第7話 男の友情って良いものですよね?
幸い登校中に、俺に危害が加えられることはなかった。
だが、学校の男子からの羨望と嫉妬の視線はひしひしと感じる。
真奈美もファンが多く、雪花ちゃんは言わずもがな、噂の的の美少女転校生。 そんな2人をはべらせている俺は、さぞ憎たらしい存在として彼らの目に写っているのだろう。
案の定靴箱の前で2人と別れ、教室に入るとすぐ俺の周りに人だかりができる。和弘を筆頭に見事に野郎ばかりだ。
女子は遠巻きになりながらそれを興味津々に眺めている。
「おい、お前! あの超絶美少女は何者だよ!?」
「お前、いつの間にそんなにリア充になったんだよ!!」
「真奈美ちゃんだけじゃ飽きたらず、お前ってやつは!! ……よほど死にたいらしいな。やっぱりこの藁人形を……!!」
などと口々に質問攻めにする男子たち。
勿論、最後の台詞は和弘だ。
俺はとりあえず事の次第をを説明する。
嘘を言うわけじゃない。
生存戦略と言ってくれ。
「えーっと、皆が思っているような関係じゃないんだ
彼女は御剣先生の妹だよ」
「そうだよお前! 御剣先生ともどういう関係なんだよ!!」
そう和弘が詰め寄ってくる。
(ふん、想定内だよこの問いは!)
京花さんのぶっこみの後、俺はそれに答えることなく学校を後にしていた。生徒たちの間にその疑問が渦巻いていることは、当然予想できることだ。
勿論、対策も考えている。
俺は山勘を張るのだけは得意なのだ。
「……あれは冗談だよ」
「冗談?」
「彼女は親父の知り合いでな、良いところのお嬢様らしいんだ。余り世間ズレしていなくてな。何か面白そうなことを言おうとした結果ああなったらしい」
そう説明すると周りの男子生徒達は疑わしそうな視線を向ける。
まるっきり嘘というわけではない。7割方は合っている。
昨日の夜京花さんとはきっちり話をしてそういうことにしてもらったのだ。 だいぶ恨めしそうな目で見られたがまあ仕方ないだろう。
「じゃああの1年の可愛い女の子は何なんだよ」
そう男子生徒の一人が言うと、周りの男子生徒もそれに同意して頷く。
「さっきも言ったろ、彼女は京花先生の妹だよ。つまり彼女も親父の知り合いってわけだ。
あれは、からかわれてただけだよ」
ちょっと苦しいかもとは思ったが、周りの野郎共はそれを聞くとはホッとしたような表情を浮かべ 口々に、
「……そうだよな、小笠原がそんなにモテるはずがない」
「まったくだ。真奈美ちゃんだけでもおこがましいというのに」
などと言いながら潮が引くかのように俺のそばを離れていく。
それはそれで、腹立たしいが……。
どうやらうまくごまかしたと思った時、和弘が余計なことを言った。
「待てお前ら!! それはそれとしてけしからんとは思わないのか! あんなに体をくっつけけられて、コイツだって鼻の下を伸ばしていたじゃないか。
……制裁は必要だと思わないか、なあ同志諸君」
すると周りから一斉に賛同の声が上がる。
俺はギョッとすると同時に身の危険を感じ取り、すぐさま教室の外へと逃げ出そうとした。だが、出口付近でガシッと腕を掴まれてしまう。
「ちょ、離せって!」
「いったいどこへ逃げるつもりだ?」
和弘がドスの効いた声でそう言い放つと、 小笠原一を抹殺する会の会員証を見せつけてくる。
昨日見た時より立派なカード、そこには会員番号No.1『会長・鈴木和弘』の文字が書陽気に踊っている。
「そんなもの作ってんじゃねえ!!」
そう叫ぶ俺の周りにワラワラと男子達が集まる。
あ、これは終わったな。さよなら我が人生。
****
昼休み。
結局、 俺は暴漢達に殺されることはなかった。が、俺の居場所は教室には無くなっていた。
俺の周りを男子達が遠巻きに囲み、殺気を放っている。和弘もだ。
まるで塹壕戦を戦う兵士たちのような静けさと緊迫感。
(……どうしてこうなった?)
俺の席の周りに座りながら真奈美と雪花ちゃんが、そんな男子たちを眺め呟く。
「なんだか面白いことになってますわね」
雪花ちゃんがくすりと笑いながら、真奈美に向かって話しかけた。
「うん、私もびっくりだよ」
真奈美は苦笑しながら答える。
意外と仲が良い。
「それと2人とも何の用だ?」
俺が尋ねると雪花ちゃんが、
「お弁当一緒に食べようと思って。 せっかくお母様が作ってくださったので」
と答えてくれる。
その言葉に周りの男子たちから呪詛のような声が聞こえてきた気がするが、きっと空耳だろう。
そして真奈美もそれに続くように、
「私は、雪花さんに誘われたからだよ!」と言う。
俺はため息をつくと、雪花ちゃんの方を向いて口を開く。
「別にいいよ。でもあんまり騒ぐなよ」
そう言うと2人は嬉しそうな顔をしてはしゃぐ。
「やったー! ありがとう」
「良かったです。断られたらどうしようかと思いました」
俺は鞄から自分の弁当を取り出すと机の上に広げる。
3人で昼食を食べ始める。
互いのおかずを交換して盛り上がる雪花ちゃんと真奈美。
まるで戦場に咲く百合の花だ。
「ん、これ美味しいよ! 雪花さんのお母さん料理上手なんだね」
「本当ですか? 嬉しいです」
俺はその様子を横目におかずをパクつく。
尊い。荒んだ心が癒される。
それは、俺だけでなく周りの男子生徒も同様らしく、和弘などはその空気に浄化され半分ほど昇天しかかっていた。
だが、そこには特大の地雷原。
近くに座っていた女子が俺の弁当を見つめ何事か呟く。
「あれ? あの女の子と小笠原くんのお弁当中身一緒。何でだろ?」
そう言われて気づく。
確かに弁当の中に入っている肉じゃがは雪花ちゃんが作ったものと全く同じものだ。
昨日の晩飯に出た残り物を入れただけだからな。
ヤバい! 雪花ちゃんや京花さんと同居していることはみんなには言っていない。このままだとそれがばれてしまう!!
そう焦る俺を横目に、雪花ちゃんがクスリと笑う。
「ふふっ、それはですね―――」
私がお義兄様の家にお世話になっているからですよ。と言う終わるや否や、野郎どもがこちらに向かって突撃してくるのだった。
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