第4話 ちょっと病んでる幼馴染みも良いものです……よね?

 さて、俺には悩みがある。

 何を隠そう隣に住んでいる幼馴染み、 水無月 時雨みなづきしぐれのことだ。


 時雨とは引っ越してきた当初はいつも一緒だったが、 ここ数年は全く顔を合わせていない。

 引きこもりになってしまったのだ。


 それが夕方、こんな手紙が届いた。

 と言うか郵便受けに直接入れられていた。


【拝啓 若葉青葉の候、貴殿におかれましてはますますご清祥の事とお慶び申し上げます。】


 うーん、堅苦しい文章。

 こういうの苦手なんだよな。

 でもせっかく書いたものを無駄にするわけにもいかないし。読み進めることにする。


【前略 本日は折り入ってお願いがあって筆を取った次第です。つきましては今日の夜に我が家に来ていただきたいのですがいかがでしょうか? 敬具 水無月 時雨 】


 …….どうしよう。


 ****


 その日の夜のこと。


「それで相談相手として私が選ばれたという訳ですね」


 俺は京花さんに相談してみることにした。

 もちろん雪花ちゃんもいる。


「やっぱり迷惑でした?」


「いえ、私は構いませんよ」


 京花さんは微笑んでそう言ってくれた。


「ありがとうございます」


「それで具体的にはどのようにするおつもりで?」


「いや、いきなり言われてもなあ」


「とりあえず当たって砕けろですよ!」


 雪花ちゃんも楽観的だなあ。

 ただ、そこはかと無く計算高さが滲み出るのは彼女の質なのだろう。もう慣れた。


「まずはその方に会うことが先決でしょう」


「うん」


「それにしてもどうして急に呼び出されたんですか?」


「わからないです」


「それも聞いてみた方が良いかもしれませんね」


 京花さんが言う。


「そうですね」


「私たちも付いていきましょうか?」


「いえ、俺一人で行きます。

 人見知りな奴なんで」


 ****


 そんなこんなで午後8時過ぎ、俺は水無月の家の前に来ていた。


『ピンポ~ン』


 インターホン押してしばらくすると「……はい」と、か細い声が聞こえてきた。


「俺だ小笠原だ。呼ばれたから来たぞ」


 と返すと少し間を置いてから玄関のドアが開かれた。


「……どうぞ」


 出てきたのは長い黒髪の少女だった。

 背丈は平均より少し低いくらいだろうか。

 目はどこか虚ろで顔色もあまり良くない。


「……こちらへ」


 水無月はそう言って手招きをする。

 俺は恐る恐る後に続いた。


 ****


 通された部屋はとても広くて立派な和室だった。


「適当に座ってください」


「あ、ああ」


 俺は緊張していた。

 目の前にいる少女があまりにも綺麗すぎて。

 肌は白くてなめらかだし、大きな瞳に整った鼻筋、桜色の唇。

 艶やかな黒い長髪を後ろで束ねている。


 久し振りに会ったが綺麗になった。

 血の気の無い顔が相まって、まるで人形みたいだと思う。


「……」


「……」


 2人とも無言のまま時間だけが過ぎる。

 無いのだ、話すことが。何せここ数年、話した事どころか顔を合わせた事もなかったのだ。


 だが、ここは俺から口火を切る。

 でなければいつまでも帰れそうになかったからだ。


「……しかし久しぶりだな。突然手紙なんかよこしてどうしたんだよ」


「実は一君にお願いしたいことがありまして」


「お願い?」


「はい。私と結婚してください」


「…………」


 は? なんだって?


「おい待て何言ってるかわかってんのかお前?」


「もちろんです」


 何を当たり前のことをといった表情で答える時雨。


 こっちは意味がわかんねえよ!

 そもそも久しぶりに会ったの男と結婚とか正気か? いや確かに可愛いけどさ……。

 だがしかし、久し振りに会ったコイツはヤバい雰囲気かまプンプンするのだ。

 そう思った俺は当たり前に理由を聞いてみることに。


 時雨は語り始めた。


「私はあなたが好きなんです」


「何で?」


「なのにあなたは振り向いてれなくて」


「あの、話を聞いて……」


 時雨は 一人で話を聞かずに勝手にヒートアップしていく。


「閉じこもれば心配してくれるかな~と思ったのに」


「いや心配はしてたよ……」


「……今日真奈美ちゃんからSNSで聞きました」

(……真奈美とはやり取りしてるんだ)


「学校に一君の許嫁って名乗る女性が教師としてやって来たって!! 今日やってきた引越し業者の人に、綺麗な女の人が二人も一ちゃんの家に!!」


 そう言われて俺は焦る 。

 というかこいつはウチの玄関先を四六時中監視でもしてたのか……?


「それは確かに事実ではあるのだけれど」


 どこからか包丁を持ち出して来そうな水無月の態度ビクビクしながらも、かくかくしかじかと 一はこれまでの経緯を説明する。


「なるほど」


 と水無月は納得してくれたようだった。

 だがその後、


「ならばやっぱり私と結婚すればいいんですよ!」


 と自信満々の顔で言い放った。


 いや、無理だって。


「だからなんで俺とお前が結婚しないといけないんだよ」


「だってその人のことは別に何とも思ってないんですよね。

 でも私はあなたのことが好きなんです。

 だから結婚しましょう」


 いや、意味が分からん。


「そんな理由で決められても困るんだけど……」


「じゃあ他にどんな理由があれば良いんですか」


「そうだな……例えばお互いをよく知ってから決めるとか」


「わかりました。では、これからよろしくお願いしますね」


「いや俺の話聞いてたか?」


まったく話が噛み合っていない。

今も陶然と、危うげな空気を放つ時雨を見て思う。



……どうしよう。一気に厄介の種が3つに増えた、と。

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