第9話

「遥さん、好きな人いますか」

「え、どした?」

掃除の時間に、正面玄関で偶然会った遥を頼った。

偶然ではない気がするのは、とりあえず置いておいた。

「って、私が聞いたらどう思いますか」

「俺のこと好きなんかなって思う」

「ですよね。あぁ、めんどくさい」

「え、俺、聞かれたから真摯に答えたのに、めんどくさいとか、散々すぎん?」

「友達に、隣の席の男子に好きな人いるか聞いといてって言われたんですよ」

「しかも無視」

「私、好きでもなんでもない人に、好きな人いるか聞かなきゃいけないんですけど」

「聞けば良いやん。そんなの世間話やで、って、そんな怖い顔すんなって」

みんなにとって世間話でも、私にとってはそうではない。

少なくとも私は、全く興味のない人の好きな人なんて、相当話題に困らない限り、聞きたいと思わない。

これは、おおよそ共通の認識でも良いのではないかと考えている。

おっと、と言って、なぜか遥が靴箱の裏に隠れた。

澪、と呼ばれた。小山くんのことが好きな友達だった。


「澪、聞いた?」

「ごめん、まだ」

「遅いよ。なんで聞けないの?」

なんで、か。彼に、私が好きだと誤解されたくないからだろうな。

沈黙を守る私に、その友達は懇願した。

「聞いてよ。お願い。明日ね」

「明日…」

「うん、お願い」

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