或る男と6月と自公政権

@sokisoba9

第1話

これは或る男の友情の物語である。


男には、友達がいた。男と友達は生まれた時からずっと一緒だった。友達は暗い奴だったが、周りの人のことを影から支える良い奴だった。「祝日が無い」「雨が多い」とかいって周りの人には嫌われていたが、男はそんな友達───6月のことが好きだった。確かに夏休みのある7月8月の方が好きだけど、それでも6月のことは良い奴だと思っていた。

けれど、男も大人になった頃、6月は変わってしまった。普段はジメジメしていて蒸し暑いけれど、晴れた夜には初夏の名残りのような涼しい風が吹き抜ける───6月はそんな奴だった。なのに。最近の6月ときたら雨も大して降らなければ昼も夜も一日中暑いまま。6月の無二のパートナーだった梅雨も愛想を尽かして出ていくようなことも出てきた。初夏の名残りも何も無く、自分も夏の一員かのように太陽が燦々と照らす、6月はいつしかそんな奴になってしまった。6月が梅雨に愛想を尽かされたせいで例年のように水不足が発生し、かと思いきやそれを取り返すかのようにに9月で台風が大暴れ。そのせいで甚大な水害も最早毎年のように巻き起こるようになってしまった。

「お前、一体どうしちまったんだよ…」

男は変わってしまった6月の背中にそう独り言を投げかける。男には分かっていた。こんなことになっているのは、6月がおかしくなっちまったからだと。だが、男には6月がおかしくなってしまった理由が、分からなかった。男が変わってしまった友人に対しできることなど、何一つ、存在しなかった。


そうして、6月が変わってしまったまま迎えた2022年。今年の6月は特におかしかった。何がなんでも暑すぎる。梅雨だというのにろくに雨も降らないまま6月中に梅雨があけ、まるで8月の猛暑シーズンのように昼も夜も猛烈な暑さが列島を襲った。そんなおかしくなったまま、6月は今年も去ろうとしている。男は、我慢できずにそんな6月に声をかけた。

「お前、最近おかしいよ。」

「そんなことないだろ、いつも通りだ。梅雨の奴にはちょっと…愛想を尽かされちまったらしいがな。」

あくまでいつも通りだと6月は言い張る。かつてのジメジメしていながらも影からみんなを支えていたあの頃の6月の面影は、そこにはもう無かった。男は悲しかった。なぜ、何故こんなことになってしまったのか。悔しかった。どうして、俺にはこの6月に何も出来ないのか。そんな、何年間も抱えてきた思いが、その6月の生気のない背中を見て決壊した。

「お前、一体どうしちまったんだよ。これじゃまるで休みの無い8月だ。お前、なんでこんなことしてんだよ!!皆……皆困ってるんだぞ!!昔の、2人で雨の中を駆け回った、あの頃のお前が必要なんだよ!!」

言って、しまった。6月は振り向くことも無く男の声を聞いていた。重苦しい沈黙がその場を支配した。男には分かっていた。言ってしまったら、もう戻れないのだと。それでも、言いたかった。言わなくてはならなかった。6月の、為に。

長い沈黙の後、6月がゆっくりと口を開いた。

「…俺だって、したくてこんなことしてるんじゃない。」

「じゃあ、なんで──」

「俺だって、あの頃の自分に戻りたい。でも無理なんだ。俺の体は俺じゃコントロール出来ない。いつの間にか、だんだん勝手に暑くなってきてたんだよ。お前らの、せいじゃないか。お前ら人間が、どんどんこの星を暑くするから、俺もどんどん暑くなる。そのせいで梅雨には愛想を尽かされるし、皆には嫌われる。俺だって……俺だってもう嫌なんだよ!!──頼むよ、俺を、誰か俺を助けてくれ」

6月の悲痛な叫びが、男の胸を打った。人類が、かつて愛した友をこんなにも苦しめているというのか…。この国が、世界が、そして何より自分が許せなかった。

「ありがとう。君だけでも、俺を責めずに俺の話を聞いてくれて、嬉しかったよ。次の7月には、そんなに暑くならないように伝えておくから。これからもきっと暑いけど、頑張れよ。」

6月は去ろうとしている。全ての責任を負って、誰にも愛されないままに…。男が6月の為、友の為ににできることは何も無いのか。男は考えに考えた。そして、ある1つのアイデアが浮かんだ。これを実行すれば男は破滅するだろう。しかし男は、それでも決意した。───友の為、人類への叛逆を。

「6月よ、あと少しだけ待っていろ。必ず、俺が少しでも変えてみせるから。」

男はそう言って、飛び出して行った。


時は2022年6月30日、参議院選挙を目前に控えた日本では選挙戦が加熱していた。そんな中、岸田節電ポイントを小脇に抱え海老名の町を疾走する謎の影が1人───そう、これこそが人類への叛逆を決意した男。またの名を、全裸中年男性である。

全裸中年男性は一糸纏わぬ姿で海老名駅に駆け込むと、駅員を薙ぎ倒し千代田線直通の小田急線に飛び乗った。目指す先は大手町、首相官邸である。当然次の駅で車掌と駅員が総出で捕らえに来るももはや彼を止められる者はいない。降りるまで電車が動かないと察すると、全裸中年男性は自ら電車を飛び降り線路へと降り立った。そして高架を飛び降りて向かった先は自民党の選挙カーである。彼の敵はこの国、世界。そしてこの国を今支配しているのは自公政権である。そう、彼は自公政権をこの参議院選挙で打倒することに決めたのだ。自民党の選挙カーを奪取しメガホンを最大音量にして地球温暖化対策を訴えながら神奈川の街路を疾走する。ついでに全裸中年男性の人権保護も訴える。彼は今、無敵だった。

やがて東京に入ると、パトカーの数が増えてきた。対向車線から止めに来るパトカーを全て引き潰してきた全裸中年男性だったが、そろそろ撒くのも引くのも厳しい台数だ。全裸中年男性、万事休すかと思われたその時、渋谷のスクランブル交差点に差し掛かった。彼は即座に決意し、車を急回転させると同時に運転席のドアを開け放ち空へと飛び立ち、ハチ公像の上に着地した。これが忠犬ハチ公ならぬチン犬中年男性である。チン犬中年男性はすぐさま地面へと降りると、凄まじいスピードで走り出した。友への約束に燃える彼は今、無敵だった。風を切り、風よりも早く彼は走った。誰も彼に追い付けなかった。凄まじいスピードで山手線を横断すると、首相官邸へと辿り着いた。ちょうどNATO首脳会議を終え日本に帰ってきた岸田文雄。その前に突如現れた汗だくの全裸中年男性。気温は31°C。先に仕掛けたのは全裸中年男性だった。大ジャンプで岸田の前に飛びかかると、そのまま全裸中年男性の全裸中年男性を岸田に見せつけ叫んだ。

「地球温暖化の全ての根源、自公政権へ制裁を!!!そして全裸中年男性に人権を!!!」

しかし次の瞬間、全裸中年男性は岸田のSPに取り柄さえられ、全裸中年男性の全裸中年男性も隠されてしまった。しかし男は叫ぶことをやめなかった。

「見たか!!!これが自公政権の正体だ!!!表現の自由を抑圧し、我々を押さえつけんとする!!!こんなことを許していいのか!!!全国の全裸中年男性達よ、叛逆せよ!!!」

全裸中年男性の叫びが虚空へと消える。その後、全裸中年男性は普通に警察に引き渡されていった。しかし、彼は守ろうとしたのだ。そのために戦ったのだ。友を、そして己の誇りを。その全裸中年男性の姿に、今まで抑圧されてきた全裸中年男性たちが間もなく声を上げるだろう。自公政権の終わりと全裸中年男性政権の始まりはすぐそこにある。同士諸君、選挙へ行くのだ。7月10日投開票、第26回参議院議員普通選挙へ投票に行こう。

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