第8話 影はさらさらがお好き
【文披31題】DAY8 テーマ「さらさら」
「何してるんですか」
「楽しんでる」
いや何を。
本を読む俺の周りで髪の毛に触るか触らないかのところをぐるぅりと回って遊んでいる、らしい。
視界には入らないようにしてくれたいるらしく目の前が暗くなることはない。
ただずうっと頭の周りでふわふわと風が起こりつづけ正直気は散る。
「ふんふふーん」
鼻歌……鼻? いやもうそこは考えだしたらきりがないからそのままで行こう。
ご機嫌に歌いながら左右にゆったりと揺れて、俺の周りを変わらず掠めている。
「さらさらー」
「何がです?」
「髪の毛」
「あぁ……まあ、手入れはしてますから」
何が楽しいのかと思ったら髪が揺れるのが、ということらしい。
いやそれ本当に楽しいかな。
楽しみ方は人それぞれか、と人に括るのもどうなんだと思いながら勝手に納得する。
「
「……誰と比べてるんですか?」
「ナイショ」
「そうですか」
髪の中に頭なのか、それともそれ以外なのかよくわからない部分が突っ込んでくる。熱く感じているからひんやりとして気持ちはいい。
視界の端に赤い舌が見えて、思わず頭を降ると無抵抗に黒い物体は肩から転がっていった。
「んぁー……落ちたぁ」
「今、俺のこと舐めようとしませんでした?」
「してない、舌が出ちゃっただけ」
もう一度肩の上に乗ってこようとするのを手で防いで膝の上で落ち着いて貰おうとする。
慣れて来て油断し始めて忘れかけたが、人に何かしようとする存在でもあるのだ。
「もう少しさらさらしたいー」
「うっかり舌を出すならだめです」
「むー……」
不服そうにはしたものの、大人しく膝に転がって……は居なかった。
頭から生えた何かわからない3本の黒い何かを器用に俺の脇の下を通して伸ばし、髪を揺らしてくる。赤い目が細い線になって……もしかして笑えてたのか。見てなかった。なんて思いながらキャッキャッと楽しげに人の髪で遊び続ける黒い何かを本そっちのけで眺めていた。
「さらさらー」
「……まあ、舌さえ出なければ何でも良いです」
「やったー」
膝の上でころころと軽く左右に揺れながら遊ぶそれにたまに視線を落としながら、俺は本を読み進めた。
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