第13話 責任を取るって大変ですよね……
夕暮れに赤く染まる町並み。
コンクリートジャングルで気の早い蝉が鳴く中、俺は一人家路についていた。
鉄舟さんが部屋から出ていったあと、秘書の人の案内で俺はビルの階下へと降りた。
エレベーターの前で別れる際、鉄舟さんの秘書は微笑んで、
「またお会いできる日を楽しみにしております」
と言ったが、俺はその言葉に曖昧に返事をするしかない。
キッパリと否定出来ないのが弱さだと理解しながら。
高架を走る電車。
その車窓から見える景色を眺めながら俺は考えた。
これからの事だ。
俺は一体どうすべきなのか。
俺は、自分の将来に対して明確なビジョンを持っているとは言い難い。
ハッキリ言ってしまえば俺は、ただの落ちこぼれのアホ高校生だ。
しかし、このまま流されるままに生きるのだけはゴメンだ。
鉄舟さんの操り人形だけにはなりたくない。
俺は、ポケットからスマホを取り出す。
電話を掛けるのだ。
数コールの後に、相手が受話器を取る。
「もしもし?」
「あ、母さん。……今大丈夫かな」
「えぇ、ちょうど一息ついたところだから。……どうだった? お義父さんとの話は」
俺は少し迷ったが、思い切って本当の事を告げてみる事にした。
下手に取り繕っても仕方が無いと思ったからだ。
「あ~、何というか。喧嘩売っちゃったかも」
すると、母さんはクスリと笑って言った。
「あらまぁ。やっぱり」
「どういう意味だよ」
俺が尋ねると、呆れたような声で答える母さん。
その様子は、どこか楽しそうだ。
その態度が気に食わず、俺は少しムッとする。
そんな俺の様子を知ってか知らずか、彼女は言葉を続ける。その口調は、いつも通り柔らかい。
「だって貴方は昔から頑固だったもの。お義父さんとはそりが合わないと思ってたわ」
そう言うと、母は小さく溜息を吐く。
「それでも貴方、自分が思ってる以上に周りから愛されてるのよ。
自分が如何に恵まれているのか、京花ちゃんと雪花ちゃんの境遇を知れば分かるんじゃない?」
「……」
俺は、母さんの言葉を黙って聞く事しか出来ない。
そんな俺に構うことなく、言葉は続く。
「我を張るのは構わない。
でも、それで迷惑を被る人がいるならば最低限の筋は通しなさい」
普段見せることの無い厳かな態度の母さん。
だが、生まれ持った反骨心がその言葉に反駁する。
「良く言うよ。
それを言うなら父さんはどうなんだ。元々、京花さんは父さんの許嫁だろ?」
俺がそう言い返すと、母さんは少し困った声で答えてくれた。
「そうね……そう、その通り。
でも、あの人だって貴方と同じ気持ちだった筈。
それでもあの人は自由であることを選んだ。与えられた全てを捨て去って。
……貴方にその覚悟はあるの?」
俺は、その言葉に胸を締め付けられる。
俺はただのガキだ。
京花さんと雪花ちゃんどころか自分の面倒すらまともにみれないただのガキ。
その事が悔しい。それが歯痒くて堪らないんだ。
「取りあえず帰ってらっしゃい。
2人が晩ご飯作るって張り切ってるわよ」
「……うん、分かった」
そう言って、俺は電話を切る。
窓の外を見ると、もう家の最寄り駅近くまで来ていた。
――夕日を見て黄昏る。
「――柄じゃ無いんだけどな」
思わず独りごちる。
何故か無性に走り出したくなった。
俺は駅に着くと、そのまま改札を抜け街へと向かう。
線路の向こう側に沈もうとしている夕陽を眺めながら、俺は走る。
まるで青春映画の一シーンのように、俺は駆け抜ける。
そして、次の瞬間―――。
誰かに服の裾を掴まれスッ転んだ。
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