プロローグ5

「顔を隠すヴェールは不要だ。ライラの可愛い顔を隠す必要はない。もしライラに対して不埒な思いを抱いた存在が居たら私が始末する」


 わぁ、不穏。

 見た目3~5歳の幼女に不埒な思いを抱くとかいうペドは私も遠慮したいけど、始末って言葉通り物理的に始末されるんだろうな。

 でも気軽に命を奪う発言は魔王らしいけど、前世が一般人としては心臓に悪い。


「この装飾品を用意したのは魔王御用達の工房か?」

「はい、カシェルア工房の品物ですが、何か問題が?」

「魔晶石のカッティングはともかく、込められた魔力量が少ない上に輝きも足りない。この程度の品物を提出するなど、私を馬鹿にしているのだろう。即刻魔王御用達の資格を取り上げよ」

「かしこまりました」


 いや、かしこまらないで!

 カシュルア工房って、魔国産の装飾品を購入する際に使用するショップの名前だから!

 そこの装飾品じゃないと好感度あがらない攻略対象もいるんだけど!?


「パパ、そんなことしなくてもいいんじゃないかな」

「ライラ、魔王の娘であるお前が使用する物は最上級の品物でなければいけない」

「私はそこまで品質にこだわりは」

「最上級の品物でなければならない」


 繰り返し言われた言葉に思わず頷いてしまう。


「つまり、最上級の品物以外を提出したということは、私やライラを軽んじているという事だ」

「そうかなぁ?」


 突然降って湧いて出た魔王の娘とか、普通に考えて不信感しか持たないと思うよ?


「でも、今までは同じ工房の物で問題はなかったんだし、いきなり御用達を取り上げるのは良くないんじゃないかな」

「…………ふむ、つまりはあの装飾品を作成した者が問題というわけだな」

「うん?」

「それであれば、あの装飾品を作成した者を処分する事と引き換えに、御用達を取り上げないとしよう」

「しょ、処分!?」


 それって命を処分するわけじゃないよね!?

 内心で嫌な汗をかきながら笑みを浮かべて言うと、オルクスは無表情のまま頷く。


「魔王御用達の工房に所属しながら、最高級の物を作れないなど生きている意味はない」

「そこまで言わなくてもいいんじゃないかな!?」


 慌てて否定して周囲に視線を向けるけど、皆はオルクスの意見に賛成っぽい。

 やばい、私のせいで死ななくてもいい人が死ぬとか、マジで勘弁して。

 どうしたものかと考えて、デザイナーは私の為にドレスをいくつも作る事で命を救ったことを思い出す。


「魔晶石の事はわからないけど、このデザインは好きだな。こういうデザインの装飾品を作れる人を簡単に処分なんてもったいないんじゃないかな」

「確かにデザイン自体はライラに良く似合っているな」

「そうでしょう! それに魔晶石はその装飾品を作った人が用意したかもしれないけど、加工した人は違うんじゃないかな?」

「つまり、魔晶石を用意した者が悪いと」

「いやいや、その用意した人は私用の装飾品に使うとは知らなかったんだよ、きっと!」

「魔王御用達の工房に用意する魔晶石だぞ。そこら辺の工房と同程度のものでは困る」


 どうしよう……。

 装飾品の職人さんは守れたっぽいけど、他の人に飛び火してる。


「その魔晶石って、そんなに出来が悪いものなの?」

「魔王の娘が身に着ける品質ではないな」

「つまり、他の人には高級品という事よね! 魔王御用達の工房はきっと魔族の偉い人がいっぱい利用しているし、その人が使うと思っていたんだよ!」


 必死にフォローするとオルクスは少し考えるように私を見てくる。

 慣れたとはいえ、美形からのガン見は心臓に悪い。


「そ、そういえば私って魔晶石の作成って見た事ないな。パパは魔晶石を作れる?」

「魔石さえあればいくらでも作れるぞ」

「流石はパパだね! そうだ! 私の装飾品に使う魔晶石、今後はパパが作った物にするっていうのはどう?」

「私が作る魔晶石を?」

「パパが作る物なら最高級で間違いないし、パパが作った物を身に着けるなんて仲良しみたいだわ!」

「仲良しみたいではなく、仲良しなのだが……。そうか、確かに魔族には突然娘にしたライラを不審に思っている者もいる。そういった者に仲の良さを知らしめるためにはいいかもしれないな」

「う、うんっそうよね! そう考えると、今回そのきっかけを作ってくれた人を罰するのはよくないわ!」


 わぁい、我ながら無茶苦茶な事言ってるぅ。


「わかった、処分する事はしないでおこう。ただし、私の娘を愚弄するような品物を提出したことはしっかり指摘しておく」

「う、うふふ」


 どうかその人たちが首とかになりませんように! 物理的には首は飛ばないだろうけど、職を失う的に首が飛んでも大変だからね!


「そうと決まれば、早速私が作った魔晶石を使って装飾品を用意させよう。祝賀会までに間に合わせなければ」

「いや、無理でしょう!」


 前世含めてアクセサリーを作った事は無いけど、数時間で作れるものじゃないよね!


「デザインは気に入っているのだろう? ならば魔晶石を変えるだけでいい。さして時間はかからない」

「そうなの?」


 その装飾品、小さいとはいえ魔晶石をいっぱい使ってるから大変だと思うよ?


「そのぐらいのことが出来ないようでは、魔王御用達の工房とは言えない」

「へえ……。あっ、あの装飾品綺麗! パパ、今日はあっちの装飾品にしない?」


 咄嗟に他の装飾品を指さしてオルクスの気を向けてみると、オルクスは私がいいと言った装飾品を見る。


「確かに悪くないな。しかし、華やかさに欠けるのではないか? 今日の主役なのだからいつも以上に愛らしさを強調しなければ」

「大丈夫だよ、珍しい衣装なんだし、装飾品を目立たせるよりも衣装を目立たせるようにした方がいいよ。レヴァール国との友好もアピールできるんじゃないかな!」

「別にそこまでアピールする必要は……。いや、やはりあの衣装は止めておこう」

「はえ?」

「レヴァール国の国王と息子は自国の衣装で参加するだろうからな。まるでお揃いにするようで気に入らない」


 さっきあの衣装を着て歓迎するのも悪くないとか言ってたよね!?


「ライラは何を着ても似合うが、生誕半年の記念祝賀会で来賓に合わせる事もないだろう」


 手のひらクルクルし過ぎだよ……。


「ドレスをもう一度見せろ、アマナ国から提供されたレースを使った魔絹のドレスがあったな。……それじゃない、クロムグリーンの方だ」


 オルクスの指示でメイドがドレスを持ってくると、オルクスは手に取ってじっくり確認し、私を見た後に頷く。


「これにしよう、装飾品も選び直す。髪は……軽く巻いてハーフアップにして、髪飾りのメインはこれだな。……いや、こちらの花モチーフの飾りの方がライラの髪色に映えるか?」


 既に六回目ともなると、メイド達も慣れたものでオルクスが気に入りそうな装飾品をどんどんと並べていき、組み合わせを作っていく。

 主役のはずの私を置き去りにしてな!

 オルクスの目利きは確かだから文句はないけどね、ないんだけど私の役目はオルクスが暴走しそうになった時のストッパーだけってどういうこと?

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