Day2『屋上』

 バタン、と背後で扉が閉まる音がした。駆ける足音が遠ざかり、階段を上がっていく気配がそれに続く。

 屋上に泣きに行ったのだろう、と分かる。彼女には昔から、そういう癖があった。悲しいことがあった時には、屋上や、上階の誰も居ない踊り場で泣く。窓を見れば、美しい快晴だ。そんな日には、広い空を見ながら泣きたくなるのだろう。なるべく空に近い場所で、一人になりたくなるのだろう。

 落ちはしないか、とひやりとすることもある。そういう含みも持たせているのだろう。けれど私は、彼女が決してそういう自暴自棄を起こすタイプではないことも知っている。

 ……付き合いが長いからこそ。そしてだからこそ、こういうとき、何をするべきかわからない。

 追いかければいい? 今更何を言えばいいんだ。

 慰めればいい? それも悔しいじゃないか。

 ……悩みですらない、ぐるぐるとした感情の坩堝。ぐしゃりと自分の髪を掻く。

 仲の良い親友として、あまりにも長く時を過ごしすぎて、決定打を欠いた末路なのだろう。そう思うと、少しばかり気が晴れた。

 椅子を引いて、立ち上がる。憂えるふりは、もう止めよう。

 彼女に会いに行こう。

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