第35話 モンスター
「————はぁ? 幽霊を呼ぶ?」
小宮は翌日、七森から提案された内容を他の教師や教頭にも相談した。
もちろん小宮以外の誰一人として、本当に幽霊がいるだなんて思っていないため、最初はみんなとても嫌そうな顔になる。
しかし、問題を起こしている一部の生徒の扱いに困っていたのは事実だった。
彼らはわかっているのだ。
自分たちなら、何をしても大丈夫だと。
モンスターペアレントと職員の間で呼ばれている両親の元で育ったせいで、彼らもまたモンスターになっている。
何よりも自分たちの世間体が大事な両親の前ではとてもいい子供を演じているが、学校ではおとなしい生徒たちを何人もいじめて、不登校や他校へ転校まで追い込み、今年入ったばかりの新任教師も、彼らのおもちゃにされて心を病んでしまい自主退職。
学校側も原因が彼らにあることはわかっているのだが、こちらが注意や指導を行っても、体罰だと彼らの親が乗り込んでくる。
彼らの親は、国会議員や警察官僚、弁護士など……とにかく厄介だった。
特に自分たちの子供の教育をろくにできていないくせに、教育関係の仕事をしているのが一番タチが悪い。
何度、彼らが学校でしていることを説明しても「うちの子がそんなことをするわけがない」「その子が嘘をついている。うちの子は悪くない」「この学校の教育に問題がある」などと、取り付く島もないのだ。
あまりに面倒であるからこそ、関わりたくないと下っ端の小宮に彼らの対応は押し付けられているのが現状だった。
「確かにまぁ、幽霊を見たら流石にあそこにはいかなくなるとは思うけど……」
「そうね、まぁ……やってみてもいいんじゃない? だって、あれでしょ? お化け屋敷とかにいるプロの役者さん?を呼ぶってことでしょ?」
「結局あの旧校舎、人は死んでるけど、幽霊の話は噂だけで実際に何か見たって人はいないわけだしね。まぁ、いいんじゃない?」
誰も幽霊の存在なんて信じてはいない。
それでも、あのモンスターたちに灸をすえられるならいいのではないかという結論になった。
「ただし、準備は小宮先生一人でやってよ。うちら忙しいから」
「そうそう。小宮先生は部活の顧問もしてないしね」
波風を立てたくない主義の校長も許可を出して、小宮は明石家あやかし派遣事務所に連絡をした。
*
「休んでいいって言ったのに、仕事を取ってきたの?」
「たまたまですよ。困っていたみたいだったんで……」
環はオトメから事情を聞いて、いつの間にか営業までできるようになっている七森に感心する。
「それに、その一部の厄介な生徒————教師の間では
「M4?」
「Mは問題児だとか、モンスターとかって意味だそうです」
「ああ、なるほど」
「彼らの話を聞いたていたら、進藤のことを思い出したんです」
七森は小宮から彼らの行動や親のことを聞いて、高校時代の同級生だった進藤のことを思い出したのだ。
進藤は一人で色々とやらかし、救いようもないクズだったが、そのモンスターたちはまだ連んでいるというだけで可愛げがある。
人殺しまではしていないだろうが、話を聞けば聞くほど、将来そういう方向に向かいそうな予感しかしなかった。
「これ位以上、他人に迷惑をかける前に、ちゃんと止めてやらないとなって————」
七森はとても愉しそうに、どうやって驚かすか考えた案を環に話す。
「なんでも、無理やり肝試しをさせられて、怖くて漏らした子がいたそうで……その時の映像を録画されていたってことがあったみたいなんで……こちらもカメラを仕掛けてばっちり録画もしようと思います!」
幽霊を見た恐怖に怯えている表情を想像しただけで、七森は愉しくてたまらない。
「いいね、さすが七森くんだ。君は本当に、僕が見込んだ通りこの仕事が向いているよ」
「はい、俺もそう思います!!」
褒められて嬉しい七森は、旧校舎に派遣するあやかしの選定にも力をいれる。
あやかしたちも七森にとても協力的で、何体か姿を見せずに旧校舎に潜めていたため、M4と呼ばれている生徒たちが旧校舎にたむろする時間帯まで割り出す。
もともと亡霊の噂があった旧校舎にはプロのあやかしが集結し、お化け屋敷と化した。
「七森ちゃんが初めて取ってきてくれた仕事だもの! 頑張るわよ!」
「おーっ!!」
「私たちの恐ろしさを見せつけてやりましょう!」
「おーっ!!」
トイレの花子さんを中心に、あやかしたちは団結。
無数の隠しカメラに完璧なあやかしの配置。
モンスター退治が始まる。
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