第7話 昼間のミルキーウェイ

【文披31題】DAY7 テーマ「天の川」


「ミルキーウェイだな」

「なにそれ?」

「天の川のことです」


 たっぷりのフルーツが牛乳の流れに乗って、流し素麺用のマシンを流れていくのを見て呟いていた。

 何か面白いことを、と言われて苦肉の策でやったのがこの牛乳フルーツ流しである。家の2階、ベランダにパラソルを広げて木製の机の上には果物の入ったボウルと機械。それから真っ黒い赤い三つ目の物体がジタバタしていた。


 最初は赤くてきれいなので、流水でミニトマトを流そうとしたが、確認してみたら予定が変わったのだ。


「やだ」

「……トマト嫌いですか?」

「き、きらいじゃない」

「じゃあ流しましょうか」

「やだ」

「トマトジュースはいいのに?」

「あれはぐちゅっとしない」


 食感が駄目なのかー。

 ゆるく受け止めて洗ったトマトを自分の口に放り込む。独特の感触を楽しみつつ、ダメなものはダメだよな、と勝手に納得して冷蔵庫に向かう。


「なに」

「大きいトマト流そうと思って」

「やだ!」

「嘘です。幅的に流れませんし。果物でも流そうかと思って」

「なにを?」

「トマ」

「やだ!」


 打てば響くとはこのことか。いや違うな。昔からの自分の性格の悪い部分が顔を出してきているので意地悪はこのぐらいにしなければと思う。


「切ったり洗ったりするのでお待ちを」

「なにを」

「ト」

「やだ!」

「……いちごとかパイナップルです。ちょっと流すには大きいので」

「本当に?」

「さーて」


 どちらでも取れる返事をしながら他の誰も見てないので魔術を使って素早く準備を済ます。透明なボウルに適当にまとめて、足元で抗議したいが出来ないのかぐるんぐるんしている物体に見せる。


「これでどうでしょう」

「果物!きれい!」


 透き通った器に入った色とりどりの果物は、陽に当たると宝石のように輝いていた。無邪気な感想に眩しさを覚える。見た目は真っ黒なのに俺より綺麗なんじゃないか。


「そう、果物……せっかくなら牛乳でやりましょうか」

「うしちち!」

「その、言い方はやめましょうね」


 何か、素直なんだけど時々別の何かが悪い影響を与えた気がしてならない。


 表面に薄く魔術でコーティングして牛乳が変なところに入らないようにして、流しそうめん用の機械を白に染めていく。

 果物をスプーンで掬って程々に流していく。


 果物がときおり顔を出し、陽射しで鮮やかに輝く。ぷかぷかと浮いては沈むのが星の瞬きみたいに見えて、暑さも相まってうっかり。

 昼間のミルキーウェイ。

 なんて反吐が出そうな表現をしてしまった。


 牛乳は流れっぱなしだが、最後に待っていれば果物は全部たまる。だが、彼は器用に頭だと思われる部分から生えた黒い何かで箸を持って……いや待て、それは何だ。箸を掴んでるのは2つだけど1つ余ってるし。手か、触手か。それとも耳か。それも三つなのか。

 深く考えるのを放棄して、洗ってしまったミニトマトを取ろうとして牛乳に落とした。


「あっ」


 ぽちゃん、と流れていくルビーのような輝きを目で追いかけて手を伸ばすより先。

 箸がかっさらって赤い舌で闇に消えていった。


「んぎゅぐぇッ……!?」

「アァー……」

「騙した!?」

「いや、落としちゃっただけです」

「騙したの!?」

「騙してないから落ち着いて下さい」


 でもちゃんとごっくんしたのは出さないんだな。

 なんて冷静に考えながら自分の周りを不服げにころんころんジッタンバッタンと大騒ぎしている姿を見つめる。箸は持ったままなのにこっちにぶつからないようにしてて器用だな、とも思う。


「だましてない」

「そうですよー、騙してませんよ。ハズレが入ってただけですよ」

「ハズレ……?」

「そう、たまたま引いてしまっただけで」

「わかったよける」

「ん?」

「これから見極めてよける、許す」

「ありがとうございます」


 それからは、赤い目を三つ寄せたり揺らしたりしながら、真剣にフルーツと向き合っていた。

 彼にとってのハズレを時々うっかり投げ入れながら少し早めの昼食を楽しんだ。まともに固形物を食べたのは何時ぶりだったっけか。


 全く思い出せなかったし、気持ち悪くなりそうだったので別の事を考える。

 夜に天の川ってこの辺で見れたっけ。


 ミニトマトをつまみながらそうしているうちに、昼間のミルキーウェイは綺麗に闇に飲まれていった。

 全部綺麗に飲んでくれるの楽でいいな。

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