第27話「覚悟を決めた」
ゆっくり深呼吸をする。
決めたことが揺るがないように、朝のうちに宮地さんに会いに行って放課後返事をする約束をした。
でも、ちょっと失敗した。
昼休みにすればよかった。
おかげで、朝からずっと緊張しっぱなしで授業に集中できなかった。
スマホを覗くと、約束した場所でもある2階の渡り廊下のベンチに座ってから5分経過。
ヤバイ、緊張しすぎて待つ時間が長く感じる。
告る時ってこんな感じかな。
「立川?」
ふと声をかけられ振り返ると森くんが自動販売機の前に立っていた。
心臓がドキリと跳ねる。緊張してる手前、強く胸に響く。
「何してんの? 鞄ないからもう帰ったのかと思った」
森くんは自動販売機のボタンを押してコーヒー牛乳の紙パックを買って当然のようにオレの隣に座った。
ストローを穴に刺してる森に気づかれないように、座る位置をずらしてそっと距離をとる。
もうひとつ失敗!
裏庭にしとくんだった!
1年の教室がある方へと視線をチラ見しながらハラハラする。
今、宮地さんが来るのは非常にまずい!
つーか、気まずい!
森くんがいる中で告白の返事なんてしたくない!
「立川? 聞いてる?」
コーヒー牛乳を飲みながら森くんがオレをじっと見つめる。
「え! あ、うん! 聞いてる聞いてる! ちょっと人待ち」
笑顔を貼り付けるけど、完全に引きつってる。
「誰? 夏木? 最近よく一緒に帰ってるよな。テスト勉強も一緒にやってんの?」
「え?」
「誘っても来ないじゃん。ラインもなんか前よりそっけないし」
「そ、そんなことないよ! 昨日もラインのやりとりしたじゃん! えーと日本史でポイントになるところ教えたはず」
「あーやだやだ。過去知ってどうするんだよって話だよな。もっと未来のこと考えよ?」
「・・・。森ってほんと、社会全般嫌いだよな」
「嫌いなんじゃない。勉強する意味が見出せないだけ」
ムスッと機嫌を悪くする森くん。
クスッと笑いが出る。
一緒にいるとドキドキして苦しいのに・・・。
一緒にいて楽しいと思うなんて、矛盾してる。
「そのコーヒー牛乳ってさ」
「ん? あーこれ。この前立川から貰ったやつ。味がけっこう好みだったから最近ハマってる。飲む?」
ストローをこっちに向けられ、ドキリと心臓が跳ねる。
「いやいい。ていうか、もうないでしょ。けっこう飲んでるでしょ」
「・・・バレた?」
案の定、紙パックを振ると入ってる音すらしない。
内心ホッとする。
紙パックをゴミ箱に捨てに行った森くんはそのまま教室へ帰るかと思ったら当たり前のようにまたオレの隣に座った。
「今日、また立川んち行っていい?」
「え! 今日?! また?!」
「あのトレーニング室病みつきになるんだよな」
「・・・今日は無理」
「じゃー明日」
「無理。今、タツ兄のサークルの仲間が泊ってる」
「マジか。ちぇ」
ムスッと不機嫌になる森くん。
「それっていつまで?」
「・・・え」
ネコ目がオレをじっと見てくる。
「えーと・・・あ、そーだ! 森に聞きたいことがあるんだけど」
「・・・何?」
「・・・同じ男・・・」
「男?」
「・・・あ・・・いや、同じ人を好きになったらどうする?」
「・・・は?」
「な、夏木がさーなんか友達と同じ子を好きになったかもーって悩んでて」
ははははと笑ってごまかす。
うちに来る話をどーにかそらしたい一心で振った話題がこれかよ、オレ!
しかも、『同じ男を好きになったらどうする?』て聞こうとした?
自分の口が怖い!
森くんは興味なさそうにオレから視線を外してベンチにもたれかかった。
「とりあえず頑張る」
「・・・え」
「後悔したくないからやれることはやる」
「・・・勝算がなくても? 無駄ってわかってても?」
「無駄ってなんだよ。無駄なもんなんてないだろ。試合は終わるまで結果なんてわかんない。先に負けを決めつけんな」
「・・・」
真剣な森くんの表情にクスクスと笑いがこみ上げてくる。
「バスケの話じゃないって」
「あ、そっか。ていうか、立川が勝算とか言うから」
「ごめんごめん。でも、夏木に伝えとく」
「なんでだよ」
ボスッと腕に拳を当てられ、オレは笑いながら痛がった。
森くんのこうゆうところも好きだなぁ。
オレはベンチから立ち上がり、
「森ってバスケバカだよな」
「・・・うるさい」
ムスッと不機嫌になる森くんだけど、耳が少し赤い。
「オレ、もう行くね」
「夏木待ってるんじゃなかったのか?」
「来ないから迎えに行くことにした」
森くんに笑顔を向けてから1組の教室へと向かった。
森くんの一言がオレの中で決定的になった。
覚悟が決まった。
もう、揺るがない。
1組へ行くと、宮地さんは日直の仕事をしていた。
待てせてることを謝ってくれる宮地さんに、オレは告白の返事をした。
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