「そ、そうか……」


 赤い目をくるぅんと大きくして、キラキラとさせていた。


「迷惑か?」

「いや、別に。こう、もったりしてるし」

「なんだそれ?」

「程々に通る度に気持ちが良いといいますか」

「ふふん、そうだろう」


 そう言いながら身体の周りをころんころんと回って、また膝の上に乗っては降りる。

 常に目だけはこちらを向いている。


「……俺の方見るのも楽しいに入ってるのか?」

「これは……心配?」

「今は猫ノ目書房の中だぞ。何があるってんだ」

「なんだかんだ言ってもお前、不健康だから」

「……ぐうの音も出ないわ」


 ころん、ころんと転がりながら、正論を言う黒まんじゅう……もとい、黒いうさぎを視線で追いかける。

 そうしていると、違和感に気づく。


「あれ……?」

「どうした優史ゆうし

「いつも置いてある本が、ないなと思って」

「いつも?」

「テンチョウが座っている席の近くに置いてある本があるんだよ」

「そんなのあったか」

「見たことあるだろ、一回ぐらい。魔法陣みたいなのが書いてある紙の貼ってある本だよ」

「しらない」


 ころんころんと転がっていたのが俺の膝の上に止まって、肩にぴょんと跳ねて辺りを見回す。

 同じ方向を一緒に視線で追いかけても、それらしき本はどこにもなかった。


「……ようが来てから『ない』ってことか?」

「もっと前からなかったのかもしれない」

「テンチョウの、大事な本のはずなのに……?」

「そうなのか?」

「ああ」


 俺の返事を聞いた後、特に会話が続かないと判断したらしいようはすぐに滑り落ちてまたころんころんと周りを転がりだした。

 あの本を『開かされた』事がある自分の手を見て、ぼんやりとする。

 ぴょん、っと手のひらの上に黒い塊が飛び乗った。めちゃくちゃ柔らかくて気持ちが良い。

 乗っかった上でさらに左右にぷるんぷるんと揺れて遊んでいる。なんだ、水まんじゅうが食べたくなってきたな。帰りに竜神堂に寄るか。

 ただ、視線はこちらをずっと見たままで、そこだけがちょっと怖い。


「何してるんだ?」

「なんとなく揺れてる」

「ああ、そう」

「楽しいのか?」

「たのしい」


 ぷるるんるるんと揺れながら、黒まんじゅうは瞳をキラキラと輝かせていた。


「あとおいしい」

「ん? なんだって?」

「ううん、なんでもない」


 その後は扇風機の前で宇宙人ごっこするみたいにあああああと声を出しながら黒まんじゅうが揺れていた。

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