第6話 世間知らずの義妹ってあざといですよね?

 翌朝。目覚ましの音で目が覚める。寝不足で重いまなこを擦り体を起こす。

 昨夜は本当に大変だった……。

 夕食の後の俺の発言のせいだ。


 バカ正直に水無月が俺と結婚したいと言った。なんて言葉を発した瞬間の、京花さん、雪花ちゃん、あと母さんの三者三様の表情。

 ……ハッキリ言って思い出したくない。

 特に京花さんの表情。今にも殺されるかと思った。


 その後は御剣姉妹による質問攻め。

 水無月との出会いに始まり、関係性、果ては俺の友好関係まで根掘り葉掘りとされた。


 それに拍車を掛けたのが、野次馬根性丸出しの母さんの発言。

 母さんが何か喋る度に、京花さんは幽鬼の様な表情で、雪花ちゃんはニコニコとこちらに圧を掛けて来る。これだけで寿命が20年分は縮んだ。


 そして2人(+1人)からの事情聴取が終わる頃には時計の針が重なろうかとしていた……。


****


 まあ、そんな事があっても、いつもと同じ時間に目が覚めるのが若さというものだ。

 俺はベットから立ち上がると制服に着替える。


 1階に降りて顔を洗って顔を洗おうと洗面台に向かう。するとそこには…………誰もいなかった。


(ラノベなんかだったらここで着替え途中の女の子がいるもんなんだけどな)


 ちょっとがっかりしながらそんなことを考える 。

 どうやら俺はラッキースケベの神様には愛されていないらしい。もっともそんなことを言ったら、小笠原一を抹殺する会の会員に本当に抹殺されそうだが。


 台所から物音と香ばしい匂いが漂ってくる。恐らく母さんが朝食を作っているのだろう。

 俺も朝食を食べようと、食卓に向かおうとした時――


「おはようございますお義兄さま」


 後ろから声をかけられ振り向くと、そこには、朝に弱いのか眠たげな雪花ちゃん。


「お、おはようございます……」


 前言撤回。ラッキースケベの神様、あんたいい仕事してるよ。


 雪花ちゃんは下着の上に スケスケのベビードールしか着ていなかったのだ……


****


 その後京花さんが、雪花ちゃんのあられもない姿を見て固まっている俺とそんな俺を不思議そうに眺める雪花ちゃんのところに、朝食だと呼びに現れたことで事態は解決した。


 雪花ちゃんの姿を見た京花さんが慌てて雪花ちゃんを2階に引っ張って行ったのだ。

 その後雪花ちゃんは制服を着てまた1階に降りてきた。


「お見苦しいところを見せてしまいましたね」


と、雪花ちゃんは恥ずかしそうに言う。


「いや、全然大丈夫だよ! むしろ眼福だったと言うか……」


 俺がそう答えると雪花ちゃんは頬を染めながら


「ありがとうございます」と答えた。


「本当に失礼しました。

 この子は今まで身の回りの世話を家人に任せてきたものですから……ちょっとああいうところには疎くて」


「へ、へぇ」


 真っ赤になって頭を下げる京花さんに、俺はそう相槌を打つことしかできない。

 まあその割にはかなり攻めたベビードールだったが。


 3人の間に微妙な空気が漂う。するとそこに


「あなた達何してるの! 学校遅れちゃうわよ!!」


 という母さんの声が聞こえてくるのだった。

 母さん。いつも煩いななんて思っててごめん。貴女は救いの天使だよ。


****


 食事を済ませ支度を整えて家を出る。

 なお京香さんは教師という仕事上やることがあるらしく、あわただしく先に家を出て行った。必然的に俺と雪花ちゃんが後に残されることになったのだ。

 ここで別れて学校に行くのは不自然なので自然と二人で登校することになった。


「……しかし、アッツいな~。7月入ったばかりだぞ、梅雨は何処行っちゃったんだ?」


 美少女と二人で登校なんて間が持たないので、そんなどうしようもないことを言ってみたりする。

 真奈美も美少女だがあいつは性格が男みたいなのでノーカンだ。


「でも、私は暑さというのも新鮮ですよ。屋敷ではずっと部屋の中でしたから」


「へぇ~」


(今朝の事といい以前は一体どんな生活してたんだろう)


 そんなことを考えていると 脇道から出てきた真奈美とばったり出くわす。


「アッ、兄貴!! ……それとそっちは昨日の?」


 真奈美は一瞬こちらに目線を向けると、そう言ってじっと雪花ちゃんのことを眺める。


「……先日はお世話になりました。

私お義兄様の義理の妹、美剣雪花と申しますわ。どうぞよろしく」


雪花ちゃんは真奈美に一礼にお辞儀をする。


「……妹? ……兄貴、説明してくれるんだろうな!」


真奈美はそう言って何故か俺の事を睨み付ける。


「あ、ああ。実はな――」


 そう言って俺は、何故かギュット拳を握りしめた真奈美にかくかくしかじかと昨日からの出来事を順を追って話すのだった。


****


「……ってわけなんだ」


 俺は話を終えるとふぅっと息をつく。


「……話は分かった。 昨日の噂話もそれで合点がいったよ。 にわかには信じられないけれど」


 真奈美は腕を組んでうんうんと頷く。


「……まあ、信じろって方が無理な話だけどな。

 俺だってまだ半信半疑だし。

 ……ところでさっきから気になってるんだけど、 お前はどうして俺と腕を組んでるんだ?」


 そう、真奈美は俺と腕を組んでいる。 まるで抱きつくかのように。


「そうですわ、お義兄様から離れてくださいまし」


「……うん、君もね」


 反対側では雪花ちゃんも同じように俺と腕を組んでいる。


 さっきから二人のナニが当たっているのだ。これではろくに身動きをとることもできない。


 そしてここは何と言っても通学路。公衆の面前なのだ。

 周囲から好奇と殺意の波動が飛んでくる。


「2人ともいい加減にしてくれ!!」


んそう叫ぶと二人は渋々と言った様子で体を離す。


 それを見て視線の元の約半数から更にギリギリと歯ぎしりをするような音が聞こえてくる。

 もちろん男性陣からだ。気持ちは分かる。

 そしてその内の1人は和弘。


 おい、その藁人形と俺の写真を何に使うんだ?

 もちろん呪う?

 ……ああ。もしかしたら俺の命もこれまでかもしれない。


 えっ? 死ぬなら結婚してから?

 それは冗談になってないよ雪花ちゃん……。

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