第2話

私と付き合ってるなんて、ね。

「良い子ってさ」

少し前置きしてみる。

「良い子ってさ、都合の良い子、だよね。絶対。誰にとっても」

そう言い放つ私に、彼女は何も言わなかった。

何も言わないでくれる人だった。


「予鈴鳴りますけど、澪さん移動でしたっけ」

「あー、数学。移動やわ」

「数学得意じゃないですか」

「得意じゃないよ。苦手でもないけど」

「あー、得意なの、英語でしたっけ」

「得意じゃないよ。苦手でもないけど」

「澪さん」

彼女の声のトーンが少し落ちた。あ、怒ったかな、と思った。


「数学行ってらっしゃい。また放課後」

さらりと笑って、いるべき場所へ戻る彼女をしばらく眺めた。

自分の教室からぞろぞろと出ていく人だかりを見て、重い腰を上げた。

その日の数学は図形の証明問題だった。

「林田さん、解けるでしょう?あれ、わかんないの。ああ、もうすぐ解けるやん、さすがやね」という先生の言葉は、嫌いじゃなかった。


2010年4月

「なんでそんな髪茶色いん?」

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