第29話「恋のライバル」2/2

 小倉さんに本音を打ち明けたら気が楽になった。

 宮地さんとは、本人の希望で普通に接してほしいと言われて挨拶と会話をする仲になった。(宮地さんから話しかけてくることが増えた)


 オレはまた森くんと小倉さんの3人で勉強することにした。

 小倉さんとは前よりもっと森くんについていろいろ話すようになって毎日が楽しい。

 ことあるごとにラインしたり、家ではリモートしながら勉強したり。(勉強そっちのけで森くんの話で盛り上がっている)

 お互い恋のライバルだけど、戦友? みたいな感じだ。

 抜け駆けなんてしない。

 森くんと帰る時は途中まででも小倉さんを誘うし、小倉さんもオレを誘ってくれる。

 森くんについて何か情報をゲットした時はお互い必ず知らせる。

 小倉さんはオレにとって、良き恋のライバルで、推し活仲間で、親友・・・。



「・・・え?」

「だから、小倉さんとは付き合ってるの?」

 登校早々、顔も知らない女子3人に声をかけられ質問される。

「えーと、同じクラスメイトだけど。なんで?」

「それだけ? 最近よく一緒にいるし、すごく仲良さそうだよね」

「私の友達、ふたりが下駄箱で待ち合わせしてるの見たことあるの」

 気の強そうな女子がスッとスマホの画面をオレに見せる。

 まるで、刑事が容疑者らしき人間に尋問してるみたいだ。


 映ってるのは確かに小倉さんとオレだ。でもこれ・・・。


「嫌がらせか何か? 腕しか映ってないけど、オレの隣にもうひとりいるんだけど」

「え!」

 3人がたじろぐ。

 オレはニコッと笑顔を貼り付け、

「気持ちは嬉しいけど、勝手に思い込む子は好きじゃないんだ」

「な、なによ! ちょっと顔がいいからって」

「バスケ下手なくせに」

「ほら~やっぱり勘違いだった・・・ご、ごめんね」

 それぞれ思い思いの言葉を言い残して去って行く女子3人に、オレは笑顔で見送った。

 口から見えない血を吐きながら。


 顔のことは言われ慣れてるからいいけど・・・バスケは下手じゃない! あの時は情緒不安定で・・・。


 ため息を吐きながら教室へと向かう。

 小倉さんと仲良くしてるのが仇になってしまった。

 周りの言うことは関係ないと言い切っちゃえばいいけど、あーゆー子たちがオレに直接聞いてくるばかりとは限らない。

 小倉さんに嫌な思いはさせたくない。

 普段だったらもっと穏やかな言い方をするけど、さっきはちょっときつい言い方をした。


「・・・オレ、ちょっと変わった?」

 成長したかもしれない自分に気づいて、ひとりでドヤ顔をしてみたり。


 それにしても気をつけよう。

 噂になるならオレと小倉さんじゃなくて、オレと森くんだ!


「・・・いや、それはそれで困る・・・かも」

「さっきからなにぶつぶつ言ってるんだよぉー!」

 夏木がドンッと突撃してきた。

「べ、べつに!」

「朝から暑いよなー。まだ梅雨も明けてないのに。見てよ、朝から飲み物買っちゃったよー」

「暑いのにテンション高っ。 暑いっていうかムシ暑い」

「飲む? コンビニで売ってた新作もの。カフェオレに香り付きって」

 ケラケラ笑う、夏木。


 相変わらず何がそんなに笑えるのか。

 ペットボトルを向けられ、迷わず受け取る。

「確かに・・・なんかバラの香りがする」

 スンスンと匂いを嗅ぎながらひとくち飲む。口の中にカフェオレの味がしたと思ったらバラの香りがあとから鼻に抜けて嫌な気分だ。

「・・・まずい」

「えーそうかなぁ? 俺はいいと思うけど」

「マジで? ないだろ、これ」

「そぉ?」

 夏木にペットボトルを返す。ふと誰かの視線を感じて前を向くと、ちょうど教室の前に森くんがこっちを見ながら立っていた。


 心なしかネコ目がつりあがって攻撃的に見える。

 機嫌・・・悪い?

 オレ、何かやらかしたかな・・・。


 頭の中で検索をかけるけど特にこれといって思い当たることが見つからない。

 緊張しながらも森くんに挨拶をする。

「おはよう、森。教室入らないの?」

「・・・」

 ふぃっと視線を外してそのまま教室に入っていく森くんにガーンと心の中でショックを受ける。


「あー・・・立川、オレ、自分の席に行くな! 今日からテストなのに昨日さっさと寝ちゃってさ! 今から教科書の内容全部詰め込まないと!」

「え! 今から?!」

 驚くオレに「じゃーな!」と軽く手を振って夏木はそそくさと自分の席へと行った。


 もしかして、また森くんから逃げた?

 それにしてもオレ、森くんに嫌われるようなことしたかなー。(マジへこむ)

 

 席に着くなり森くんにラインで聞いてみる。だけど既読スルーされ、地味にへこんだ。

 チラッと森くんに視線を向けると、小倉さんと森くんがしゃべっている最中だった。

 どんな会話が繰り広げられてるのかわからないけど、ふたりとも楽しそうだ。

 ふたりが楽しそうにしゃべっている時はオレはあの輪の中に入れない。


 3人といる時、いつも感じるのが疎外感だ。

 もちろん、小倉さんも森もオレのこと邪魔だなんて思ってないと思う。けど、オレは一緒にいちゃいけないんじゃないかって気持ちになる。

 普通なら、ここでやきもちをやくところなんだろうけど・・・きっと、オレの中で小倉さんと森くんがお似合いのカップルだって思ってるから。

 というか、どうみてもそうだ。

 だから今朝の女子3人がオレと小倉さんの中を疑うのだってどこに目をつけてるんだって思う。

 でも・・・。

 森くんが無邪気に笑ってるのを見て、心がモヤッとする。

 

 オレが自分の気持ちと葛藤してるあいだにふたりはまた距離を縮めた気がする。

 小倉さんと仲良くライバルごっこしてていいのか? オレ。

 このまま、ふたりがくっつくのを笑って横で見てられるのか? オレ。

 なんのために覚悟を決めたんだよ、オレ。


 グッと拳に力を入れる。

 

 よし! 決めた。

 ここはライバルとして、オレも森くんともっと距離を縮められるように頑張る!


 決意したところで、担任の教師が教室に入ってきた。

「席につけー! テスト始めるぞー!」


 ヤバイ、その前に期末テストだ・・・。

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