第2話 その姿に影は見惚れる

【文披31題】DAY2 テーマ「金魚」


 ゆったりと左右に揺れながら、水槽を泳ぐ赤と黒の優雅な姿を影が見ている。

 ここはショッピングセンターのペットショップ。

 平日の午前中という絶妙に人の居ない時間帯に金魚を眺めていた。

 日中に町中を歩いて気づいたけれど、影の葉は他の人には見えていないらしい。


「これも寿命短い?」

「あー……人間、よりは?」


 周りに誰も居ないのを確認して、小さな声で応える。


「どのぐらい生きるの?」

「上手く育てれば長生きするそうですが」

「ふぅん……」

「食べちゃだめですよ」

「食べないよ」


 赤く光る三つの、おそらく目でじぃっと水中を自由に泳ぐ姿をただ静かに見つめていた。

 家に来てからずっと色んな事を聞いてきて、面倒くさいなとは思っていた。

 ここへ来て初めて静かになったのだ。

 少しゆっくりして行こうかと自分も別の魚を見ていると、ぽつりと背後で小さな声がした。


「いいなぁ」


 羨ましい、という感情を感じる声。

 このまま聞かなかった事にするのが正しい気がする。けれど、それなりに強い気のするこの影が、金魚の何に憧れると言うんだろう。

 飲み込むはずが、気がつけば疑問は言葉にになっていた。


「……何がです?」

「ん? オレなにか言ってた?」

「……いえ」


 無意識に溢れていたらしく、ぐるぅんと横に身体を丸めて不思議そうにしていた。

 何も聞かずに居ると、また水槽を眺めていた。

 しばらくするとまた身体を左右にゆったりと揺らしながら、俺に近づいて纏わりついた。


「別のところにいこ」

「ああはい、わかりました」


 少しだけ、そう言った声が寂しそうに聞こえた気がして顔をあげる。表情はよくわからないけれど、黒い影はゆったりと左右に揺れていた。

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