第26話「新しい恋」2/2

 放課後、同じ美化委員の女子に裏庭へと呼び出された。

 てっきり美化委員で雑用を押し付けられたのかと思ってホイホイ付いてきてしまったが、雰囲気的に委員会は関係なさそうだ。


 オレの目の前に立ってさっきからうつむいてる女子は、確か1組の宮地さん。

 身長や髪の長さなど背格好は小倉さんに似ている。気持ちスカートの丈が短いとかリップを塗ってるけど大人しそうで清潔感がある。

 

 多分・・・いや、予想はつく。

 でも正直、委員会は一緒だから挨拶はしたことあるかもしれないけど、名前をギリギリセーフで覚えてるくらいでほとんど知らない。

 

「あの!」

 突然顔を上げ、オレと目が合う。

「私、1組の宮地です。美化委員で何度か一緒に作業したり、話もしたことあって・・・。委員会の伝言で立川くんの教室に何度か行ったこともあって」

 耳まで真っ赤にしながら話す宮地さん。

 

 もうこれは確信だ。

 というか、挨拶くらいしかないと思っていたけど、どうやらオレが忘れてるだけでそれなりに交流はあったみたいだ。

 ヤバイ、全然覚えてない・・・。


 顔が赤い宮地さんとは逆に顔色がどんどん青くなるオレ。

「あーうん、ちゃんと覚えてるよ、宮地さんだよね」

 引きつりながらも笑顔を貼り付ける。

「は、はい! よかったぁ。私、印象薄いみたいで。よく忘れられてることが多くて」

 嬉しそうに微笑む宮地さんにオレの良心がチクッと痛む。


「えーと、今日はどうしたの?」

「あの・・・期末テスト前なのにすみません。テスト後だと学校休みに入っちゃうから今くらいしかないかな~と思って。それに、どうしても勉強に集中できなくて」

「・・・うん」

 小倉さんみたいにモジモジしてなかなか本題を切り出さない宮地さん。

 緊張してるのも伝ってくる。

 なんだかオレまで緊張してきた。


「・・・あの、一緒に委員会やって立川くんのこと知れて、その、もし、もしよかったら付き合ってくれませんか?」


 言った。

 やっぱり告白だ。


 上目遣いがちの瞳が潤んでる。

 計算でやってるんじゃなく緊張と素でやってるんだと思う。


 


「・・・えーと」

「あの! 両想いだなんて勘違いはしてないです! 決して! なので、もしよかったら友達からでもいいので!」

「・・・友達?」

「お付き合いしながら好きになってもらえたら・・・。最終的に私のこと好きになってもらえたらそれで十分なので! なので・・・前向きに考えてもらえたら嬉しいでっす! お願いします」

 深々と頭を下げる宮地さん。

「・・・うん、わかった。考えてみる」

「ありがとう! ございます!」

 ニコッと満面の笑みを残して、校舎に戻って行った。


 その場に残ったオレはベンチに座るなりため息をつく。


 勢いがすごくてつい『考える』なんて返事しちゃった。


「うわー、どうしよう」


 高校に入って告られたのは今日が初めてだ。

 アピールはよくされるけど、入学してまだ3か月くらいで告白する子はいなかった。

 

 緊張してたな。

 大人しそうな子だったし、友達からなんていうから自分なりにいろいろ考えて勇気出したんだろうな。


 告られたことは何度もあるけど、自分からしたことはまだない。

 だから、どれだけの勇気をふり絞ってくれたのか・・・。

 ありがとうくらい言っとけばよかった。

 

「すごいな」


 思わず口からこぼれる。

 

 オレは森くんに告る勇気なんて全然ない。

 告るどころか距離とって逃げてるし。

 逃げる?

 オレがとってる行動って逃げてることになるのかな。

 

「・・・」


 考えたところで出てくるのは一文字。

 森くんは男でオレも男ということ。

 告る以前の問題だ。


 はぁーっと重いため息がこぼれる。


 スマホが振動し、画面を開くと夏木からのラインだ。

『おーい、どこにいるんだよぉ。今日もファミレスで勉強しようぜ!』

 はぁーとまたため息がこぼれる。

 

 夏木には悪いけど、今日はひとりで勉強したい。

 宮地さんのことも考えたいし。

 

 断りのラインを送ってベンチから立ち上がり校舎の中へ入る。


 階段を上っていると、下りてくる小倉さんの姿が。

「立川くん!」

「・・・小倉さん、偶然だね」

 小倉さんの声が1オクターブ上がるのに対してオレの貼り付けた笑顔が引きつる。

「あ、これから森くんと図書室で期末テストの勉強するの。立川くんも一緒にやらない?」

「あー・・・ごめん。夏木と約束してるんだ」(嘘です。断りました)

「・・・そっか。残念」

 本当に残念そうに微笑む小倉さんに、良心が痛む。


「ごめんね、また今度一緒に勉強しよ!」

「うん、そうだね」

「・・・じゃぁ、森と勉強、頑張って!」

「ありがとう」

 いたたまれず階段を二段ぬかししながら上っていくと、小倉さんに呼び止められる。


「立川くん、ちょっといい?」

「・・・何?」

 駆け寄ってくる小倉さん。

「その・・・私の勘違いかもしれないけど・・・」

 うつむきながらもじもじする。

「・・・うん?」

「最近・・・立川くん元気ないなぁと思って。声かけても断られること多くなったし、ラインしても前みたいに反応が薄いっていうか・・・」


 え・・・!

 ヤバイ、気づかれないように距離をとってるつもりだったけど、バレてた?!


 思わず貼り付けた笑顔が崩壊する。

 立て直そうにもうまくいかず、

「小倉さんの気のせいだよ! 最初の期末テストで気合入りすぎてるのかも! なんか心配させちゃってごめんね」

 声だけテンションを上げてみる。

「・・・ううん、私こそ考えすぎちゃってごめんね」

「オレのことは気にしなくていいから。あ! 森と距離縮めるチャンスだよ小倉さん!」

「た、立川くん!」

 茶化されて小倉さんの顔が赤面する。


 まだ、小倉さんから森のこと好きだって言われてないけど、この態度を見ればまんざらでもないのは誰だってわかる。

 茶化したのは自分なのに、ツキッと胸が痛む。


「あのね、立川くん・・・私の勘違いかもしれないけど・・・その」

「うん?」

 小倉さんの瞳がさ迷う。

「もしかして、立川くんも森くんのことす・・・」

「オレ! さっき1組の子に告られたんだ」

「・・・え・・・」

 きょとんとする小倉さん。

「委員会で一緒の子なんだけど、前から良い子だなーって思ってて。話しやすいし気も合うなーって。だから、付き合う、と思う。その子と」

「え・・・え! そうなの! わ、わーごめんね、私なんか勝手に勘違いしてて」

「あーううん」

「森くんとすごく仲良かったし。それに・・・友達の漫画の読みすぎかも~」

 赤面しながら小倉さんが反省する。


 友達の漫画ってあの、例の・・・。


「あ、そーだ! 期末テストが終わったら4人で遊びに行こうよ。ダブルデート! オレ、小倉さんのこと協力するし」

「だ、ダブルデート!! それだったら夏休みは?」

「いいね! じゃー夏休みにどっか行こう! 遊園地とかかなー」

「森くんにも聞いてみるね!」

「うん、よろしく。じゃぁ、また、明日!」

「うん、また明日」

 小倉さんと別れて一気に階段を駆け上り教室へ向かう。


 息を切らしながら誰もいない教室へ入ると、窓側へと行き壁に寄りかかりながらしゃがみこむ。

「あー最悪」

 

 マジで小倉さん怖い。

 どうゆう思考回路してるんだ。

 オレが森くんのこと好きなんて、なんでバレるんだよ。

 恐るべし、友達の漫画。


 焦って、ペラペラと嘘つきまくっちゃったし。

 告られたのは本当だけど、付き合うどころか断ろうと思ってた。

 前から良い子なんて、全然思ってないどころか記憶にも残ってなかったし。


「あーオレ、めっちゃ嘘つき。最低だ」

 

 宮地さんを利用した。

 どうしよう。

 ダブルデートってなんだよ。


「あー今すぐ消えたい! マジ消えたい!」

 両手で顔を隠す。


 小倉さんに心配までさせちゃったし。

 オレがもっとうまく振舞えたら。

 森くんのこと好きにならなかったら。

 割り切って友達できたら。


『次へ行け!』

 夏木の言葉がふと頭の中によみがえる。

『友達からでいいので!』

『最終的に私のこと好きになってもらえたらそれで十分なので!』

 宮地さんの言葉も思い出す。


「嘘を本当にすればいいんだ」

 パッと手を放す。


 前から思ってたけわけじゃないけど、宮地さんの印象は悪くない。

 話した感じ悪い子でもなさそうだし。むしろ、感じよかったし。謙虚なのに積極的というか根性みたいなものはあった。

 夏木のいうとおり、新しい恋をすれば森くんとまた普通に友達に戻れる! と思う。


 一度そうゆう考えになったらもうそれしか選択がない気がしてきた。

 いや、きっと良い結果になると思う。


 オレを好きな宮地さんと付き合えば宮地さんは喜ぶ。

 オレが宮地さんを好きなれば、森くんとまた普通に友達と仲良くできる。小倉さんの恋も応援できる。

 そして、小倉さんと森くんが付き合う。

 万々歳だ。


「よし、付き合う。宮地さんと」


 オレの覚悟が決まった。


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