Day3『かぼちゃ』

 力を込めて包丁を下ろすと、ざんっ、という小気味良い音が響いた。かぼちゃはとても硬いから、最初に実を大きく切る、この作業が一番ドキドキする。(カボチャの皮なんかより、押さえているこの指の方が、ずっと柔らかくて脆いだろう)

 中身は秋色に沸くようなオレンジ色。日暮れの空の色、紅葉の色。その中から、柔らかなわたをスプーンでくり抜き、取り出す。種だけはそこから救出する。洗って天日干しにしておけば、何かと役立つ食材になるから。

 何はともあれ、今はこのオレンジ色をどうにかしなければならない。煮込んでスープにしてもいい、オーブン焼きも美味しそう、かぼちゃプリンなんて手もある。

 組み合わせるのはきのこにしようか。玉葱で甘さを加えようか。いやいや、チーズを掛けるのも……。

 トントン、と爪先で床を叩くのは、別に苛々しているからじゃない。むしろ逆。

 こうして、何にでもなれる可能性、を前にしている時が、一番ワクワクするじゃないか。

「ねぇ、ごはんまだ?」

 ……と、贅沢な悩みに浸っている場合じゃない。さてさて、手を動かさなくっちゃ! 他の食材の在庫との兼ね合いとか、賞味期限の日付とか。秋の香りにワクワクするのは、食べ始めてからでも遅くはない。

「今の内に、テーブルの上を片付けておいてね」

 そう声を掛けながら、包丁をまな板に向ける。

 ざんっ。再び、瑞々しい音が響く。

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