第28話「恋のライバル」1/2
「小倉さん、ごめん! オレ、嘘ついてた!」
登校するなり、事前にラインで呼び出していた小倉さんと裏庭で会い、深々と頭を下げた。
「オレ、森のこと好きなんだ。だから、小倉さんのこと応援できない」
顔を上げ、驚いたまま固まっている小倉さんの顔を見ながら、もう一度「ほんとごめん」と言った。
「・・・立川くん」
「・・・」
沈黙が数秒流れる。
「・・・告白された子がいるっていうのは?」
恐る恐る聞く小倉さん。
「・・・それは本当。付き合おうと思ってたのも本当。昨日までは。でも・・・断った。友達からでいいって言ってくれたし、それに乗っかろうと思った。けど、結局また周りに合わせてる自分に気づいたんだ。ていうか、周りをいいわけにして逃げてのかもなーって」
はははと情けなく笑う。
「・・・立川くん」
「・・・小倉さん」
「じゃー、推し仲間で、恋のライバルだね! 私たち」
ニコッと微笑む。
「え」
「わ、私も森くんのこと好き・・・みたい。ずっと推し活してたから気づかなかったのが鈍感だよね。立川くんに言われて気づくなんて」
小倉さんも情けなく笑う。
「いや・・・そんなことないよ。気づかないもんだって」
「そう、かな?」
「うん」
「そっか」
「うん」
「でもどうして考えが変わったの?」
「え! それ聞く?」
「教えて! もしかして森くん?」
「・・・まぁ、そんなところ」
「そっか~」
「はぁ~、オレって単純だよな。報われない恋だとわかって飛び込むなんて」
「なんで? そんなことないよ!」
「・・・暴露してなんだけど、森は小倉さんのこと気になってると思うよ」
「そ、そそそんなことないよ!」
あわてふためく小倉さん。
「スポーツ大会後、やたらと良い雰囲気だし。オレなんか男だし」
「そ、そんなことないよー! それだったら森くんと立川くんの方がバスケの練習以来すっごく仲良しだよ! もう、やけちゃうくらい!」
「いやいやいや、それは男の友情育んでるだけですから。森って男子校だったし、部活のせいか絡みがフレンドリーっていうか。とにかく、男ってだけで安心しきってるていうか」
「逆に羨ましい!」
「・・・小倉さん」
「私なんて未だに距離感あるもん!」
「いやいやそんなことないって! ていうか、それ完全に意識されてるから!」
「えー! それだったら立川くんの方が・・・」
お互い目が合って、プッと吹き出して笑い合う。
「えーと・・・オレ、男を好きになったんだけど、引かないの?」
「引かないよ。だって立川くんは森くんのこと好きなのかな? てなんとなく気づいてたから」
「それ! なんで気づいたの? この前、小倉さんが言おうとしててオレすっげーテンパっちゃったし」
「なんとなく? でも、立川くんていつも装ってるからわかりづらいかも」
「・・・やっぱ装ってるのわかる?」
「うん、あ、でも、そうなのかな? てくらいで」
「うわー、小倉さんマジ怖い」
「そ、そんな! 私は、立川くんがみんなのために良い人になろうとしてるの良いと思う! どんな時でも笑顔でいようって気持ち、素敵だと思う!」
「・・・ありがとう。なんか小倉さんに見抜かれてるって・・・あ、でも、なんか気持ち楽かも」
「そうだよ! 推し仲間で恋のライバルで、親友になれるよ!」
「・・・親友?」
「あ、ごめんね、親友はさすがにずうずうしいよね」
「そんなことない。小倉さんと親友になれるの嬉しいよ」
「私も」
オレも小倉さんも笑顔で返す。
小倉さんにうちあけてよかった。
あのまま、嘘を本当にしなくてよかった。
宮地さんのことも・・・。
「そうだ! 立川くんに友達の漫画貸すね!」
「え?」
教室に向かう廊下で、小倉さんが嬉しそうに言った。
「きっと立川くんの恋の参考になると思うの!」
それって、例のあれ・・・?!
「あーうん、嬉しいけど・・・参考・・・になるのかな?」
「なるよ! その漫画ね、森くんと立川くんをモデルにした恋愛ものでね」
「へ、へ~・・・」
小倉さん、善意で言ってくれてるのはわかるけど、マジで怖い!
「私もそれ読んで、好きに男子も女子も関係ないんだって思えたの! あ、大丈夫、そんなに過激じゃないから」
過激・・・?
「あ、ありがとう」
オレの笑顔が引きつる。
「明日必ず持ってくるね! あ、あと、友達に他に良さそうな漫画も借りとくね」
「う、うん」
やっぱり、小倉さんに打ち明けるのは間違いだったかも・・・。
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